第二十二話 世界の仕組み
「ウリエルについて、知ってることを全て話してもらおうか」
次の日。
俺はルチアを塔に放り込み、その足でルシフェルの部屋に駆け込んだ。
「……ウリエル。久しぶりにその名前を聞いたよ。どこで聞いたんだい?」
「ジークフリードって人と仲間になってさ。その人がウリエルから能力を授かったんだってさ」
「そうか。……察してるかもしれないけど、ウリエルは僕と同じ、この世界の管理者だよ」
「やっぱりな。そういえば、ジークフリードの紋様は羽が四対だったんだけど、俺の紋様と違うのはなんでなんだ?」
「ふふん。それは、僕の方が先輩だから」
ルシフェルは嬉しそうに言った。
「先輩とか、あるのか……。因みに、ジークフリードは『ファフニールを打ち倒すために授かった』って言ってたんだけど、それって、ウリエルは外の世界の状況を把握してるってことか?」
「へぇ……まぁ、ウリエルは『智』を司る管理者だからね。ある程度、世界の状況は把握してるかもしれないね」
ルシフェルの目が泳ぐ。
「……それってルシフェルより有能なんじゃ?」
「ごふっ……。そ、そんなことないけど? ルゥに授けた紋様の方が、加護が強いだろう?」
「それはそうだな。ジークフリードは魅了されてたし……あ! そうだよ! 悪魔を一体倒したんだ!」
俺の言葉にルシフェルが目を丸くする。
「……凄いじゃないか。『魅了』といったね? その悪魔の権能かい?」
「多分な。そいつを倒したら魅了が解けたし……」
「そうか……。ありがとう。本当にルゥを選んで良かったよ」
「……な、なんだよ急に……」
「正直、こんなに早く君が悪魔を討伐するとは思ってなかった。……期待以上だよ。君は」
真顔でそんなこと言われても受け止めきれないんだが……。むずむずするなぁ。
「……それが俺の使命だろ。それより、他の管理者と悪魔について知ってることを教えてくれよ」
ルシフェルはくすりと笑い、話し始めた。
「少し長くなるよ。この世界には七つの塔が存在する。それぞれの塔に管理者が一人。ウリエル、ミカエル、ガブリエル、ラファエル、ラグエル、レミエル……そして、僕だ」
…………。
「……覚えきれん」
「期待してない」
「ひどい」
「……まぁ、とりあえず、僕以外にも管理者はいる。そして、僕と同じく、この世界を管理する使命が与えられている。それだけ覚えておいて」
「分かった!」
「それで、悪魔の事だけど、同じく七体。アザゼル、アリエル、アンスベ、サムヤサ、カミエル、サリエル、サマエル……覚えた?」
「無理だろ。それより、管理者と同じような名前が多くて混乱してる」
「仕方ないじゃないか。もともとは管理者だったんだから」
「……ん? 管理者だったってことは……もともと塔は14あったってことか?」
「良いところに気が付いたね。ルゥの言う通り、太古の昔、この世界の始まりは14の塔があったんだよ。前に少し話したけど、彼らは管理者としての使命を放棄したことで、悪魔になった。そして、その時、この世界に生まれたのが――『七つのダンジョン』だ」
「え? ってことは、悪魔がダンジョンを生み出したってこと?」
俺の疑問にルシフェルは首を振った。
「いや。悪魔がダンジョンを生み出したわけじゃなくて……、悪魔が生まれた時、管理されていた塔がその役目を失い、ダンジョンへと変質した。……という方が正しいかな」
「だから、俺が封印するわけか」
「そういうこと。もともと神が造った塔が元になってるからね。危険度は他のダンジョンとは比較にならないんだよ」
……ミスったか?
