第十四話 ルチアの秘密
「ルゥ様。お早いお戻りで」
「異常は……無さそうだな」
「ええ。全く問題ございません。そちらも上々のようで」
「ああ。無事、認めてもらえたようだ」
「何よりでございます」
サンタナは満足げにうなずいた。
「そういえば、今回の依頼、どうして遺物の護衛じゃないんだ?」
俺の何気ない問いかけに、サンタナは一瞬思案顔になる。
「その件は、お嬢様ご自身からお話しいただくべきでしょう」
そう言ってルチアの部屋の扉をノックした。
……これはミスったかな? そこまで深い理由があるとは思ってなかったんだが。
「ルゥさん。どうぞお入りください」
顔を出したルチアにあっさりと入室を許可されてしまった。
「失礼」
広さは俺の部屋と変わらないようだ。少しいい香りがする。部屋にルチア以外の姿はなかった。
「侍女はつけないんだな」
「ええ。いろいろと秘密が多いものですから」
ふふっと笑う。
部屋のソファーに腰を下ろし、ルチアが口を開く。
「これからお伝えすることは、オレントに関わる重大な秘密です」
あ、やばい、これは聞いてはいけない話だ。組織の秘密なんて聞いたら抜け出せなくなる。俺が慌てて待ったをかけようとしたが――ルチアはそれよりも早く言い放った。
「私のギフトは『結界師』です」
その告白に俺は固まった。
……結界師? ……想像を超えてきたな。
結界師は国もギルドも喉から手が出るほど欲しがるレアギフトだ。対象を守ることに関して右に出る者はいない、とまで言われている。
「どうされました?」
頭を抱える俺に、ルチアはニコニコと笑顔を向ける。
「……聞かなかったことには」
「できません」
……はぁ。
「俺が裏切るとは考えないのか?」
「そんな浅い考えをお持ちの方には見えませんし……何か目的があって、今回のお話を受けられたのでは?」
……バレバレかよ。確かに、オレントファミリーには今後俺の活動を手伝ってもらうつもりではいたが……。
俺はルチアの顔を見る。その笑顔に隙は無い。
……肝が据わった女だ。伊達に一大マフィアを率いているわけじゃないらしい。
それじゃあ、俺も腹を括るか。
「淑女の秘密を打ち明けていただいた礼として、俺も見合った話をしよう――」
「……私の話に見合っていないのでは?」
俺の話を聞き終えたルチアは愚痴をこぼすようにつぶやいた。流石にポーカーフェイスを保つこともできないようだ。少し汗もにじんでいる。
「そちらの覚悟に合わせたまでだ」
俺の言葉にルチアは困ったように唇を尖らせる。その表情は少し幼さを感じさせた。
「……聞かなかったことには」
「できる訳ないだろう」
俺はニヤリと笑う
「……はぁぁ」
今度はルチアが深い溜息を吐いた。
「……分かりました。知ってしまった以上、目を背けるわけにはまいりません。オレントファミリーは、可能な限りあなたに協力いたします」
「頼らせてもらうぜ」
俺が差し出した右手を、彼女はそっと握り返した。
ルチアはサンタナを呼び出すと、俺の話を簡潔に説明し、ダイラと共有するように指示を出した。サンタナは珍しく目を見開き驚いた様子だったが、俺を見てニヤリと笑い部屋を出ていった。
……なんだ今の顔は?
「さて、少し疑問があるんだが、結界師っていうのは自分自身は守れないのか?」
俺の問いかけに、ルチアはあっさりと答えた。
「守れますよ。……ああ、護衛をつける理由、ですか? 結界師は、その存在を特定されないことが何よりも重要なのです」
……そういうことか。
「マフィアのボスに護衛がついてなきゃ、不自然だもんな」
「ええ。それに、動く相手に結界を張り続けるのは、想像以上にSPを消費するのです」
ルチアの話だと、結界は空間に対して発動するため、対象の動きに合わせて結界を張りなおす必要があるらしい。
「つまり、標的を絞らせないように振る舞うことが大事だと」
「おっしゃる通りです」
ルチアは満足げに微笑んだ。
「分かった。それじゃ、何か気になる動きがあれば教えてくれ」
「承知しました」
俺はルチアの部屋を後にした。
「お待ちしておりました」
そして、部屋の前でサンタナとダイラに捕まった。
「……少し休ませてくれないか?」
「申し訳ございません」
即答された。顔を歪める俺にかまわず、二人は強引に部屋に入ってくる。一気に男臭くなった俺の部屋で、サンタナが勝手に紅茶を入れ始める。
「話はサンタナから聞いたんじゃないのか?」
「それだけで足りる訳がないだろう。お前の規格外な強さの理由は分かった。だが、それよりも……大事な話がある」
「なんだよ?」
俺の問いかけにダイラは黙り込む。サンタナが俺たちの前に紅茶を並べる。
……いい香りだ。
サンタナは一口紅茶を飲み、満足そうに頷くと、俺の目を見て問いかけた。
「率直にお伺いいたします。お嬢様の事をどう思いますか?」
……ルチアの事を、どう思うとは……?
「頭の切れる、肝の据わったいいボスじゃないか?」
俺の答えに二人が溜息を吐き、やれやれと頭を振る。
……なんだよその反応は。
「そんな当たり前の回答を求めているわけではございません」
「お嬢は、女としてどうだって聞いているんだ!」
こ、こいつら、なんでこんなに必死なんだよ……。
「私は、お嬢様が生まれた時からずっとお仕えしてまいりました」
「こんな稼業だからな。まともでお嬢に釣り合う男は、一人も現れなかった」
「お嬢様も年頃の女性です。そろそろ幸せになっていただきたい。それが我々の願いなのです」
「知ったことか! だからって俺に振るなよ!」
「お嬢の何が不満なんだ!」
「不満とかそういう話じゃねぇ! 出会って半日だぞ! 無茶が過ぎるだろ!?」
俺の言葉にサンタナはゆっくりと頷いた。
「なるほど……確かに我々は急ぎすぎたかもしれませんね。これから我々はパートナーとして動くのですから、時間はたっぷりございます」
サンタナの言葉にダイラも不承不承頷いた。
「まぁ、焦ってどうなる事でもねぇな。だが、俺たちはお前にならお嬢を託せると思っている。忘れるなよ」
「お時間をいただき、ありがとうございました」
「明日からよろしくな」
嵐が去った後のように静けさを取り戻した部屋で、俺は一人崩れ落ちる。
「……つ、疲れた」
今日はもう寝よう……。
俺はそのままベッドに倒れこんだ。
読んでいただいてありがとうございます。
気がつくと、ダイラがダイナになってたりして……適当に名前をつけるのは良くないなと実感しました( ;∀;)




