第五十話 キリエ無双
キリエは俺に声をかけることも、振り返ることも、道に迷うこともなくスタスタと進んでいく。
そして……たどり着いた場所は『街役場』だった。
ここでも足を止めることなく、中に入っていく。
「お、おい! ちょっと待てよ」
俺が声をかけると、キリエは鬱陶しそうにこちらを睨んだ。
「臭い口を開くな。時間が惜しい。黙ってついて来い」
それだけ言い放って受付へ向かった。
……そんなに……臭いかなぁ。
俺は既にくじけそうだ。
キリエは何かの紙にスラスラと記入し、受付に提出した。
少し待つと、受付から紙の束を受け取る。
……何が書いてあるんだ?
キリエは俺に説明することなく、役所の出口へ向かって歩き出す。
「……キリエ様。無知なワタクシめにも分かるように、ご説明いただけませんでしょうか?」
ついに俺は自尊心を捨てた。
キリエは足を止めることなく口を開く。
「ふん。お前の極小な脳みそで理解できるのか? これは、開発計画書だ。今からここに書いてある建築商会を当たる」
「……その建築商会が地上げ屋なのか?」
俺の問いかけに、初めてキリエは足を止め振り返った。
「一度死んだ方がいいな。今より少しはましになるかもしれんぞ? 地上げ屋なんてものは下の下の下に位置する下請けだ。何件か回る必要がある。分かるか? 時間が惜しいんだよ。今度こそ口を開くなよ?」
そう言い捨てると、再びキリエは歩き出した。
……俺、なんでこいつと一緒なの……?
※※※※※
「ここだ」
四件目の商会の前で、キリエは初めて俺に声をかけた。
「不本意だが……ここではお前の力が必要になるだろう。おねぇ様とワタシの役に立てることを喜ぶがいい」
……もう言い返す気力もない。俺は黙ってうなずいた。
キリエが商会の扉を開く。店内に染み付いたタバコの臭いに俺は顔をしかめた。
中にいたガラの悪い店員たちが一斉に俺たちを睨みつける。
あ……。あの時蕎麦屋に来た奴らもいるじゃん。
「いらっしゃいお嬢さん。うちになんの用ですかー?」
一番手前にいたチンピラが、へらへらとキリエに声をかけた。
「臭い口を閉じろ。この店の権利書だ。お前たちは今日をもって廃業。さっさとここから出て行け」
えっ? どういうこと?
「……はぁ? てめぇ何言ってんだ? この店の権利書をてめぇなんかが持ってるわけねーだろうが!」
「これは……ワルサ不動産から正式に譲り受けた権利書だ。その残念な頭では理解できないか? お前たちはな、切り捨てられたんだよ」
「お嬢ちゃん……もしそれが本物なら、それを取り返してしまいだ。わざわざ運んでくれてありがとうよ」
一番奥にいた小太りの男が、不敵な笑みを浮かべてそう言った。
チンピラ共がニヤニヤと笑みを浮かべて立ち上がり、ゆっくりとこちらに詰め寄ってくる。
「やれ」
小太りが号令をかけた瞬間――
「承りました!」
俺はチンピラ共を壁に向かって殴り飛ばした。
ドンバキガシャガラガラバサッ
…………。
ふぅ。少しすっきりした。
「……は?」
小太りは目が飛び出るくらい大きく見開いて、ぽかんと口を開け間抜けな声を出した。
キリエがゆっくりと小太りに近づいていく。
「く、来るな! 来るんじゃねぇ!」
めっちゃビビってんじゃんあいつ……さっさと逃げればいいのに。
小太りは上半身をよじらせて椅子から転げ落ち、腕だけで床を這いずり回る。
……思い出した。俺のせいだった。
「おい汚物。死にたくなければ、二度とその汚い面を見せるなよ?」
「ひぃぃぃぃ!」
「お前もぼーっと見てないで、さっさとこいつらをつまみ出せ!」
「……へい」
俺はチンピラ共を残らず外へ放り出した。
人がいなくなった商会で、キリエは棚や机、金庫を次々にあさり始めた。
やがて、何かの書類を見つけた彼女は、背筋が粟立つような不気味な笑みを浮かべた。
「行くぞ」
「え? もういいのか?」
キリエは俺を睨みつけると、何も言わずに出て行ってしまった。
……はぁ。
仕方なく俺も追いかける。もう少し、説明してくれてもいいじゃん……。
キリエの向かった先は蕎麦屋だった。店の前でキョロキョロと周りを見回し、また歩き出す。そして……武器屋の前で一度足を止め、店に入った。
俺も続いて中に入ると――キリエに抱きつかれたルチアがいた。
……何でわかったんだよ……コワイ。
武器屋のおっさんもドン引きした顔で二人を眺めている。
「キリエ。いい加減にしなさい」
「おねぇ様ぁ。キリエ頑張ったんですよ?」
書類を受け取ったルチアはさっと目を通し、満足げに微笑んだ。
「よくやったわね」
「はぅん♡ ……後で、ご褒美楽しみにしてます♡」
「ルゥもありがとう。このまま、対の刃の手伝いをお願いできるかしら?」
「了解。行ってくるよ」
キリエをルチアに預け、俺は店を出た。
はぁぁ。やっと解放された……。
さて、アイツらはどこかな?
キリエのように探知機を備えていない俺は、地道に街を探し回るのだった……。
※※※※※
対の刃は、街の外れにあった廃屋が建ち並ぶ地区で、その廃屋を破壊していた。
……派手にやってんなー。大丈夫か? こいつら。
「おーい。これ、ちゃんと許可取ったんだよな?」
「あ! ししょー! 大丈夫ですよ! サリアが手続きしてくれました!」
なぜか胸を張るリーズ。
「無償で引き受けますって言ったら、喜んでいたわよ」
「それならいいけど……この残骸は?」
「一ヵ所にまとめておけば、後で役所の方が引き取りに来るそうです」
よかった。俺の巾着に入れることはなさそうだ。
「それじゃ、俺も手伝おうかな」
俺は溜まりに溜まったうっぷんを拳にのせ、廃屋に向かってぶっ放した。
「あいつ……なんかあったな」
「みたいね……」
※※※※※
すっきりと更地に仕上げた俺たちは、意気揚々と蕎麦屋に引き返した。
「ルチアー?」
店に入ると――
ルチアとカナエがなぜか向き合って座っていた……。
読んでくださってありがとうございます!
ついに50話までお届けすることができました!( *´艸`)
ここまで読み続けてくださった皆様、本当にありがとうございます!m(_ _)m
キリエの口の悪さと頭の回転の速さがキレッキレの回でしたね(*‘∀‘)
そして、ルチアとカナエが向かい合って座っていると……次回、何かが起こる、かも( *´艸`)