「俺の仲間にダンジョンの様子を見てきてって頼んじゃったんだけど……」
「んー……浅い層なら大丈夫だと思う。……今はまだね」
「今はまだ、か。急いで封印しないとな……」
「気を付けるんだよ。おそらく、悪魔達は七つのダンジョンを利用して、この世界を破滅に導こうとしてる。ルゥの話を聞く限りでも、かなり力を蓄えているようだからね……」
「……どうやって?」
「え?」
「具体的に、どうやって利用するんだ?」
「……ふっ。僕は悪魔じゃないからね」
「役に立たない奴だな」
「ひどい」
「あ、そういえば、俺が倒した悪魔はなんて奴だったんだ?」
「〘魅了〙の権能を持つ悪魔は、『サマエル』だね。……悪魔の権能は恐ろしい力を秘めているけど、純粋な戦闘能力で言えば君たち人間と変わらない。悪魔の権能に引きこまれないように、上手く戦うんだよ」
「……わかった」
※※※※
ルシフェルの部屋を出た俺は、塔の前でルチアと合流した。
「どうだ? レベルは上がったか?」
「はい! 今53です!」
おっと、ルチアも天才か……。
無邪気にはしゃぐその姿は、いつもより幼く見えた。
「少し気になる事ができた。俺は冒険者ギルドに顔を出してくる」
「はい。私も行きます」
……え?
「……レベル上げは?」
「心配無用です」
きっぱりと言い切られてしまった……。
鉄の営業スマイルから硬い意思を感じた俺は、仕方なくルチアも連れていくことにした。
※※※※※
「ランクが低くても、『嘆きの壁』に入る方法はないかな?」
俺の問いかけに、受付嬢は物凄く嫌な顔をした。
……はぁ
おい、溜息出てるぞ。
「ありません」
「ランクが低くても、実力があるPTだっているんじゃない?」
「ええ、いるでしょうね。それが?」
「いや、だから、ランクが低くても『嘆きの壁』に挑戦したっていいんじゃないかってことだよ」
「認められていません。そもそも、あなたは勘違いされているようですが、ランクは強さだけで決まるものではありません」
「……じゃあなんだよ」
「ランクは『実績』なのです。冒険者PTが依頼を達成したという積み重ねが、ランクに示されているのです。つまり、『社会的な信用』です。あなたは実績のないPTに依頼を受けてもらいたいと思いますか?」
「……思わないな」
「ご理解いただけたようで」
受付嬢に完敗したショックで、とぼとぼと肩を落とす俺の隣にルチアが並んだ。
「残念でしたね……」
「いや、全くもって正論だった。俺の認識が甘かったよ」
「では、どうなさいますか?」
俺が口を開きかけたその時――
「おう兄ちゃん。あんまり受付嬢を困らせるもんじゃねーぜ?」
俺たちの前に四人の男が立ちふさがった。剣士、拳闘士、魔術師にヒーラー……かな。
「興味本位で聞いただけだ。受付嬢の言うことももっともだったし、もう諦めるよ」
「身の程をしらねぇとあっという間に死んじまうぞ? それとも、女の前でかっこつけたかったのかぁ?」
拳闘士らしき男がバカにした口調で俺を挑発する。
「そっちのねぇちゃん、俺たちのPTに入りなよ。俺たちと一緒なら『嘆きの壁』に入れるぜ」
へぇ。こいつらBランクなのか。
「お断りします」
「……ぶっ! ぎゃはは! だっせぇ! 振られてやがる!」
……身内で盛り上がってんじゃねーよ。傷心していた俺は、少し気が短くなっていたようだ。
「もういいか。忙しいんだ」
「あ? お前、さっきから先輩に対して態度がでけーんじゃねーか?」
剣士が俺に掴みかかろうとした時――
「ひっ……」
ルチアが手に持ったナイフを剣士の首筋に添えていた。
剣士の体がびくりと震える。
「態度がでかいのは、お前の方だ」
冷気を宿したその言葉に、四人組は瞬時に青ざめる。
「……おい、今の動き、見えたか?」
「お前に見えない動きが、俺に見える訳ないだろ」
残りの三人は慌てて顔を寄せ、小声で何かを話し始めた。
「き、今日はこれくらいにしといてやる。あんまり調子に乗るんじゃねーぞ!」
剣士はずりずりと後ずさり、負け台詞を吐くと背中を向けて一目散に逃げ出した。
「おっ、おい! 待てよ!」
バタバタとギルドを出ていく四人。
騒がしいやつらだな……。
今の騒ぎを見て少なくない人だかりができてしまった。
「ありがとう。助かったよ」
俺の言葉にルチアは満足げに微笑んだ。
「場所を変えよう」
冒険者として『嘆きの壁』に挑むのが難しいのなら、別の方法を考えないとな……試してみるか。
俺たちは冒険者ギルドを後にした。
読んでくださってありがとうございます!
ルチアも個性が出てきましたね(*‘ω‘ *)




