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第三十五話 名付け

「ただいまー」


「おかえりなさいませ」


 村から戻った俺を、サンタナは玄関で出迎えた。


「あいつら、どうなった?」


「オレントが所有していた空き家に住まわせています。見に行かれますか?」


「もちろん。ただ、先にルチアにも挨拶しようかな」


 俺の言葉にサンタナは微笑んだ。


「ルチアー」


 ルチアの部屋のドアを開ける。……そこにキリエの姿はなかった。


「おかえりなさい」


「……キリエは?」


「部屋を与えてかんき……おとなしくしてもらってます」


「そ、そうか」


「新しい仲間が増えたそうですね?」


「ああ。色々事情があって……事後報告になって申し訳ない」


「かまいませんよ。ルゥからも話を聞かせてください」


 俺たちはソファーに座り、ゴブリン騒動の件について話をした。


「私はまだ会っていませんが……言葉を話す、ゴブリンですか……」


「純粋で、いい奴らだよ。今から様子を見に行くんだが、一緒に行くか?」


「はい!」


 ……なんか、嬉しそうだな?


 ※※※※※


 郊外の見晴らしのいい高台に、一軒の家が建っている。周囲に他の家はなく、あいつらの住処としては申し分ない立地だ。


「こんないい家に住まわせてやるのか?」


 ……正直俺の家よりよっぽどいい造りだ。


「……ルゥ様のおっしゃる通り、良い条件の家ではあるのですが……少し、事情がありまして」


 歯切れの悪いサンタナに、俺は聞き返す。


「事情?」


「以前の持ち主が、この家で問題を起こしましてね……いわゆる事故物件と呼ばれる家でございます」


「なるほどなー。ま、あいつらなら気にしないだろうし、いいんじゃね?」


 俺は玄関に取り付けられた呼び鈴を鳴らす。


 リーン


 透き通った鐘の音が響く。しばらくして、内側からドアが開き、一体のゴブリンが顔をのぞかせた。


「よう。どうだ? この家は」


「スゴイ、カイテキ。ドウゾ。ハイレ」


 振り向くと、ルチアが衝撃で固まっていた。


「な? 凄いだろ?」


「はい……こんなことが……」


「とりあえず、入ろうぜ」


 家の中は綺麗に片付けられ、掃除されていた。


「ほう。これはなかなか……」


 サンタナが感嘆の声を漏らす。


「きれいじゃないか」


「オレタチ、ミンナ、ソウジ、シタ。アイツ、シジ、ダシタ」


 指で示されたゴブリンは、「ソレ、アッチ」「ココ、フク」と他のゴブリンに指示を出している。


「お、洞窟で掃除係だったやつか? あいつも話せるようになったんだな」


「アノアト、フタリ、ハナセル、ナッタ」


「そうかそうか。ちょっと話を聞かせてくれよ。座る場所あるか?」


「コッチ」


 ゴブリンは、応接間へ案内してくれた。

 ローテーブルを挟み、ゴブリンと向かい合ってソファーに腰を下ろした。


「サンタナ、スワレ」


「私はこちらで結構ですよ。役目ですので」


「……ヤクメ」


「はい。お心遣い、感謝します」


 ……待て、今、サンタナって言ったか?


「お前、人間の顔が分かるようになったのか?」


「スコシ、ワカル。フクノホウガ、モット、ワカル」


「へぇ。凄いじゃないか。俺は『ルゥ』だ。こっちは『ルチア』だ」


「『ルチア』です。よろしくね」


「ルゥ、ルチア、ヨロシク」


「そういえば、お前たちには名前はあるのか?」


「ナマエ、ナイ」


「じゃあ、名前をつけよう。そうだな……お前は『イチゴ』だ」


「オレ、イチゴ」


「ああ」


 名前をもらったイチゴは、どこか得意げな表情をしている気がする。……多分。


 俺たちはせっせと家を掃除するゴブリンたちの元へ移動した。


「アツマレ」


 イチゴの号令で、ゴブリンたちは手を止め、集まってくる。


「みんな頑張ってるな。えらいぞ。俺は『ルゥ』だ。隣にいるのが『ルチア』、後ろにいるのが『サンタナ』だ。今からお前たちに名前をつけるからな。ちゃんと覚えるんだぞ」


 俺の言葉に反応を示したゴブリンが二体。おそらく言葉を話せるようになったゴブリンだな。


「よし、まずお前は……もしかして雌か?」


 俺は首を傾げた。よく見れば、胸が少し膨らんでいるような……?


「オレ、メス」


 俺の問いかけに少し高い声で返事をする。


「サンタナ」


「はい。こちらを」


 ……流石サンタナ。

 俺はサンタナから差し出された一枚の布に頭を通す穴を開け、雌ゴブリンにかぶせた。ワンピースみたいになったな。


「他にも雌はいるか?」


 返事はなかったが、一体のゴブリンが、トコトコと俺の元へ。

 俺は同じように布をかぶせる。


「よし、それじゃあ、掃除係のお前は『ニコ』だ」


「ニコ、ナマエ、ウレシイ」


 そのあと、『ミモリ』、『シタツ』、『イヅク』と名前をつけてやった。

 話せないゴブリンも、飛び跳ねたりして喜びを表現している。その様子に、俺はなんだか癒された。


 俺たちは応接室に戻り、ゴブリンたちはニコの指示で掃除に戻った。


「本当に、知能が、いえ、学習力が高いですね」


 ルチアがそうつぶやいた。


「そうだな。人間と比べたら、驚異的な速度だよな。そんなわけで、こいつらの面倒、見てもらっていいか?」


「はい。お任せください」


「ありがとう」


 俺はイチゴの目を見据える。


「イチゴ。これからお前たちは『オレントファミリー』の一員だからな。しっかり学んで仕事をするんだぞ」


「オレント。ワカッタ。オレ、ガンバル」


 俺はイチゴの返事に頷いた。


 オレント屋敷への帰り道――


「あとは、あいつらをキリエに会わせるかどうかだが……」


「今はまだ、やめておきましょう」


「……だな。そのあたり、任せてもいいか?」


「もちろんです」


 うん。ルチアなら間違えないだろう。


「キリエの件は、大丈夫か?」


「まだ……少し手を焼きますが……なんとかして見せます」


 少し疲れた顔をしながらも、ルチアは力強く頷いた。


 オレントの屋敷で食事をとった後、俺はラングストラへ出発する。

 これのこと、ルシフェルに確認しないとな……。

 手に取った爪ほどの大きさの結晶が、禍々しい気配を放っていた。

読んでくださってありがとうございます。

書き終わったらほっこり回に仕上がってました(*‘ω‘ *)ホッコリ

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