第六十六話 小城の主
「ただいまー……あ、サリア、起きたか」
トレインカーに戻ると、サリアが食事をしているところだった。
「おかえりなさい」
「ただいまルチア。こっちは異常なさそうだな」
俺はルチアの膝の上に頭を乗せ、幸せそうなキリエを眺めながらそう口にした。
「ええ。ルゥはなにか見つけたみたいですね」
「あー、これか? あんまり読みたくないんだけどさ……」
俺は本を持った手を上げて見せた。
「おいくそ虫。その本を見せろ」
急に興味が湧いたのか、キリエが俺に命令した。
「……別にいいけど。ほらよ」
俺から本を奪い取ったキリエは、何かにとりつかれたようにページをめくり、ぶつぶつと一人でつぶやき始めた。
……よし。コイツに任せよう。そうしよう。
「サリアー! お前の故郷に行こうぜ!」
我慢できなくなったグランが、サリアに声をかける。
口の中の食事を飲み込むと、サリアは顔をしかめた。
「……嫌」
「なんで!? 故郷だろ!?」
「あのね、故郷だからっていい思い出があるとは限らないのよ? 私は……村を追い出されたようなものだから……」
……急にしんみりしてしまった。
グランもどう言葉をかけたらいいか分からないようだ。手をバタバタして分かりやすく慌てふためいている。
「別に、無理に行く必要はないさ。それより、キリエ、その本に何か書いてあるか?」
キリエがじろりとこちらを睨む。
「なんてことない。ただの愚痴が書かれた日記だ。どうやらこれを書いたやつは『ネクロマンサー』だったようだがな」
「なるほど! それで大量に骨が転がってたんですね!」
リーズが手を叩いて納得した。
「でも……そのネクロマンサーは何をしようとしていたんでしょうか?」
「『復讐』だそうだ。くだらないな」
キリエは早々に興味を失ったようだ。本を投げ捨てると再びルチアの膝へ帰っていった。
「……魔法陣」
俺の呟きにキリエがピクリと反応する。
「大量の血で描かれた魔法陣が地下にあったんだよなぁ。グランがそれでおかしくなって大変だったんだよー」
「……その魔法陣とやらの所へ連れていけ」
……かかったな。
好奇心に負けたキリエを、俺はニヤニヤと見下ろす。
「どうしようかなぁ。今までの態度を詫びれば、考えなくもないぞ?」
「死ね。お前は一生くそ虫だ」
拗ねたキリエはルチアの膝の上で反対を向いてしまった。
……攻めすぎたか。
「ねぇ、グランがおかしくなったって、どういうこと?」
すると今度はサリアが食いついた。
「サリアなら分かるかもな。ちょっと調べてほしいんだ。……あの本と一緒に」
俺は投げ捨てられた本を指さした。
「わかったわ」
……かかったな。
「それじゃ、行こうぜ。ルチア、すまんがまた留守番よろしく」
「行ってらっしゃい」
ルチアは快く俺たちを送り出してくれた。
※※※※※
そして、再び小城へやってきた。
リーズとシルとカナエは断固として来たがらなかったので、俺とグランとサリアだけだが。
「ここ……『スターチス墓地』じゃない……」
「知ってるのか?」
「この辺りに住んでたんだもの。ここは、この一帯の共同墓地だったんだけど……」
「けど?」
「しばらく来ないうちに、ずいぶんと雰囲気が変わったわね……」
「前はどうだったんだ?」
「スターチスが溢れる、美しい墓地だったわ」
……変わったってレベルか?
「あの城も、昔からあったのか?」
「……いえ、管理棟だったはずだけど……」
「なー、早く入ろうぜー」
しびれを切らしたグランが俺たちをせかす。
もうちょっと情報収集させろよ……。
「まぁいいか。行こうぜ」
俺たちは城に足を踏み入れた。
「なんだか、不気味ね……」
「まぁ、女子たちは敷地にも入らなかったからな」
「話してた魔法陣はどこ?」
「グラン、出番だぞ」
「え? 俺?」
「お前が真っ先に見つけておかしくなったんだから、道案内ぐらいしろよ」
「おい、言い方」
「早く案内してちょうだい」
「わかったよ……」
グランはしぶしぶ歩き出した。
※※※※※
「これは……異常だわ」
地下牢の奥にたどり着き、血で描かれた魔法陣を見たサリアが、青ざめた顔でつぶやいた。
「気持ちわりぃよな……」
グランも顔をしかめている。
「頭のおかしい奴が描いたんだから、そうなんだろうよ。その本で何か分からないか?」
俺はサリアに持たせていた本を指さした。
サリアは本の表紙をめくり――
「ひっ」
かすかに悲鳴をあげ――
パタン
本を閉じた。
…………。
「これ、読まなきゃダメ?」
「読まなくても分かるなら、別にいいと思うぞ?」
「サリア! がんばれ!」
「黙ってなさい! はぁ……しかたないわね」
観念したサリアは、パラパラとものすごいスピードでページをめくっていった。
「なるほどね」
「お? 分かったか?」
「ええ。……この魔法陣は、人をアンデッド系のモンスターに変化させるものみたい」
「え!?」
「グランうるさいぞ。こいつはかろうじて人間やってるみたいだけど?」
「一瞬でってわけじゃなく、時間をかけて少しずつ変質していくみたいね」
「それで、何をしようとしてたんだ?」
「……キリエさんも言ってたけど、『復讐』よ」
「……誰に?」
「私が生まれた村の連中、だって……」
「……この魔法陣はどう使うつもりだったんだ?」
「本人が……『リッチ』になるためのものよ」
「本人が!? ……あっ!」
「……なに? また何かやらかしたの?」
「またってなんだよ、またって。……ここに入る前に、『施錠』したんだけど、女子たちが『悲鳴が聞こえた』って騒いでたなーって……」
「……倒したのね」
…………。
「安らかに天に昇ってくれ」
俺は魔法陣に向かって頭を下げた……。
読んでくださってありがとうございます!
小城の主、倒してました(ノ∀`)笑
キリエも相変わらずですね( *´艸`)
しかし、サリアの村って……(=_=)
次話もお楽しみに!(*‘∀‘)ノシ




