第三十八話 救世主
はぁ。はぁ。
俺は『フォレストウルフ』の群れに追われていた。奴らは俺を逃がすまいと、ピッタリ後ろをついてくる。木の根や枯れ葉に足を取られながらも、ひたすら真っすぐ逃げているとーー視界が開け、人影が目に入った。
「たっ、助けてください!」
俺はその人影の直前で足をもつらせ、地面に転がった。
振り向いた人影が、腰に下げた剣を一閃する。
ギャウッ……
その一振りで、俺を追いかけてきたフォレストウルフの群れは、一匹残らず真っ二つに切り裂かれた。
「す……すごい。一撃……。あ、ありがとうございます!」
情けなく尻もちをついたまま剣士を見上げ、礼を言った。
「大丈夫だったか?」
その剣士は軽く笑顔を作り、俺に手を差し出す。
「ありがとうございます! あの……お名前をお聞きしても?」
「……名乗るほどの者じゃない。それより、どうして追われていたんだ?」
「それが……」
「ウル! 無事か!?」
俺の返事を遮って、木々の間から冒険者風の男が飛び出してくる。
「ミツハさん! この剣士さんが助けてくれたんだよ!」
俺の元まで駆け寄ったミツハは、ほっとした表情を作り、剣士に向き直って丁寧に礼を述べた。
「どなたか存じ上げませんが、本当にありがとうございます。大事な甥っ子を失うところでした……あなたは命の恩人です」
「よしてくれ。大したことではない。それより、君たちは……」
「もしやあなたは! Aランク冒険者のエリオット様では!?」
ミツハの言葉に、エリオットはほんの一瞬、顔を歪めた。
「……いかにも」
「こんなところで出会えるとは! ウル! Aランク冒険者だぞ! 俺たちのあこがれの存在だ!」
「凄いや! 俺、Aランク冒険者に会うの初めてだよ!」
「さっきまで死ぬかと思ってたのにな! 人生何があるか分からないもんだなぁ」
「ところで、エリオット様はここで何をされていたんですか?」
俺の質問に、エリオットはしぶしぶといった体で答えた。
「……いや、このあたりに、ゴブリンの変異種が出現したと耳にしてな。様子を見に来たんだが……」
「Aランクなのにゴブリンを……ウル! 聞いたか! これが冒険者の鑑ってやつだ!」
「うん! おれもエリオットさんみたいな冒険者を目指すよ!」
盛り上がる俺たちを、エリオットは咳払いで制した。
「……ところで、君たちはどうしてフォレストウルフに追われていたんだ?」
そういえば、さっきから何度か聞こうとしてたな……。
「おれたち、ゴブリン討伐の依頼を受けてたんです! ゴブリンは討伐できたんですけど……血の匂いに誘われたのか、フォレストウルフが集まってきちゃって……」
「ゴブリンを……倒した?」
唖然とするエリオットに、ミツハがすかさず追い打ちをかけた。
「さっきは情けない姿をお見せしましたが、私はこれでもDランクですし、ウルもEランクですからね。ゴブリンごときに遅れはとりませんよ」
「でもあのゴブリン普通じゃなかったよなー。なんか、人間みたいに連携してたし」
「そっ、そのゴブリンは何か持っていなかったか!?」
「何か……ですか? 変な石ころは持ってましたよ」
俺は掌に結晶を乗せてエリオットに見せた。
その瞬間、エリオットは安堵したように息を吐く。
「そうか……。その結晶はもともと私の物なのだが、前の戦闘で落としてしまってね。この辺りで探していたんだよ。すまないが、返してもらえないか?」
「そうだったんですね! 命を救っていただいたんですから、喜んでお返ししますよ!」
「Aランクのエリオット様が、それほど必死に探すほどのアイテム、見た目とは違って凄い物なんでしょうなぁ」
俺から結晶を受け取ったエリオットは、ほっとしたように表情を緩めた。ついでに気まで緩めたようで、ミツハの言葉にあっさり口を滑らせる。
「ああ、これは私が『進化』するために必要なアイテムなんだ」
「『進化』! あの、もしかして……エリオット様もイーリス教徒ですか?」
「なんだ……君たちもか。いかにも。私こそが人類を導く『救世主』となる存在だ」
「凄い凄い! おれたちを導いてくださる救世主に、命を救っていただいたんだ! おれ、今までで一番幸せだよ!」
……おぇ。そろそろ気分が悪くなってきた。
「エリオット様! 私たちに、その結晶がもたらす『進化』について、ご教授いただけませんか?」
気分を良くしたエリオットは、少しのけぞり高説をたれ始めた。
「この結晶を使えば、人間をさらに強く、聡明に、今とは次元の違う超人類として生まれ変わらせることができるのだ! 実を言うとな……私はゴブリンでその効果を試してみたのだよ」
「えっ! そうだったんですか? どうして人間ではないのですか?」
エリオットは少し難しい顔をして、続けた。
「いきなり人間に試して、害がないという確証がなかったのだ。しかし、君たちの話を聞いて、問題がないと確信したよ」
「素晴らしい……。その結晶は、エリオット様がお造りになったものなのですか?」
「いや……。この結晶は、我らが真なる教祖、サムヤサ様がお造りになった。まさに、神がごときお方だ」
「サムヤサ……様。我々のような者では、お目にかかることは難しいのでしょうね」
エリオットは俺たちの顔を見比べ、少し考えてから口を開いた。
「いや……お前たちはなかなか見どころがある。私が口を利けば、お会いすることは難しくない」
「ほんとですか!? そんな幸せなこと……! 凄いよミツハさん!」
「生きててよかったな! さっきまで死にかけてたのに、素晴らしいお方に巡り合えた」
俺たちのやり取りを、満足げに眺めるエリオット。
事前に練ったサンタナの策にすっぽりと嵌ったようだ。
それじゃあ、案内してもらおうか……サムヤサのところまでな。
読んでくださってありがとうございます!
いかがでしたでしょうか?私のいたずら心がはじけました( *´艸`)(笑)
楽しんでいただけていたら幸いです!
では、次話もお楽しみに~(*‘∀‘)ノシ




