第二十九話 進化の秘宝
「なぁ、俺もお前みたいに強く……レベル100になれるのか?」
チェンセンへの道中、ボンドが俺に問いかけた。
ボンドのギフトは『狩人』。『鍵司』の俺よりは、ずっとレベルを上げやすい。
「なれるぜ。塔で死ぬことを恐れなければ、だけどな」
「……お前は、何回死んだんだ?」
「100回以上だな」
「ひゃく!? ……それで、よく正気でいられたな……」
「まぁ、俺の場合は、塔から出られなかったしなぁ……」
あまり思い出させないでほしい……。
チェンセンの街に着いた俺たちは、そのままアジトへ向かう。
「薬屋が多いんだな」
「この街は薬で発展した街だからな」
「薬か……。そういえば、お前の言う『商人』が出入りを始めてから、アンガスに、何かおかしなことは無かったのか?」
ボンドは苦虫を噛んだように顔を歪め答えた。
「……そのころから親父は、気性がますます荒くなって……人を寄せつけなくなった」
おいおい……。
「……誰か止められなかったのか?」
「あの時の親父に物を言える人間なんて、誰も居なかったんだよ!」
……まぁ、アンガスだもんなー。
「……あそこだ」
俺たちは『商人』のアジトを、少し離れた物陰から窺った。
人通りは無く、開けた場所にこじんまりとした木造の倉庫が建てられており、入口には見張りが二人、暇そうに何かを話していた。
「あのサイズの倉庫に見張りが二人は多いな……」
「何かヤバいもんでもあるんだろうよ。……ここから、どうする?」
「そうだな……」
俺は周囲を見回した。
「人目もないし、これなら問題なさそうだな。強行突破するぞ」
俺の言葉にボンドは凶暴な笑みを浮かべた。
「おう!」
俺は自然体で倉庫へ向かって歩き出した。
倉庫番の一人がこちらに気づいた瞬間、俺は一気に間合いを詰め、二人の首筋へ手刀を打ち据える。
ドサドサッ
「おい。殺さないのか?」
「……こいつらもお前の親父の仇なのか?」
「……いや、すまん」
崩れ落ちた倉庫番を二人で倉庫の脇へ移動し、馬車も入れる大きさの引き戸を開けた。
倉庫の中は木箱が山積みになっていた。箱を開けて中を確認すると、『回復薬』の小瓶がぎっしり詰められている。
「んー、普通の回復薬っぽいな」
「……どうなってるんだ?ここに『商人』が出入りしているのは確かなんだが……」
見た感じ、どの箱も同じ造りだ。
「なにか、別の……」
俺は倉庫の中を調べまわる。
「お! あったぞ」
「何か見つけたのか?」
倉庫の奥の床には、地下へ続く蓋のような扉が設置されていた。
「ここか!」
「ちょっと待て」
扉に駆け寄り、開けようとするボンドに声をかける。
「何だよ」
「俺が開ける。少し離れてろ」
ボンドは腑に落ちない顔をしながらも、一歩下がった。
俺が扉を引き開けた瞬間――
暗闇の奥から一本の太い矢が俺をめがけて飛んできた。
顔の直前で矢を掴み、片手でへし折って床に捨てる。
「やっぱ罠か……。あぶねぇな」
「……俺だったら……顔にぶっ刺さってた……」
ボンドは少し青ざめた顔でつぶやいた。
「気にするな。塔で鍛えれば、お前にもできるようになる」
「で、できる……のか?」
「……多分な。それじゃあ、行くぞ」
階段の壁には特殊な塗料が塗られているようで、ぼんやりと光を放っている。狭い階段を降りた先には、古びた木の扉が待ち構えていた。
「……中に一人、いるな」
俺はボンドと視線を交わし、小さくうなずいて扉を押し開けた。
鼻の奥を刺激する臭気に、思わず顔が歪む。
部屋にはいくつもの実験器具が置かれ、赤、青、緑、くすんだ色の液体がうっすら光を放っていた。
そして……実験器具が置かれた机の前で、白衣をまとったぼさぼさの髪の人影がぶつぶつと何かをつぶやいている。
「おい」
…………。
俺の呼びかけに、人影は反応を示さない。
もう一度呼びかけようと口を開いたその時、その人影の左手がスッと何かを指さした。そこに視線を向けると、机の上に小さな木箱が置かれていた。俺は木箱を手に取り、蓋を開けた。
「これは……」
木箱の中には、人差し指ほどの細長い結晶が一本だけ収められていた。その不気味な色合いと放たれる気配が、俺にトーラス遺跡で見た『種』を連想させる。
「おい!」
俺は声を大きくして白衣の人影に呼びかける。
ようやくそいつはのっそりとこちらに顔を向けた。
「うるさいですねぇ。作業中は話しかけるなと言っているでしょう」
目の下にクマをつくったその女が、気だるそうに吐き捨てた。
「これは、何だ?」
俺の質問に、女は首をかしげる。
「なんだ? とは? ……あれ? アナタ、誰です?」
「……新しく雇われた運び屋だ。これは何だ?」
「決まっているでしょう。『進化の秘宝』ですよ! 我々人間が、更なる進化を遂げるための鍵です!」
そう言い放った女の目は、狂気に染まっていた。
「……進化だと?」
女は露骨に舌打ちし、厠の害虫を見るような目つきに変わる。
「はぁ……馬鹿にでも分かるように説明してあげましょう。ソレは、人間の能力を飛躍的に高め、人間を超えた存在へと生まれ変わらせることができるモノ。ゆえに進化! ゆえに秘宝なのです!」
……説明を聞いて吐き気がしてきた。
「これは……お前が作ったのか?」
「当たり前でしょう! これを作れる人間が、ワタシ以外にいるとでも?」
「そうか。それを聞いて安心した」
「は?」
〘施錠〙
ゴトッ。
女は力なく机に突っ伏した。
「お、おい、今のが……」
「ああ。俺のスキルだ」
「はたから見てても何が起こったのか、全く分からなかったぞ。……とんでもないスキルだな」
「まぁな。俺も最初は驚いたよ。それより……『商人』はいなかったな」
ボンドがはっとする。
「そうだ! こいつじゃねぇ。まだ終わっちゃいねぇ!」
「おそらく、商人はコレを取りに来るだろう。ここで待ち伏せするか」
こんなところにいたくないけどな……臭いし。
読んでくださってありがとうございます!
また濃い目のキャラが出現しましたね(;^ω^)
残念なことに本命ではなかったので、ルゥ達には次話まで臭い部屋で過ごしてもらいます( ;∀;)
次話もお楽しみに~(*‘∀‘)ノシ




