第五十四話 答え
カナエは少し足早に、入り組んだ路地を進んでいく。
……どこへ向かってるんだ?
見える範囲に店はなさそうなんだけど。
「着いたよ!」
カナエが少し赤らんだ顔で振り返る。
「着いたって……ここですか?」
つないだ手に少し力が入る。
「うん! 私の家!」
「えっと……」
戸惑う俺の後ろに素早く回り込んだカナエが、ぐいぐいと背中を押す。
「いいからいいから! とっておきの茶葉があるの! おいしいよ!」
……い、いいのか?
俺はカナエの家に押し込まれた。
「ちらかっててごめんね! そこに座って待ってて!」
「全然散らかってないですよ」
実際、綺麗に整理整頓されている。
俺も掃除好きだからな。カナエも多分同じタイプだ。
俺は床に座り、カナエがお茶を淹れる姿を眺めた。
まさか家に招待されるとは……どこを気に入ってくれたんだろう……。
そんなことを考えていると、カナエがお盆に急須を乗せて戻ってきた。
「お待たせ」
ローテーブルにカップを二つ置き、交互にお茶を注いでいく。
ふわりと香ったお茶の匂いが、俺の心を落ち着かせた。
「どうぞ」
「いただきます」
カップを口元へ運び、一口すする。
「……おいしい」
俺の感想に、カナエは満開の花のように笑顔を咲かせた。
「でしょ! とっておきなんだから!」
俺もつられて顔が緩んだ。
「……それで、今日はどうして会いに来てくれたの?」
……そうだな。まずはちゃんと伝えないと。
「昨日の、返事と、カナエさんに聞きたいことがあって」
「返事と……聞きたいこと?」
「はい。すみません……俺は、カナエさんの想いに応えることはできません」
…………。
「うん……分かってたよ。なんていうか、昨日ルゥくんの仲間に会った時、ルゥくんがただのEランク冒険者、ポーターじゃないっていうことも……分かったんだ」
…………。
「昨日も言ったけど、困らせるつもりはないんだ。だから、ちゃんと断ってくれて……よ、かった」
カナエは大粒の涙をこぼす。
どうしようどうしようどうしよう!?
俺はあたふたしながら巾着に手を突っ込みハンカチを取り出した。
「……どうぞ」
「……ありがとう。ごめんね」
俺はカナエが落ち着くまで、静かに待つことにした。
やがて、カナエは顔を上げ、俺の目を真っすぐ見つめた。
「……ありがとう。もう大丈夫。それで……聞きたいことって?」
全然大丈夫そうに見えないけど……。すまん。
「『黒仮面』のことです。BランクとCランクの冒険者が襲われてるって聞きました」
「『黒仮面』……聞いてどうするの?」
「……止めようと思います」
「ルゥくんが……?」
「はい」
俺の目をじっと見つめていたカナエは、やがて小さく息を吐いた。
「……わかった。私が知ってること、全部話すよ」
俺は胸の痛みをこらえながら、カナエの話に耳を傾けた。
「『黒仮面』がBランクやCランクの冒険者を襲ってるのは、力を蓄えるためだって噂されてるの」
「……力を蓄える?」
「うん、『黒仮面』が使う武器が『刀』って呼ばれるマリーノ特産の剣なんだけど、斬った相手の力を吸い取るみたいなんだよね……」
「吸い取る? ……そんな剣、いや……『刀』が存在するんですね」
「多分遺物だろうって、みんなが言ってる」
遺物か……。
「でも、それならAランク冒険者を狙った方が効率が良いんじゃないですか?」
「そうだよね……。でも、これまでの襲撃は全部闇討ちなんだ。多分、Aランクと戦う力が無いんじゃないかな」
「それじゃあ、今のうちに止めないと、まずいことになりますね」
「うん。だから、ギルドも必死になって探してるの……」
「それで……斬られた人の力を吸い取るって、具体的にはどうなるんですか?」
「私もまだ信じられないけど……レベルを吸い取られるらしいの」
「……レベルを?」
「うん。斬られた人はレベルが下がってたんだって」
「いくつ下がったんですか?」
「それが……人によって違うみたいなの。10下がった人もいれば、1つも下がらない人もいて……もともと、レベルって秘密にするじゃない? だから、ちゃんとした情報が集まらなくて、ギルドも困ってるみたい」
「そうですか……。斬られた人は、無事なんですか?」
「……亡くなった人もいる。でも、ちゃんと手当を受けた人は、元気になったよ」
「レベルは? また上げられたんですか?」
「うん。塔で階層主を倒したらちゃんと上がったみたい」
「吸い取ったレベルは……どうなるんでしょう……」
「それは、ギルドでも結論が出てないんだけど、多分『黒仮面』のレベルが上がってるんだろうって言われてる」
「……やっぱり、そうですよね」
話を聞く限り、『奪ったレベルを自分のものにする』……この線が濃厚だな。
『黒仮面』が力をつける前に、何としても止めないと……俺の安眠のために。
読んでくださってありがとうございます!
ルゥはルゥなりに、ちゃんと答えを出して伝えられたようです。
このシーンは書いてて胸が苦しかったです……( ;∀;)
そして、黒仮面の持つ刀とは……(;゜Д゜)ゴクリ
次話もお楽しみに!(*‘∀‘)ノシ




