第四十九話 ルチアの策
「ししょー! あれ、何て書いてあるんですか?」
「『そば』って読むらしいぞ」
「『そば』屋ですか!」
ガラガラッ
蕎麦屋の引き戸を開けると……店の中はガラガラだった。
「らっしゃい」
店員の声に張りがない。……嫌がらせは続いているようだ。
「七人だ」
「お好きな席へどうぞ」
俺たちは一番広いテーブル席に座った。
「ご注文は?」
「『天ざる』七枚で」
「へい、少々お待ちくだせえ」
お茶を置いて下がっていく店員に、俺は声をかけた。
「カナエさんは来てない?」
「嬢ちゃんか? ……あぁ、あんたこないだの。いや……そういや最近見てねぇな」
「そうか。ありがとう」
首を傾げた店員に礼を言う。……最近来てない、か。
運ばれてきた天ざるを前に、一同の反応は様々だった。
その中でも、やはりキリエの反応は群を抜いている。
そばを一本つまみ、においをかぎ、舐めてからようやく口に入れた。
頭の造りが根本的に俺たちとは違うようだ。
「……こうやって食べるらしいぞ」
俺はカナエに教えてもらった食べ方を、皆に教えた。
「ししょー……『はし』、使いにくいです……」
ルチアと……キリエ以外は箸の使い方に苦戦していた。
「ルチアとキリエは使えるんだな」
「気やすく名前を呼ぶなカス。これくらい当然だ」
「キリエ。いい加減にしなさい」
「ごめんなさい♡ おねぇ様♡」
……コイツ。口だけじゃなく手先も器用なんだな。
「良かったら、こっちをおつかい」
店の奥からおばさんがフォークを持ってきてくれた。
「ありがとうございます。……あれからも、嫌がらせは続いてるんですか?」
俺の顔を見て、おばさんは目を丸くした。
「ああ、あんたこないだの。そうだね……毎日やってきては、店の評判を落としていくよ。おかげでこのありさまさ」
おばさんはガラガラの店内を見回し、大きな溜息をついた。
「そのことについて、後で話があるんだ」
「……話?」
「食べ終えたら、また声をかけるよ」
俺たちは天ざるに舌鼓を打ち、綺麗に平らげた。
「うまかったなー!」
「美味しかったです!」
反応も上々だ。さて……。
「おばちゃーん!」
俺の呼びかけにおばちゃんが顔を見せる。
「おいしかったよ。ごちそうさま」
「ありがとうよ。お粗末様」
「それで、さっき言ってた話なんだけどさ……俺の連れが商売人で、もしかしたら再開発計画の件で力になれるかもしれないんだ」
おばちゃんは『再開発計画』という言葉に反応し、表情を暗くした。
「そうかい……」
「聞くだけならタダだからさ。一回聞いてみてよ」
「まぁ、聞くだけ聞いてみようかね」
「よし! ルチア、よろしくな!」
ルチアはまず、おばちゃんから今の状況を確認した。
「なるほど、立ち退きに支払われるのが五百万。しかも、移転に関する支援は一切なしですか……。なかなかひどい話ですね」
……そうなんだ。
「まず、前提としてお伝えいたしますが、私は移転した場合の提案をお持ちしました」
「移転……かい」
「はい。私も商売人ですから、店を別の場所に移すことに抵抗があるのは承知しています。ですが、行政が絡んでいるのであれば、最終的には力ずくで追い出される可能性が高いでしょう」
……。
「ですから、争うのではなく、移転先で今までどおり……むしろ今以上に繁盛できる道をご提案したいと考えています」
「そんなことが……できるのかい?」
「もちろん、このお店だけでは難しいでしょう。しかし……この辺り一帯のお店の協力が得られれば、実現可能です」
「その話が本当なら……一回ここらの顔役に紹介するからさ、話してやってくれよ」
「ええ。もちろんです」
ルチアは営業スマイルで頷いた。
「そういえば、カナエという女性がしばらく顔を見せていないそうですが……なにか事情をご存じですか?」
思い出したかのようにルチアが尋ねた。
「カナエちゃん? あの子なら、なんでも『奈落』で異変が起こったって、冒険者ギルドに駆り出されてるよ」
…………。
「そうですか。ありがとうございます。それでは、顔役の方をご紹介いただけますか?」
「わかったよ。それじゃあ今から行こうかね」
「ルゥたちには、これをお願いします」
ルチアはそう言って一枚の紙を差し出した。
「では、また後で」
ルチアとおばちゃんを見送った後、紙に書かれた内容を確認する。
「なになに。移転先の候補地を探してください。未開発地区で広い場所。可能であれば切り開いてほしい。なるほど。もう一つは……地上げ屋の実態を探ってくれ……か」
「おい、くそ虫。おねぇ様から頂いた高貴なメモをよこせ」
……コイツ。いい加減怒っていいかな?
俺からメモをふんだくり、うっとりした目で内容を確認したキリエが、唐突に指示を出した。
「ワタシとくそ虫で地上げ屋を探る。それ以外は土地を探せ」
……え? 今……何て言った……?
「サッサと行け! おねぇ様が戻られるまでに成果を上げろ!」
キリエに怒鳴られて、対の刃は逃げるように走り去った。
「行くぞ、くそ虫」
俺の返事を待つことなく、キリエは歩き出す。
う、嘘だろ……? 俺、コイツと一緒?
まさかの展開に、俺は力なくうなだれるのだった。
読んでくださってありがとうございます!
ついに動き出したルチアの策!そしてなぜかキリエに指名されたルゥ!
一体どうなってしまうのか!?(;゜Д゜)
次話もお楽しみに~(*‘∀‘)ノシ




