第四十三話 天ざる
ちょうど小腹も空いていたし、初めて来た街で飯屋を探すのもめんどくさい。
そんな考えもあって、俺は彼女のお誘いを受けることにした。
「私、カナエっていいます。一応、Bランクの冒険者だよ!」
「ルゥです。冒険者はEランクで、ポーターとしても活動してます」
「ルゥくんね! ついてきて! おすすめの店があるんだ!」
俺は素直に彼女の後ろをついて行った。
「ここだよ!」
彼女が店の看板を指さす。
「……なんて読むんですか?」
「あれは、『そば』って書いてあるの。食べたことある?」
「ないです」
「マリーノの特産なんだ! いろんなお店があるけど、ここが一番おいしいと思うよ!」
彼女は引き戸を開け、中に入った。
そばか……どんな食べ物なんだ?
「いらっしゃい!」
入口を潜ると、威勢のいい声が響き渡った。
「ルゥくん! こっちこっち!」
既に席についたカナエが、手招きしている。
俺が腰かけると同時に、店員が湯飲みをテーブルに置いた。
「いらっしゃい。注文は?」
「天ざる二枚!」
「へい、少々お待ちを!」
え? 今ので分かるの?
俺はカナエと店員を交互に見比べた。
「ごめんごめん、初めてのお店だし、何を食べるか迷っちゃうかなって思って、私がこの店で一番好きなメニューを注文したんだ」
そう言って彼女はいたずらっぽく舌を出した。
「どうして、そこまでしてくれるんですか?」
「んー、この国には、『一期一会』っていう言葉があるの。聞いたことある?」
俺は首を振った。
「『この出会いは一度きりかもしれないから、大切にしよう』っていう意味なんだけどね、この国に来て、嫌な思いをして帰るっていうのが、なんだか悲しくて」
まー、いきなり現地人に絡まれたらそうなるな。
「だから、せっかく会えたんだから、楽しい思い出で上書きできればいいなって、声をかけたんだ」
……凄い人だ。多分、生まれ変わっても俺には真似できない。
「ありがとうございます」
「天ざる二枚お待ち!」
話しているうちに、店員が『天ざる』を運んできた。
少し黒ずんだ麺と、衣をまとわせて揚げた食材。
どちらも初めて見る食べ物だった。
「こっちがそばで、こっちが天ぷらっていうの」
凝視している俺に、カナエは説明してくれた。
「こうやって食べてみて!」
カナエはお盆に乗っていた二本の細長い棒を手で操り、そばを掴むと、つけダレに軽く浸し、口へ運ぶ。そして――
ズズズズーッ!
一気に麺を吸い込んだ。
……豪快な食べっぷりだ。
「こうやって食べるとおいしいよ!」
カナエは笑顔でそう言った。
なるほど。俺はカナエの動きをトレースする。
これでそばを掴んで、タレにちょっと浸して、あむ。
ズズズズーッ!
お! うまいなそば! 変わった味だけど、嫌いじゃないぞ。
夢中でずるずると麺をすする俺を、カナエは目を丸くして眺めていた。
「ん? どうしました? うまいですね、そば」
「いやぁ……お箸、器用に使うなぁって驚いちゃった」
「はし?」
「これ」
カナエは箸を持った手を上にあげた。
「ああ、カナエさんが使ってるのを見たので、真似しただけですよ」
「……普通は出来ないと思うんだけどなぁ?」
首をかしげるカナエは置いておいて、天ぷらに箸をのばす。
「あ! ちょっと待って! 天ぷらはね、この天つゆにつける食べ方と、お塩を振って食べる食べ方があるの! はじめはどっちも試してみるといいよ!」
「なるほど、ありがとうございます」
俺は一番大きな細長い天ぷらを箸でつまみ、半分に割る。プリっとした白い身からはうっすらと湯気が立ち昇り、香ばしい匂いが俺の食欲を刺激した。
まずは天つゆから……ん! うまっ! つゆと白い身の味が、口の中でバランスよく混ざり合う。身自体もうまいんだけど、つゆもうまいな!
それじゃ、塩で……あ、俺こっちの方が好きかも。素材のうまみが引き立つ感じ? うまいもん食ってる! って満足感がすごい!
※※※※※
「おいしかった……」
あっという間に平らげた俺の向かいで、カナエはまだそばをすすっていた。
「いい食べっぷりだったよー! あっという間だったし! 満足してくれたみたいで、ほんと連れてきて良かった!」
「こちらこそ、連れてきてくれてありがとうございました。めちゃくちゃ美味しかったです!」
カナエはうんうんと満足そうに頷いた。
「そういえば、ルゥくんはこれからどこへ向かうつもりなの?」
「あ、えーっと……」
……なんて答えようか。そう考え始めた時だった。
きゃあ!
ガシャン!
入口の方から、悲鳴と何かが割れる音が響いた。
カナエが立ち上がり、声を上げた。
「なにしてるんだ!」
入口に目を向けると、ガラの悪い三人の男が立っていた。
一人は……さっき俺に絡んできた男だ。
「おやぁ、奇遇ですな。Bランク冒険者のカナエさん。あなたには関係のないことですよ。ちょっと、ここの店主と話がありましてね」
真ん中にいた背が低く小太りの男が、カナエを小馬鹿にするように笑った。
「それだったら時間を選べばいいじゃないか! まだお客さんがいる時間だぞ!」
「うるせぇ! 部外者はひっこんでろっつってんだよ!」
……どうやら見た目以上にガラが悪いようだ。
カナエは悔しそうに歯を食いしばっている。
店内にいた他の客も、逃げるように店を出て行った。
せっかくうまい飯を食ったっていうのになぁ……こいつらどうしてくれようか。
読んでくださってありがとうございます!
気づいたらそば食わせてました(ノ∀`)
マリーノ編は、なぜかキャラが暴走しがちで、筆者自身展開が読めない話が続きます(笑)
みなさんに楽しんでいただければ幸いです(*ノωノ)




