第四十五話 奈落
「あそこか……」
丘の上から見下ろした先には、ソドムの街が丸ごと飲み込まれそうな、巨大な穴があった。大地そのものが口を開けているようにも見える。
「やっぱいるよなー」
『奈落』の入口の前に、予想通り二人の人影が見えた。ギルドの職員だろう。
今回はグラン達がいないからなぁ……俺のランクだと間違いなく追い返されるよな……。
「仕方ない」
〘施錠〙
俺は二人を眠らせ、入口の前まで移動した。
「ごめんな」
〘開錠〙
そして、二人が目を覚ます前に、さっさと『奈落』へ潜り込んだ。
「うーん、不気味だ……」
ダンジョンに入ると景色が一変した。
外から見ると単なる大穴だったんだけど……。
壁も床も赤黒く、ところどころに血管のような線が走っている。まるで、生き物の体の中に入り込んだようだ。
……正直、気色悪い。
「さっさと終わらせて帰ろう……」
俺は気を引き締め、駆け出した。
※※※※※
「ここも同じか……」
十階層の最奥に、結界が張られていた。
念のため、人の気配がないことを確認し、スキルを使う。
〘開錠〙
階段まで移動した俺は結界を張り直す。
〘施錠〙
『嘆きの壁』でのことがあるからな……ここから先はあまり時間をかけられない。
俺はさらにスピードを上げた。
三十四階層を移動していると、通路の先から戦闘音が聞こえてきた。
俺は近くの物陰に潜み、戦闘が行われている少し開けた空間を窺う。
「くそ! まだ倒れないのか!」
「焦るな! 確実に弱っている!」
「来るわよ! 避けて!」
「回復まだー!?」
四人のPTが『サイクロプス』と死闘を繰り広げていた。
他の道に移動するか……?
一瞬よぎった考えを振り払い、この戦いだけは見届けることにした。
……その先は知らんけど。
四人は確実にサイクロプスを追い詰めていた。
女剣士が放ったスキルで、サイクロプスの左腕が斬り落とされる。
「いけるぜ!」
勝利を確信したのか、もう一人の戦士が声を上げた。
……まずいな。
前衛二人が勢いに乗ってサイクロプスに攻撃を仕掛けた瞬間――
サイクロプスの巨大な一つ目が深紅に染まる。
グルァァァァァ!
フロアを揺らす咆哮に、四人は体を硬直させる。
サイクロプスは、身動きの取れない女剣士に向けて巨大な石棒を振りかぶった。
〘施錠〙
動きを止めたサイクロプスの腕を、いち早く硬直を解いた戦士が斬りつける。
〘開錠〙
両腕を失ったサイクロプスは、そのまま四人の猛攻に沈んだ。
……ふぅ。危なかった。
俺は四人が勝利に湧いている隙に、気配を殺して通り過ぎた。
「あれ? 今、誰かいた?」
「やめてくれよ、連戦はごめんだぜ」
「いや、そうじゃなくて……おかしいな?」
※※※※※
50階層。
「うん。もう慣れた」
目の前の封印を解除し、階段に移動してから張り直す。
前回は68階層で『影』に遭遇したけど……今回はどうかな?
51……52……53……
俺は足を止めることなく階層を進む。
61……62……63……
そして68階層の最奥――
「まだ、先があるのか……」
さらに下へと続く階段があった。
まぁ、長く生きてたっぽいもんな。サムヤサ。権能も戦闘向きだったし……。
嘆いていても仕方ない。気持ちを切り替えて階段を下りた。
69……70……71……
80階層に入った時、フロアの空気が一変した。
ここか!
ようやくたどり着いたと確信した俺は、気配の元へ全力で駆けた。
気配に近づくにつれ、俺の体から力が抜ける……いや、吸い取られていくような感覚に襲われる。
そして――
巨大な影を視界に入れた瞬間、スキルを発動する。
〘施錠〙
これで終わり……じゃなかった。
「どういうことだ!?」
まだ力が吸い取られる!
「くそ!」
再び影に向かってスキルを発動する。
〘施錠〙
ギャァァァァァァァッ!
……今度こそ、倒した……。
巨大な影は塵となって消え去り、ダンジョンにも変化が現れた。
「この壁は……『塔』と同じ造りだ」
この場所を始点に、ダンジョンが徐々に造り替わっていく。
「元に戻ろうとしているのか……?」
あ、やべ。
今度はダンジョンから脱出するため全力で駆け出した。
※※※※※
「やっぱり居るなぁ……」
50階層の結界の手前で、さっき追い越したPTがなにやら苦戦している……。多分、結界を何とかしようとしてるんだろう。
四人のうちの一人が結界師らしい。「ぐおー」とか「うがー」とかいう声が聞こえる。
俺は巾着から黒仮面を取り出し、装着する。
「行くか」
四人を視界に収めて『施錠』し、結界を『開錠』する。
そのまま通路まで移動して、四人を『開錠』。
これでよし。
俺には時間がない。まだ十階層の結界が残っている。
体力回復薬の瓶を口にくわえながら走った。
「あぁ……たくさん集まってる……」
十階層の結界に着いた時には三PTくらいの人だかりができていた。
結界に張りついてこちらをじっと観察している奴もいる……。
……やるしかない。
『施錠』『開錠』『開錠』スキルのコンボと俺の身体能力で、誰一人俺の存在には気づかなかった……はず。
さっさと出よう……。
俺は振り返ることもなく走り続けた。
出口までに四つのPTとすれ違い、ようやく『奈落』を脱出した俺は、最大の危機を迎えていた。
「今出てきた黒仮面。少し話を聞かせてくれ!」
10……20……たくさん。
『奈落』の入口には、何かの団体が陣を張っていた。
そして、一番強そうな気配をまとった男が、俺に話を聞きたいとこちらに向かってくる。
……ど、どうしよう。
読んでくださってありがとうございます!
ルゥ単体でダンジョンに入ると、見せ場を作るのに苦労します……(笑)
違うところで最大の危機を迎えるところがルゥらしいですね( *´艸`)
このピンチをどう切り抜けるのか……次話もお楽しみに!(*‘∀‘)ノシ




