第五十五話 黄昏長屋街
――『黒仮面』が現れるのは決まって夜らしい。
俺は一度宿に戻り、ルチアに情報を共有すると、再びカナエと街へ繰り出した。
「あの……本当にいいんですか?」
隣を歩くカナエに尋ねる。
「いいの! この街の冒険者の問題なんだから! ルゥくんだって、一人じゃ大変でしょ?」
……ごもっとも。
「ありがとうございます」
「……あのさ、ルゥくん」
「はい?」
「敬語使うの、やめて欲しいな?」
……。
「……わかった。普通に話すよ」
「うん! ありがと!」
カナエはなぜか嬉しそうに頬を緩めた。
「闇討ちに遭いやすい場所ってあるのかな?」
「うーん……ギルド情報だと、街の西側で襲われることが多いみたい」
「西ね……とりあえず向かってみるか」
「うん!」
※※※※※
街を西に進み、住宅地に入る。
道の両脇に建つ長屋は、屋根や壁が傷みボロボロだ。
空き地にはうつろな目つきでぶつぶつと呟く人影もちらほら見られた……。
「こっちの方は初めて来たけど……なんか荒んでるな……」
「そうだね……私も普段、あんまり近づかないようにしてるんだけど……この辺りは街で行き場を失くした人たちが集まってくるみたいだよ」
「……あんまり長居はしたくないなぁ」
「ちょっと、視線が痛いよね……」
俺たちが珍しいのか、よそ者を嫌うのか……興味と敵意が入り混じった視線を向けられながら進んでいると――
「おい、てめぇら。なにもんだ?」
長屋の前に座り込んでいた男に呼び止められた。
左目をけがしているのか、布がぐるぐると巻かれている。
「冒険者だよ。『黒仮面』を探してるんだ」
「『黒仮面』だと!?」
「……何か、知ってるのか?」
「最近この辺りで騒ぎを起こしまくってるクソ野郎だ!」
男は左目に手を当てて激高した。
「もしかして……その傷は、『黒仮面』にやられたのか?」
「そうだ……あの野郎、振り向きざまに突然斬りつけてきやがった!」
「振り向きざま?」
「俺が酔っ払っていい気分で歩いてたら、後ろから声をかけられたんだ……。それで振り向いた瞬間、いきなり斬りつけてきやがった。咄嗟に避けたものの……このザマだ」
「よくその傷だけで済んだな」
「はっ。後ろから斬りつけるなんざ、腕に自信がねぇ証拠だ! 実際何度か斬り結んだらすぐに逃げていきやがった」
「追わなかったのか?」
「この傷がなければ追ってたさ!」
「……すまん」
俺は巾着から回復薬を取り出し、男へ投げた。
「話の礼だ。使ってくれ」
男はいぶかしげな目つきで瓶を確認し、一気に飲み干した。
「ぷはぁ! っておい、これ……高級回復薬か!?」
「ん? それがどうした?」
男が慌てて布を外すと、綺麗に治った左目が露わになった。
意外とイケメンだな……。
「見える……。お前、名前は?」
「ルゥだ」
「俺はジュウロウだ。この借りは必ず返すぜ」
「……言っただろ。話の礼だ。それより、黒仮面のことで分かることがあればもっと話してくれ」
「心得た」
※※※※※
「ルゥくん、凄いね」
「……何が?」
ジュウロウから情報を聞き出した後、さらに『黄昏長屋街』を探索していると、不意にカナエが口を開いた。
「さっきのジュウロウさんとのこともそうだけど、全然ぶれないなって。芯がしっかりしてる人なんだなって……凄いなって思ったの」
「……照れるからやめてくれ」
「ふふっ。その顔もいいね」
顔を赤くした俺を見て、カナエは満足そうに笑った。
「……ジュウロウが話してた、『紫色に光る刀』のこと何か知らないか?」
俺は強引に話題を変える。
「ううん、私は見たことも聞いたこともないかな……やっぱり遺物なのかも」
遺物か……俺は『ラグナロク』が放つ神秘的なオーラを思い浮かべた。
「邪悪な遺物もあるってことか……」
「ルゥくん、遺物見たことあるの?」
「前にルチアの仕事を手伝った時に、一度だけな」
「そーなんだ! 遺物なんて一生に一度見られるかどうかなんだよ! ルチアさんもやっぱり凄い人なんだなぁ」
「俺の仲間はみんな凄いぞ」
俺の言葉にカナエは目を丸くした。
「……あのさ、この事件が解決したら――」
カナエが何かを言いかけた時、俺の左手の紋様が反応した。
悪魔だと!?
「カナエ、すまん。緊急事態だ」
俺はカナエの体を抱きかかえた。
「え!? ちょっ! ルゥくん!?」
テンパるカナエを抱えたまま、紋様の反応が示す方へ駆ける。
入り組んだ長屋を縫うように進むと、不意に視界が開けて川に出た。
土手から見下ろした川辺にいたのは――黒仮面だった。
読んでくださってありがとうございます!
悪魔だと!?(;゜Д゜)
まさかこんな所で悪魔と遭遇するとは……夢にも思っていませんでした……_(┐「ε:)_
次話もお楽しみに!(*‘∀‘)ノシ




