第二十六話 サリアの機転
「ルゥ!」
考え事をしながら歩いて戻っていると、通路の向こう側からグランたちが走ってきた。
「やったんだな!」
グランが軽く手を上げる。
「おう」
パンッ!
軽快な音が通路に響き渡った。
「……本当に、ダンジョンを封印したのね……」
「嫌な気配も、体にまとわりついていた怠さも無くなったんで、師匠がやったんだってすぐに分かりましたよ!」
「……ボスを、倒したんですか?」
……なんと説明していいものやら。あの影がボスだったんだろうか?
「正直……俺も何を倒したのかよく分からないんだ」
「ん?どういうことだ?」
「一番奥にいた、ヤバい『影』を倒したらこうなった」
「ふーん……つまりボスって事だろ?まぁいいじゃねーか!全員無事に、ダンジョンを制覇したんだぜ!」
グランの能天気さに俺は笑った。
「そうだな。考えても分からないし、帰ってルシフェルに聞くか」
俺が問題を棚上げすると、
「それで、ここの事はどう説明するのかしら?」
すぐに別の問題が発生した。
「……説明……しなきゃダメ?」
「……逃げましょうか。逃げきれるか分からないけど……」
サリアはこれまで見たことが無いほど疲れた顔でつぶやいた。
「そうだ!いっそのこと――」
「「「「ダメだぞ(です)!」」」」
「お、おう……」
対の刃に押し付け作戦は即座に撃沈した。
「それじゃ、帰ろうか」
俺たちは出口に向かって歩き出した。
※※※※※
「……いるな」
「はぁ……。予想通りね」
十階層の階段付近で、別の冒険者たちの気配を感じ取った俺たちは、階段にしゃがみ込んで様子を伺っている。
「もう全部師匠がやったって、バラしちゃえばいいのでは?」
「論外だ」
「でも、どうします……?あれだけ人が居たら逃げようがないんじゃ……」
「問題ない。強行突破する」
「戦うのか?」
「そんなわけないだろ。俺のスキルを使うだけだ」
「……殺さないでね?」
「殺すかよ!」
全く……人をなんだと思ってるんだ。
「じゃあ、行ってくる」
俺は対の刃に声をかけると、巾着から黒仮面を取り出し装着する。
一足飛びで封印の前まで移動し、冒険者たちが俺の存在を認知する前に――
〘施錠〙
ドサドサッ
冒険者たちは一斉にその場に崩れ落ちた。
「今のうちだ! 早くこっちへ!」
〘開錠〙
俺が張りなおした封印が光と共に消え去る。
「走れ!」
階段の反対側の通路まで走り、俺は倒れている冒険者たちへ向けて再びスキルを使う。
〘開錠〙
……これで良し。
通路まで移動し、物陰から様子を見ていると、冒険者たちは一人、二人……と順に目を覚ました。
「上手く行ったな」
パシンッ!
なっ!
頭に受けた衝撃に驚き振り向くと……そこには鬼の形相のサリアがいた。
「殺したかと……思ったわ?」
「す、すみません……」
その迫力に、思わず敬語で謝ってしまった。
「なぁ、ここに居たらまた別の奴らが来ちゃうだろ?早く行こうぜ」
気を利かせてくれたグランがサリアに声をかける。
「待ちなさい。今は、あの人たちと合流しましょう」
……なるほど。さすがサリア。
「え?なんでだ?」
グランの問いかけに、サリアは小さく息を吐く。
「今このダンジョンにいる冒険者なら、ギルドへ報告に向かうか、原因を探るために奥へ進むかの二択しかないの。もうギルドへ報告に向かった人たちは出て行っているでしょうから……このタイミングで私たちが出て行ったら怪しまれるわよ」
「は~。凄いなサリア」
リーズとシルもコクコクとうなずいている。
「じゃあ、サリア。上手い事頼むぜ?」
サリアはげんなりした表情で俺を睨みつけた。
「……みんな、走ってついてきて」
サリアが冒険者たちに向かって走り出した。
俺たちも後へ続く。
「あの! 何が起きてるんですか?」
階段の前でこちらを警戒していた冒険者たちに、サリアは問いかけた。
冒険者たちは、こちらに敵意が無いことを察して警戒を緩める。
「君たちもダンジョンの異変が気になったのか?」
ダンディな顎髭を生やした剣士が問いかける。
「はい。私たちは対の刃というPTです。急にダンジョンの気配が変わって、モンスターも居なくなったので、何か起きたのかと……」
「ほう。君たちが噂の『ドラゴンキラー』か」
髭の剣士は目を見開いてニヤリと笑った。
「『ドラゴンキラー』だってよっぐぉっ」
にやつくグランの脇腹に、サリアの肘がめりこんだ。
「まだまだ先輩たちには及びませんよ。それで、このダンジョンで何が起きてるんですか?」
「それがなぁ……先輩たちにも分からんのよ」
髭の剣士は頭をかいた。
「急にモンスターが消えたんで、原因を探りに奥へ進もうと思ったら、ここにあった封印がおかしなことになっていてな……」
髭さんが親指で階段をさす。
……対の刃からの視線が痛い。
「今は、何も無いようですけど……」
「ああ、今は、な。さっきまでここに封印が張られていたんだが……」
「確かに、ここの階段にはいつも封印が張られていましたが……それが?」
「俺たちはこれでもAランクだからな。今日はこの先に進むつもりで『結界師』を連れてきたんだ」
結界師……ルチアと同じレアギフト持ちか。
「おれおれ! 俺っちがその結界師! それがよー、おれっちの張った結界じゃなかったのよ。どうすれば良いか困っちまってよー」
……自己主張の強い結界師もいるんだな。
「それで、どうされたんですか?」
髭さんが首を振る。
「何もしていない。まぁ、どうするか相談していたんだが……」
「そしたら! いつの間にか封印がとけてたんだよ! 何が起こったか全くわからねーよ!」
「とりあえず、俺たちは先に進むが、君たちはどうする?」
「私たちは、街へ引き上げようと思います」
「そうか。それじゃあ、またどこかでな」
「ありがとうございました」
サリアは礼を言って頭を下げた。
俺たちは出口へ向かって歩き出す。
「んー……。俺っちからすれば、ダンジョンよりあの封印の方が異常事態なんだけどなー」
去り際に聞こえた結界師の言葉が、俺の罪悪感を刺激した。
読んでくださってありがとうございます!
今回のMVPはサリアねーさんですね!(*‘∀‘)
キャラが自然と仕事をしてくれるので、書き手としては助かります(笑)




