第十九話 国王登場
「ふぁ~」
眠い……。
あの後――
「そういえば、なぜ悪魔はこの街に来たのだろうか?」
「おそらく、オークションに出品される、『遺物≪ラグナロク≫』が目当てだったのではないかと……」
「遺物だと!?」
急に大きな声を出したジークフリードに、俺たちは驚き固まった。
ジークフリードは自分の醜態に気づき、咳ばらいをする。
「す、すまない。しかし遺物か……。それは、是非見せてもらいたいのだが……どうだ?」
ジークフリードがそわそわしている。
「そうですね、見るだけでしたら……」
ルチアは困った表情を浮かべながら了承し、俺たちは倉庫へ移動した。
ガラスのケースに収められた一本の剣。
俺が見た時となんら変わることなく、神秘的なオーラを放っている。
「これが遺物か……なんという美しい刀身……」
ジークフリードはラグナロクを収めたケースにへばりつき、子供のように目を輝かせている。
「ルチア殿、ラグナロクを譲っていただくことは?」
「申し訳ございません。明日のオークションにご参加ください」
すげなく断られたジークフリードは、落ち込む間もなく、再び食い入るように見つめている。
「……はぁ。申し訳ございません。陛下のアレは不治の病のようなものでして。優れた武器を集めるのが趣味なのです」
老騎士が溜息を吐く。
「わからなくもないけどな」
「国家予算を使ってまで武器を買い集めるなど言語同断です」
……それはやりすぎだ。
「あ! あぁ! もう少しだけ!」
老騎士に引きずられ、ジークフリードは部屋に戻っていった。
そのあと、三日目も何かが起こるに違いないと、俺たちは対策を練り、結局一時間しか寝られなかった……。事実、今日は集まった人の数も多く、会場の熱気もこれまでの二日間とは比べものにならないのだが。
「なんですと!」
サンタナが声を上げた。
……デジャブだ。嫌な予感しかしない。
「お嬢様。国王がお忍びで会場に姿を現したとの報告が……」
ルチアが崩れるように頭を抱えた。
「なぜ……お忍びでこられたと分かったのですか?」
ふり絞るような声で確認するルチアに、サンタナは申し訳なさそうに答えた。
「あの……変装はされているようなのですが……見ていただければ分かるかと」
会場に入ると、オークションの熱気がビリビリと肌を震わせた。その熱気の中で、一人だけ場違いな存在感を放つ人物が……。
「おいおい、正気か?」
客席の中でもひときわ目立つ巨体に、いかにも怪しげなフルフェイスのマスク。その堂々とした佇まいから、隠しきれないオーラを放っていた。
よく見たらあのマスク、額に『王』って書いてあるじゃん……。逆に目立つとは考えなかったのか?……ていうか誰か教えてやれよ。
こめかみをほぐし、深呼吸を済ませたルチアが覚悟を決めた。
「行ってまいります」
国王の元へ近づき、耳元でささやく。
「マーテル国王陛下」
国王はビクッと肩を震わせ、ルチアを見た。しかし何事もなかったかのように、視線をステージへ戻す。
「国王様」
「人違いじゃ」
二度目の呼びかけに即答する。あ、ルチアの後ろに怒りのオーラが見える。
「国王様。こちらでは他のお客様のご迷惑になります。どうかVIPルームへお越しください」
この言葉に国王は観念したらしい。ゆっくり立ち上がり、ルチアに従った。
「おかしいのぉ。なぜばれたのじゃ?」
VIPルームのソファーに体を預けた国王は、マスクを外しながら、そうぼやいた。
こいつ……本気か?
「本日は我々の開催するオークションに足をお運びいただき、誠にありがとうございます。しかしながら、このような場所に、国王様お一人でお越しになられるなど……」
マーテルは片手を軽く上げ、ルチアの言葉を遮った。
「よせよせ。王宮の外で堅苦しいことを言われるのは嫌いじゃ。それにな。一人で来ているわけがなかろう」
……確かにいるな。三人か。
ルチアたちは気づいていないようだが。
「まぁよい。一度オークションなるモノの空気を味わってみたかったのじゃ。許せよ」
「それでは、こちらにお越しになられた目的は」
「遺物に決まっておろう。あれは、この国にとって脅威となる存在じゃ。我々が管理しなければなるまい」
マーテルの宣言にルチアは顔を青くする。
「勘違いするでないぞ。ワシらは真っ当に、オークションで競り落とすつもりじゃ」
「さようでございますか……。それでは遺物は最後の出品でございますので、それまでこの部屋でおくつろぎください」
ルチアが深々とお辞儀をして、退出しようとしたその時。
「そういえば、『狂帝』がこの街に向かっていたそうだが、どうなったか知っておるか?」
このおっさん……どこまで把握してるんだ?
