第四十八話 旅路
「しかし、本当に快適だな……」
トレインカーは街を出ると加速を始め、今ではグランが全力で走るのと変わらない速度を保っている。
それなのに、揺れも少なく、音も静かだ。
「当然だ! 誰が設計したと思っている! 臭い口を閉じろ!」
……黙って操縦してろよ。
「こんな素敵な移動手段があるなら……魔法書の解読は必要ないのかしら……」
あ、サリアの心が折れかけている……。
「サリアさん、今回は隣国のマリーノまでですから……。魔法書の解読が終わって転移魔法が使えるようになれば、トレインカーごと転移できるようになるのでは?」
「あ! そしたら転移先でも快適に移動できるな! スゲー!」
ルチアの慰めに、グランが能天気に反応を示した。
「そうね……頑張るわ……」
……流石に少し休ませた方がいい気がする。
「サリア、少し休んだらどうだ?」
「……そうさせてもらうわ。一時間経ったら起こして」
サリアはそう言い残してソファーに倒れ込んだ。
「ルチア、そういえば再開発の問題はどうやって解決するつもりなんだ?」
「……上手く行く保証はありませんが……私は『新しい商業地区の開発』を提案してみようと思っています」
「えーっと……?」
「つまり、移転先に今よりも良い環境を用意して、商売を続けていけるようにするのです」
「凄いな……そんなことできるのか?」
「色々と根回しや説得も必要になるとは思いますが……不可能ではありません」
ほんと、凄いなルチアは……。
「ありがとう。俺にも手伝えることがあれば言ってくれ」
「もちろんです。やってもらうことは沢山ありますから」
彼女はそう微笑んだ。
※※※※※
「もうこんなところまで着いちゃいましたね」
俺たちは三日ほどかけて国境の街『サゲル』に到着した。この街の向こうがマリーノ共和国だ。
越境の手続きをするため、サゲルの停留所にトレインカーを止め、ルチアとリーズが役所へ向かった。
「なんか、変わった服着たやつらがいるなー」
「マリーノの民族衣装だよ」
「防御力低そうだな」
「動きやすそうではあるけどな」
そんな話をしていると、商人らしき風貌の男が近づいてきた。
「すみません。そちらの乗り物は、あなた方の物ですか?」
……またか。
「そうだ。一点ものだからな。譲ることはできないぞ」
「そうでしたか……。もしよろしければ、少し見させていただいても?」
「ダメだ」
俺は即座に断った。
商人は舌打ちをして離れていく。
ルチアの話では、構造や素材の情報もそれなりの価値になるらしい。
極力人を近づけないでくれと頼まれた。
その後も何度か声をかけられ、そのたびに断っていると、さっき断った商人が、ぞろぞろとガラの悪い連中を引き連れて戻ってきた。
……どこにでもこういう輩はいるんだな。
「先ほどはどうも。大人しくその乗り物を譲ってもらえませんかねぇ。そうすれば、痛い目を見なくて済みますよ?」
「痛い目? 寝ぼけてるのか?」
「これだから頭の悪い庶民は嫌いなんですよ……お前たち。やってしまいなさい!」
商人の合図で、チンピラたちが一斉に向かってくる。
「グラン」
「おう」
そいつら全員をグラン一人であっさりと撃退。
商人は目の前で起こった現実に耐え切れず、腰を抜かしたようだ。
「頭が悪いのはどっちなんだろうな? 役所で反省してこい」
グランは商人の首根っこを掴み、役所へ引きずっていった。
やれやれ……まぁ、今のやり取りを見ていたからか、近づいてくる連中が減ったのはいいことかな。
しばらくして、ルチアたち三人が戻ってきた。
「お待たせしました。色々とあったみたいですね」
ルチアは苦笑いだ。
「仕方ないさ。それだけの価値がある乗り物だ」
「私もししょーの活躍見たかったなー」
「活躍したのは俺だぞ!」
ワイワイと騒ぎながらトレインカーに乗り込み、サゲルの街を出発した。
※※※※※
マリーノに入ると、トラブルは激減した。
どうやらマリーノでは、馬に客車を引かせるのではなく、人が馬に乗って移動する方が主流らしい。珍しそうに見る人は多かったが、サゲルの商人たちほど食いついてはこなかった。
そして――
「着きましたね」
予定通り、一週間でマリーノの首都『ティターノ』へ到着した。
トレインカーを停車場に止め、全員が降りる。
「ここに置いとくわけにはいかないよなぁ……」
「そうですね……」
「お前の巾着に入れればいいじゃん」
グランの一言に俺は愕然とした。
……なんだか無性に悔しくなった。
「……そうだな。そうするよ」
俺は巾着にトレインカーを収納した。
その光景を見たキリエが、「そいつをよこせ! 解体させろ!」と騒いだのは言うまでもない……。
「さて、ここの街の『天ざる』がうまいんだ。食べにいこうぜ!」
俺はカナエに連れて行ってもらった店に向かって歩き出した。
読んでくださってありがとうございます!
ただ移動するだけのお話でしたが、お楽しみいただけたでしょうか?(;^_^A
一応テンプレ展開は詰め込んでみましたが……(笑)
マリーノ編は展開が飛びまくるので書くのが大変でしたが、皆さんを驚かせることができればいいなと思っております( *´艸`)
それでは次話もお楽しみください(*‘∀‘)ノシ




