第三十六話 似顔絵
「来たぞー」
「今度はなんだい?」
ソファーでくつろいでいたルシフェルが体を起こす。
「これなんだけどさ……」
「うわ! 臭い! しまって! 早く!」
俺が巾着から結晶を取り出すと、ルシフェルは見もしないうちに拒絶した。
クンクン
……臭いか?
「早くしまって! それからサムヤサの匂いがプンプンする! 吐きそう!」
え? 吐くことあるの? ……俺はしぶしぶ結晶をしまった。
「はぁー、臭かった。やめてよ、そんな変なもの持ち込むの」
「しょーがないだろ。ルシフェルしか分かりそうなやついなかったんだから」
「……なんて日だ。さっきのあれ、前にルゥが持ってきた大きな結晶と同じものだよ」
「同じもの? 大きさが全然違うけど?」
「多分、サムヤサが手を加えたんじゃない? だから匂いもきつかったんだよ。忌々しい」
「サムヤサ本人が……? いや、実はさ――」
俺はゴブリンたちのことをルシフェルに話した。
「あー、もう頭痛い……。あのくそ悪魔、ほんとに何考えてるんだ」
ここまでお怒りのルシフェルはなかなか見られないな……。
「なんか、珍しいな。そんなに怒ってるの」
「怒るよそりゃ。『進化』っていうのは、ゆっくりと時間をかけて『偶発的』に起こる『現象』なんだ。それを『強制的』に『起こす』なんて、あのくそ悪魔は――神にでもなったつもりか!」
ルシフェルの語気に合わせて空間が大きく揺れた。
「お、落ち着いてくれよ! 俺が何とかするから、な?」
「……ふぅ。ごめんごめん。僕があいつのこと嫌いな理由、分かるでしょ?」
「ああ……凄く分かった」
「悪いけど、真っ先にあいつを封印してほしい」
「分かってるよ。そのつもりで動いてるからさ」
……他の悪魔の手がかりがないってのも理由だけど。
「それで、ゴブリンたちにさっきの結晶を渡した奴の特徴が、『ピカピカした服を着た人間』らしいんだけど……」
「そこがなー……腑に落ちないんだよね。僕のサムヤサのイメージは、汚い、臭い、気狂い。なんだけど……」
「ってことは、別の存在が関わってるってことかな」
「多分ね。宗教ができるくらいだから、あいつに協力する人間だっているんじゃない? ……嘆かわしいけど」
「まずは、そいつを見つけないと、だなぁ」
「うん。頑張ってね」
……よかった。いつものルシフェルに戻ってる。
「……ゴブリンたちは、急に暴れ出したりしないよな?」
「大丈夫だよ。取り込んだ結晶は、もう役目を終えてるはずだから。これから先どう成長するかは本人たち次第だ」
「……そうか。 ありがとう! また来るよ」
塔を出た俺は家に帰った。
「ただいまー」
……誰もいないか。
どうやら仲間と一緒にいる時間に慣れてしまったらしい。部屋に俺一人しかいない状況が、なんだか落ち着かなかった。
※※※※※
「お? 帰ってきてるじゃん。なんだ? 寝てたのか」
いつの間にかうとうとしていたらしい。俺はグランの声で目を覚ました。
「んぁ? ……寝てたみたいだな」
「ししょー! 待ってましたよー! 今回はどんな事件があったんですか!?」
「リーズ……お前、実は預言者か?」
「なにか、あったみたいね……」
「……毎回すごいですね」
「厄介ごとを引き寄せる体質なんだろうよ」
「ダイラ。……今回の件は、お前にも関わることだからな」
俺の言葉にダイラは口をへの字に曲げた。
「それで! 何があったんですか?」
「ああ、それがな――」
※※※※※
「へー、凄いな! 俺も会ってみたい!」
「言葉を話すゴブリンなんて……」
「……信じられませんね」
「流石師匠です! 私たちの想像の斜め上を飛んできますね!」
「オレントが面倒を見るのか……まぁ、お嬢が受け入れたんなら文句はないが……」
「いい奴らだぜ。今度紹介するよ」
「まじか! じゃあ、明日行こうぜ!」
「んー……そうだな。俺も明日、ソドムに帰るし、いいんじゃないか?」
「楽しみですね!」
「私の中の常識が音を立てて崩れていくわ……」
「……ドキドキしますね」
みんな、行く気満々だな。
「それじゃ、明日はみんなでソドムへ行くか!」
誰一人拒否しないとは……本当にいい仲間に恵まれたなぁ。
※※※※※
「いらっしゃいませ」
オレントの屋敷に皆を連れていくと、いつもの様子でサンタナが出迎えた。
「みんなをイチゴたちに会わせようと思って、連れてきた」
「承知いたしました」
「ルチアは?」
「お部屋にいらっしゃいますが、執務室では手狭ですので、応接室にご案内いたします」
サンタナが案内してくれたのは、少し広い応接室だった。
「あ! ルチアさん!」
「みなさん、いらっしゃい」
「ルチアさん、こんないい家に住んでるんだなー」
「グラン、失礼なこと言わないで」
「え? 何が?」
「もう、黙りなさい」
「ふふっ。みなさん相変わらずですね」
「ルチア、みんなをイチゴたちに紹介しようと思ってな。ルチアも行くか?」
「はい。もちろんご一緒します」
※※※※※
「おぉー! 本当にしゃべるんだな!」
「グラン、ヨロシク」
「イチゴさん! 私はリーズです!」
「リーズ、オボエタ」
「……し、信じられない……こんなことが」
「サリアさん、私も同じ気持ちです……」
「ダイラ? どうした?」
俺は腕を組んで観察しているダイラに声をかけた。
「いや……こいつらに何をさせようか考えていただけだ」
もう仕事モードのようだ。
俺たちが和んでいると、トコトコとミモリがやってきて、一枚の紙を差し出した。
「ん? どうした? くれるのか?」
ミモリはコクリと頷いた。
「これは……」
紙に描かれていたのは、一人の男性。しかも、めちゃくちゃ上手い……。
「ミモリ凄いな! めちゃくちゃ上手だぞ!」
俺が褒めるとミモリはくねくねと照れた。
「ルゥ、ソレ、ピカピカ、フクノ、ニンゲン」
イチゴがそう補足する。
「なに!?」
俺はもう一度紙に目を落とす。……知らない顔だ。
「おい! みんな、ちょっといいか?」
まさかこんな形で手がかりが手に入るとは……。
誰かこの男を知ってるといいんだが……。
読んでくださってありがとうございました。
ルシフェルは怒ると恐いんですね……:(´◦ω◦`):プルプル
そしてさっそく仲間にしたミモリちゃんが仕事をしてくれました!
似顔絵の男は何者なのか……次話をお楽しみに!( *´艸`)




