第五十三話 偽物
「これで準備は整いました」
役所から出ると、ルチアは満足げに微笑んだ。
「お疲れ様。さっきの書類、何だったんだ?」
「更地にした土地の権利書ですよ」
「へぇ……」
「クロマ議員から譲り受けましたので、オレントの名義に書き換えたのです」
ルチアは優しく補足してくれた。
「じゃあ、あの土地はオレントの物ってこと?」
「はい。そうです」
「凄いな……」
「ルゥがいてくれたおかげです。私一人ではもっと時間がかかっていましたよ」
「……それなら良かった。あんまり時間はかけたくないもんな。この後は、どうするんだ?」
「そうですね。そろそろみんなが戻ってくる頃でしょうし、宿に戻りましょうか」
目の前でゆっくりと沈んでいく夕日を眺めながら、ルチアはそう言った。
※※※※※
お約束のように男部屋へみんなが集まった。
……今日はキリエいるんだよなぁ。
キリエはルチアの隣に座り、ルチアの右腕をがっちりとホールドしていた。
「……それでは、報告会を始めましょう。まずはキリエ。開発地区『うまいもん横丁』について説明を」
「はい♡ おねぇ様♡」
キリエは持っていた紙を俺たちの前に広げた。
「これが、今考えている区域図です。入り口に土産屋を配置し――」
こいつ……一日でこれを書き上げたのか?
ふと顔を上げると、対の刃たちも目を丸くしていた。
「おい、くそ虫。話を聞くこともできないのか?」
「す、すみません……」
俺は今度こそ集中して話を聞いた。
※※※※※
つまり……俺たちにできることはもう終わったということだな……。
頭から煙を上げながら俺は悟った。
「私たちの役目は終わり……ということね?」
こちらのメンバーで話についていけたのはサリアだけだ。
……合ってた!?
「そうだ。これ以降の計画にはこの国の人間を使った方が良いと判断した」
「この土地で商売を始めるためには、ここに住む人たちの協力が不可欠ですから」
ルチアはそう説明すると、グランに視線を移した。
「それでは、対の刃の皆さんの報告をお願いします」
…………。
グランは聞く姿勢を保ったままパンクしていたようだ。
「……ごめんなさい。私から説明するわ」
サリアの話によれば、『奈落』は完全にただの遺跡に変化した。現在は周辺のダンジョンと野良モンスターへの影響を調査中。そして、冒険者ギルドは『黒仮面』捕獲チームを結成したらしい。
……ムダなことやってんなー。
「あと、『黒仮面』に関してなんだけど……」
まだあるの?
「どうやら偽物が出現しているらしいの」
「えっ。……いや、そんな目で見られても俺は知らないって」
「はぁ。分かってるけど……文句の一つも言いたくなるわよ」
「そもそも偽物って……何が狙いなんだ?」
「私に分かるわけないでしょ。ギルドでも情報はつかめなかったわ。ただ……」
「ただ?」
「偽物はB、Cランクの冒険者を襲撃しているらしいわ」
「なんだそれ……意味不明すぎるな。なんでBとCなんだ?」
「だから私に聞かないでって!」
……怒られてしまった。
俺には関係ないけど……けどなぁ……。
もやもやしている俺に、ルチアが声をかけた。
「どちらにせよ、私とキリエはしばらくこちらに滞在することになりますので、気になるのであれば調べていただいてもいいですよ」
「……それならちょっと調べてみようかな。お前たちはどうする?」
対の刃たちに話を振ると、いかにも冒険者な答えが返ってきた。
「俺たちはこの国のダンジョンを回ってみようと思う」
グランの目がやる気に満ちている。
……いいなぁ。
「んじゃ、ケガしないようにな」
「無理するつもりはねーよ」
「お土産よろしくな」
「遊びに行くわけじゃねーよ!」
騒がしくも楽しい夜は更けていった。
※※※※※
「さて、それじゃあ俺も行くか」
対の刃を見送り、ルチアたちを宿に残して外へ出てきたものの……。
「ギルドには近づきたくないんだよなぁ」
ばれない自信はあるけど……なんかヤダ。
「やっぱ、あそこか」
……気まずさはあるけど、背に腹は代えられない。
俺は蕎麦屋へ向かって歩き出した。
「あ、そっか。まだ開店してないよな……」
店に着いた俺は、扉の前の『準備中』の張り紙に肩を落とした。
いきなり当てを失った俺は、無意味に店の前をうろうろしてしまう。
……完全に不審者だな。
我に返って出直そうと振り向いたその先に――カナエがいた。
「ルゥ……くん」
「カナエさん……」
「……会いに、来てくれたの?」
「ここなら、いるかと思って」
俺の言葉にカナエの顔が赤く染まる。
「そ、そうなんだ。う、嬉しいよ」
「店が閉まってたから、会えないかと思いました」
「私、いつでも蕎麦屋にいるわけじゃないよ?」
そう言って笑った。
「でも、会えました」
「もしかしたら……ルゥくんが来てくれるかなって、期待しちゃった」
「よかったら、場所を変えませんか?」
いつの間にか、俺たちを遠巻きに眺める野次馬が集まってきていた。
「そ、そうだね! どこか行きたい場所、ある?」
「この時間に開いてるお店なら、どこでもいいですよ」
「じゃあ……とっておきのお店に連れてってあげる!」
カナエは俺の手をとって歩き出した――
読んでくださってありがとうございます!
黒仮面の偽物とは!?(;゜Д゜)
ルゥのやらかしが思わぬ方向へ展開しております(;^_^A
そして再びカナエ登場!カナエの恋の行方はいかに!?
次話もお楽しみに( *´艸`)




