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第四十六話 原罪

 強そうな気配を(まと)った男が近づいてくる。

 マリーノの民族衣装に身を包み、腰には二本の剣を差している。

 逃げ出したい。というか、話せることが何もない!


「すまんな。分かってると思うが、『奈落』の変化について少し話が聞きたいんだ。頼む――」


 追い詰められた俺は、対面した男の言葉が終わるか終わらないかのタイミングを狙い――全力で走った。


「消えた!? 緊急事態だ! 全員警戒しろ! 黒仮面を探せ!」


 現場は大混乱に陥った。


 ※※※※※


「ここまで来れば大丈夫かな……」


 俺は黒仮面を脱ぎ、巾着へ入れる。

 やっぱり一人だと色々無理があるなぁ。次のダンジョンまでに対の刃が間に合ってくれるといいんだけど……。

 疲れた……帰ろ。


 ※※※※※


「おぉ。ルゥ殿。早い戻りであったな」


 マリーノの塔に入ると、いきなりラグエルの部屋に出た。


「あれ? 一階からじゃないんだ?」


「おぬしは一度ここに来ておるではないか」


 あ、そうか。ルシフェルのとこもそうだもんな。


「して、どうじゃった?」


「サムヤサの『影』を倒してきました」


「そうか! それは大儀であった! ようやってくれた!」


「ありがとうございます。ルシフェルにも報告しないといけないんで、転移しますね」


「待たれよ。……ずいぶん疲れておるな。拙者が茶を()ててやる故、飲んでいかれよ」


「お茶……ですか?」


「そうだ。疲れが吹き飛ぶぞ。そこに座って待っておれ」


 ラグエルは色々な道具を空間から取り出し、お茶を点て始めた。

 そして、俺の目の前に濃い緑色の液体が入った椀が差し出された。


「これ……お茶ですか?」


「そうじゃ。細かいことは気にせず、ぐいっと飲んでみろ」


 ……ぐいっとか。

 俺は両手で椀を持ち口に当てる。

 いい香りがする……。


 ぐいっ


 に、苦い……いや、渋い。

 噴き出しそうになるのを我慢し、ごくりと喉に押し込んだ。


「ちょっと渋いです……」


「ガッハッハッ。ルゥ殿にはまだ早かったか。して、どうだ?」


「……あれ? 凄い! 体が軽い!」


「それは重畳(ちょうじょう)。また飲みたくなったら来るがよい」


「ありがとうございます!」


 ラグエルに礼を告げ、耳の羽に手を添えた。


 ※※※※※


「おかえり」


 転移するとルシフェルが穏やかな笑顔で俺を迎えてくれた。


「ただいま! サムヤサの『影』も倒してきたぞ!」


 ガバッ!


「ありがとう……。よくやってくれた。これでサムヤサは完全に消え去ったよ」


「お、おう……」


 急に抱きつかれた俺はひどく動揺した。


「ルシフェルに聞きたいことがあるんだけど……」


「ん? なんだい?」


「その前に一回離れて」


「もー……しょうがないなぁ」


 ルシフェルはしぶしぶ俺から離れた。


「はぁ。サムヤサの『影』なんだけどさ、俺の『施錠』一回で倒せなかったんだよな……」


「それは……サムヤサの実体を先に倒していたからだろうね」


「つまり?」


「前回、『影』――つまり『ダンジョンコア』を倒した時は、対となる悪魔を倒していなかっただろう?」


「たしかに。あ! そういうことか!」


「気づいたかい? 悪魔の実体を倒したことで、一時的に悪魔の『原罪(げんざい)』がダンジョンコアに戻ったんだ」


「いや、また分かんなくなった。『原罪』って?」


「人間でいう『魂』さ」


「なるほど。要するに、コアと原罪の二つがあったから二回倒す必要があったってことだな?」


「そういうこと。その後、ダンジョンに変化はなかったかい?」


 今聞こうと思ってたのに……。


「あったよ。ダンジョンの中が塔の中みたいに変わっていった」


「完全に悪魔が消えた証拠さ。……元管理者とのつながりが消え、ただの建造物に戻ったんだ」


「へぇ」


「興味なさそうな顔だねぇ」


「そこは別に興味ないだろ。要は、ダンジョンが元に戻ったら、悪魔が完全に消え去ったってことなんだろ?」


「そうそう」


 ルシフェルは呆れたように頷いた。


 ※※※※※


 塔を出て、俺は一旦自宅へ戻った。

 対の刃が戻ってきてるかと思ったんだが……。


「誰もいないか。あいつら、ちゃんとレベル上げもしてるんだろうな……?」


 俺はその足でソドムへ向かった。


 ※※※※※


「サリアせんせー! いるー?」


「あ! ししょー! おかえりなさい!」


 ソドムのホテルで俺を出迎えたのはリーズだった。


「おいリーズ。レベル上げサボってないよな?」


 …………。

 リーズは無言で目を逸らした。


「おい?」


「すみません! ミモリちゃんたちの特訓とか、ミモリちゃんたちのお世話とか、いろいろ忙しかったんです!」


 ……ほぼミモリじゃねーか。


「これからもっと忙しくなるんだから、自分自身の鍛錬は怠るなよ」


「……はい」


 しゅんとなったリーズから視線を移すと、サリアは机に向かって集中していた。

 俺は彼女に近づき、声をかける。


「どこまで進んだ?」


「ひゃい!?」


 ……変な声でたな。


「るっルゥさん! 驚かせないで!」


「いや……すまん。驚かせるつもりはなかったんだが……」


 サリアの目の下には、濃いくまができていた。


「あー、いや、どれくらい進んだかなーって……」


「……まだ10ページよ」


「……え? 早くない?」


「理解が深まれば、もっと早くなると思うわ。半年はかからないと思う」


「凄いじゃん! あー……無理しすぎないように、がんばれ」


「はいはい。それじゃあ、邪魔しないで出て行ってね」


 ……俺はサリアの言葉にしゅんとなった。


「そういえば、グランとシルは?」


「あの二人はルチアさんの家だと思います!」


「ほー。んじゃ様子を見てくるか」


「私も行きます!」


 俺たちは二人でオレントの屋敷に向かうことになった。


 もともとルチアに相談したいことがあったし、ちょうど良かったな。

 マリーノの再開発問題、何とかできるといいんだけどな……。

読んでくださってありがとうございます!

ルゥが逃走するシーンからスタートです!・*・:≡( ε:)

これがまた新たな事件を引き起こすとは……この時のルゥも、作者も思ってなかった……(ノ∀`)(笑)

新しい世界設定が登場しました!タイトルにもある通り、悪魔の魂を『原罪』と表現してみました!

この設定を忘れないように気を付けなければ……_(┐「ε:)_

次話もお楽しみに~(*‘∀‘)ノシ

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