第四十四話 再開発
〘施錠〙
俺は小太り男の両足を施錠する。
カクンッ
バランスを崩した男は、そのまま床に倒れ込んだ。
「アッ、アニキ! どうしたんですかい!?」
「あ、足が! 俺の足が急に……なんじゃこりゃあ!? くそがっ! また来るからな!」
取り乱したチンピラは、取り巻きの二人に支えられ店を出て行った。
「全く、何だったんでしょうね?」
静まり返った店内に、俺の言葉がよく響いた。
「せっかくおいしいおそばを食べてたのに、ごめんね」
……なぜかカナエが謝った。
「悪いのは、あいつらですよ。カナエさんが謝ることじゃありません」
「そっか……そうだね」
先ほどまでの明るい表情は見る影もなく、カナエは無理やり笑顔を作った。
その笑顔を見た瞬間……なぜか胸の奥がざわついた。
「カナエちゃん。悪いね。今日はもうお帰り」
店の奥から割烹着姿のおばさんが出てきた。
「おばちゃん! でも!」
「いいんだ。アンタにゃいつも助けてもらってる。それに……この問題は、アンタだけでどうこうできる話じゃないんだ」
「……分かった。ごちそうさま。ルゥくん、行こっか」
カナエは俺の分まで代金をテーブルの上に置き、とぼとぼと店を出ていく。俺も慌ててその後を追った。
……事情を聞くくらいなら、問題ないよな……。
「カナエさん、ごちそうさまでした! もしよかったら、お礼に甘い物をごちそうしますよ。美味しいお店、教えてください!」
「……ルゥくん。気を使ってくれてるの?」
「甘いものが食べたいんです! お願いします!」
俺は勢いよく頭を下げる。
「あはは。しょうがないなぁ」
※※※※※
「あんみつ?」
「そう! ここのおすすめはあんみつだよ!」
また未知の食べ物だ……しかし、さっきの天ざるのチョイスで、カナエの舌は保証されている。俺は迷うことなくあんみつを頼んだ。
「色とりどりだ……」
運ばれてきたあんみつの器には、黒、黄色、赤、緑、白、そして透明な何かが浮かんでいた。
一番大きな黒い塊の端をスプーンですくい、口に入れる。
ん~。ほどよい甘さが口に広がる。うん、うまい。
この白いのは……なんかもちもちしてて面白いな。これも好きかも。
「ふふっ」
夢中になって食べていると、向かいのカナエが笑い声を漏らした。
「どうしました?」
「ううん、ほんとに甘いものが食べたかったんだなーって、おかしくなっちゃって」
「おいしいお店を紹介してくれたからですよ。ありがとうございます」
「どういたしまして……」
再びその笑顔に影がさした。
そろそろかな……。
「カナエさん、解決できるわけじゃないですけど、事情を話してもらえませんか? どうも、気になっちゃって」
「……ありがとう。それじゃあ、愚痴っちゃおうかな。さっきの人たち、地上げ屋っていうんだけど……分かる?」
俺は首を振った。
「えっとね、この辺り一帯を、再開発する計画があるんだって。だから、簡単に言うと店をたたんで出てけ! って言われてるみたいなんだ」
……この辺り一帯?
「じゃあ、ここの店も?」
カナエは力なくうなずく。
「うん」
「その……再開発っていうのは、悪いことなんですか?」
今度はカナエが首を振る。
「ううん。そういうわけじゃないと……思うんだ。でもさ、追い出された人たちは、知らない場所でまた一から商売を始めるか、商売を続けていくことをあきらめるしかないんだよ? 若い人ばかりじゃないのに……」
思ってた以上に難しい問題だった。悪い奴がーとかなら俺でもなんとかできそうだったんだが……。
ひとまず俺は悪そうな奴らの話に戻すことにした。
「でも、さっきの地上げ屋たちは、明らかにやりすぎじゃないですか?」
「……そう、だね」
「街の官憲は、何とかしてくれないんですか?」
「……再開発計画を立てたのは、誰だと思う?」
誰って……。
「この街の……偉い人?」
「当たり。だから、官憲も見て見ぬふりをするの」
見て見ぬふりか……話を聞けば聞くほど、俺の心にモヤモヤと気持ちの悪い塊が溜まっていった。
これはいけない。このままでは、俺の感情がモンスターを生み出してしまう。
よし。何とかしよう。
「色々とありがとうございました。俺、そろそろ行きますね」
「うん。こっちこそ付き合ってくれてありがとう。頑張ってね!」
カナエは精一杯の作り笑顔で見送ってくれた。
何とかするって言っても、俺だけではなんともならない問題だ。
やるべきことを片付けたらみんなに相談してみよう。
俺がやるべきこと……。
俺は目立たないように『奈落』を目指した。
読んでくださってありがとうございます!
再開発問題……なんとかできるの? ルゥ?(;゜Д゜)
マリーノ編では、これまでの『鍵司』とは少し違ったお話をお見せできるかと思います。
お楽しみいただければ幸いです( *´艸`)




