第三十七話 婚約者
「どうしたんだ?」
「ちょっと、この絵を見てくれよ」
俺はミモリが描いた絵を皆に見せた。
「うわ! めっちゃ上手いな! 誰が描いたんだこの絵?」
「ミモリだよ」
「「「えっ」」」
その場にいた全員が固まる。
「こんな才能まであるなんて……」
「だんだん驚くことにも慣れてきました……」
サリアとシルは、なんか疲れた顔をしている。そして……。
「ミモリちゃん! 私のことも描いてください!」
リーズはちゃっかりしてんなぁ……。じゃない。
「この男のこと、誰か知らないか?」
オレントの三人は首を振る。
「んー、どっかで見たことあるような……ないような?」
「私も……」
「もやもやしますね……」
「頼む! 思い出してくれ!」
対の刃の三人は、揃ってうんうんとうなり始めた。
「エリオット=アルバートですよ」
ぽつりと、背後から声がした。
「そうだ! エリオットなんとか! Aランク冒険者だよ!」
グランがすっきりした顔で手を叩く。
「Aランク冒険者か! って、あれ?」
背後から聞こえた声に振り返ると、リーズが複雑そうな顔で佇んでいた。
「リーズの、知り合いか?」
俺の問いかけに、リーズは唇を噛む。
「私の……元婚約者です」
「「「えっ」」」
「あはは、私、実はこれでも子爵家の娘なんですよね」
リーズは苦笑いを浮かべ、頭をかいた。
「エリオットは、アルバート男爵家の次男で……まぁ、よくある政略結婚……みたいな」
リーズ以外の三人に視線を向けると、全員が首を横に振っている。
「……いいのか? 俺たちに話して」
「いいんです。隠すことでもないですし、もともと、私に貴族の世界は合わなくて、勘当同然で家を飛び出してきたんですから。それに……」
「……それに?」
リーズは俺の目を真っすぐ見た。
「エリオットは、『イーリス教』の信者でした。彼の考え方が、私には……受け入れられなかったんです」
「そうか……。話してくれてありがとう」
「いえ! それに、今の私には師匠がいますし!」
「「えっ」」
……は? なんて?
「ちょっとこちらへ」
ルチアとシルがリーズの両脇を固め、隣の部屋へ引きずっていった。
……なにやってんだ、あいつら。
「アルバート男爵家について、なんか知ってるやついるか?」
気を取り直して、残ったメンバーに尋ねようと振り返ると……全員がニヤついた目で俺を見ていた。
「おい。知ってるやつ、いるか?」
もう一度、声を低くして問いかけると、サンタナが咳ばらいをした。
「そうですね。詳しいわけではございませんが、王都ボルドリーに屋敷を構える貴族だったかと。現在の当主はキルロス=アルバート。Aランク冒険者でしたが、その功績を称えられ、爵位を授与されたと……記憶しております」
……結構詳しいじゃん。
「なるほどなー。エリオットも親父さんにあこがれて、冒険者やってんのかな……」
「きっかけはそうかもしれませんが……今の彼は、どちらかというと『イーリス教』の教えに染まりきっている感じが強いですね」
いつの間にか戻ってきたリーズがそう呟いた。
「……と、いうと?」
「『最強になって、俺が人類を導くんだ』って思ってそうです」
あいたたた……。こじらせちゃってんなー。
「エリオットは、今どこにいると思う?」
「……普通に家じゃないですか? 出奔したという話は聞いたことないですし……」
「……王都か。あんまり近づきたくないんだけどなー」
「それなら、オレントの者に見張らせましょう」
「おお! 助かるよ!」
俺はルチアの提案に乗っかることにした。
※※※※※
「うぉぉ! すげーなこの部屋!」
エリオットの情報が手に入るまで、オレントのホテルに滞在することになったのだが、その広さと高級感に当てられて、グランがおかしくなった。
「何だよこのベッド! めちゃくちゃ跳ねるぞ!」
「鎧くらい外せよバカたれ」
俺に叱られ、渋い顔で鎧を外したグランが、仕返しとばかりに口を開いた。
「で? お前は誰を選ぶんだよ?」
「……選ぶ? 何をだよ」
はぁぁぁ。
グランの深い溜息が広い部屋に響き渡る。
「お前さぁ。世界を救うって使命があるのは分かるけどな? 別に、自分の幸せを後回しにする必要はないんじゃないか?」
グランの言葉が俺の胸につき刺さった。……俺の、幸せ?
「そもそも、お前が使命を達成するのに、どれだけ時間がかかるか分かんねーだろ? 恋愛したぐらいでルシフェル様は怒らねーさ。……きっと」
「……いきなりそんなこと言われたって分かんねーよ。……今だって十分幸せなんだ。俺は」
「お? なになに? もう一回いってみ? っあ゛ぁぁぁぁぁ!」
にやついた顔で近づいてきたグランに、アイアンクローをおみまいしてやった。
それから数日後――
イチゴたちに戦い方を指導していると、ルチアとサンタナがやってきた。
「ルゥ。エリオットに動きがありました」
「お、ようやくか。どこに向かったんだ?」
「方角からすると、イチゴたちが以前住んでいた洞窟かと」
「なるほどな……イチゴたちの成長が気になったのかな?」
俺の言葉にルチアは思案顔になる。
「どうした?」
「いえ……ずっと気になっていたのですが、エリオットは、なぜイチゴたちに結晶を使ったのでしょうか?」
「そりゃ、実験みたいなもんじゃないのか?」
「そう、ですね。でも、『イーリス教』の信徒であれば、モンスターにではなく、人間に使うのではないかと考えてしまって……」
……言われてみればその通りだ。人間の進化を目指すなら、人間に使った方が手っ取り早い。何か別の意図があるのか?
「……よし。本人に聞いてみよう。こういう時は……サンタナ。頼めるか?」
「畏まりました」
「あとは……リーズ! お前はどうする?」
ミモリに絵を教えてもらっていたリーズに声をかける。
「興味ないんで! お留守番してます!」
身もふたもない答えが返ってきた。
「んじゃ、いっちょ締め上げてくるか!」
今回は毒で死なせるような失態はできない。
何としてもサムヤサのことを聞き出さないとな……。
読んでくださってありがとうございます!
リーズは貴族だったんですね(笑)って、いつかこの設定を使いたいなーって思っていて、ようやく実現しました!(;^_^A
本編に絡めて使うことができたので満足です!( *´艸`)
貴族でAランク冒険者のエリオットとは……次話もお楽しみに!(*‘∀‘)ノ