「いえ、私共は存じ上げません」
ルチアは振り返り、完璧な営業スマイルを崩さぬまま答えた。
ホテルの執務室に戻ると……なぜか噂のジークフリードがサンタナになだめられていた。
……あいつ、まだあきらめてないのか。
「おかえりなさいませ。ジークフリード陛下がその……ラグナロクを譲って欲しいと……」
「ルチア殿! 手持ちで換金できるものはすべて金に換えてきた! 国へ帰れば、さらに金を用意できる! ラグナロクを譲ってくれ!」
老騎士がいないところを見ると……撒いてきたなコイツ。
「申し訳ございません。本日はマーテル国王もお越しになられておりまして、先ほどオークションで競り落とすと宣言なされましたので」
ルチアの鉄壁の営業スマイルが炸裂した。
「なっ……。くそっあのおっさんも来てるのか……。いや、まてよ? おっさんから借りればいいんじゃないか?」
何かひとりでぶつぶつ言い始めたジークフリードに問いかける。
「国王と知り合いなのか?」
「ん?あぁ。まだ私が冒険者をしていたころにな。散々いいようにこき使われた、嫌な思い出だ」
やはり油断ならない相手か。俺もばれないように気を付けないとな……。
オークションも終盤に差し掛かり、会場全体の熱気は最高潮に達していた。
そして、俺たちは三度ラグナロクの前へやってきた。
「それでは、ラグナロクをステージまで運びます」
ダイラと俺はガラスケースを二人で抱え、ルチアが移動に合わせて結界を張りなおす。サンタナは周囲を警戒し、俺たちはステージ脇へと移動した。
そして――いよいよラグナロクのオークションが始まった。
「皆さま、大変長らくお待たせいたしました。今回のオークション最大の目玉――『遺物≪ラグナロク≫』でございます!」
司会者の合図とともに、俺とダイラはケースをステージの中央まで運んだ。そして、司会者がケースにかけられていた幕を取り払うと、神秘的なオーラを放つラグナロクが露わになった。
「「「おおお!」」」
その場にいた誰もが、その圧倒的な存在感に感嘆の声を漏らす。
マーテルの隣にジークフリードもいるんだけど……。
まぁいいか。
「それでは! 5000万からスタートです!」
「5億!」
最初の一声で10倍!? 俺が驚く暇もなく、
「10億!」
「15億!」
億単位で進むオークションに俺は恐怖を覚えた。
「20億!」
「25億!」
「……28億!」
「30億!」
入札額の上がり幅が小さくなり始めた、その時。
「100億」
静かに、そして有無を言わさぬ口調で、不敵な笑みを浮かべながらマーテルは言い放った。
「……100億です! 100億が出ました! いかがですか!? 他にいらっしゃいませんか?」
先ほどまでの熱気が嘘のように、会場は静まり返った。
「それでは100億で落札です! おめでとうございます!」
司会者の宣言と共に、オークションは閉幕した。
※※※※※
「やれやれ、無事確保できて何よりじゃ」
「おめでとうございます」
ルチアからマーテルにラグナロクが手渡される。マーテルは鞘から剣を抜き、ほぅと感嘆の息を漏らした。
「見事な品じゃ。これほどの逸物は、初めて見るのぉ」
「どうか、厳重に管理なさってください」
営業スマイルのルチアが言うと、なんか怖いな。
そういえば、さっきまで一緒にいたジークフリードの姿が見えない。あいつなら何があっても、この場に居座りそうなんだが……。
俺は、確認の意味を込めてマーテルに尋ねた。
「国王陛下。ジークフリード陛下はどちらへ?」
「あやつなら、連れの騎士に引きずられて国へ帰ったわ。『狂帝』のツケがたまっておるそうだぞ」
そう言うと、愉快そうに声を上げて笑った。
……なるほどな。
「それじゃあ、世話になったの」
マーテルはルチアに小切手を渡し、ひらひらと手を振って部屋を後にした。
俺は安堵の溜息をついたルチアに声をかけた。
「ルチア。話がある――」
読んでくださってありがとうございます。
国王の曲者ぶりが半端ないです。書いてて楽しいキャラでした(*‘∀‘)




