第十五話 逸材現る
オークションが始まる少し前。
「これをどうぞ」
「なんだこれ……仮面か?」
ルチアに渡されたのは黒い仮面だった。
「顔を隠した方が、いろいろと都合がいいかと思いまして」
「ああ。助かるよ。ありがとう」
「どういたしまして」
ルチアは満足そうに笑顔を向けた。
気が利く人だな。これでマフィアのボスじゃなきゃねぇ……ほっとく男はいないだろうに。
そして、いよいよオークションが始まった。
主催者であるルチアの挨拶を皮切りに、武器、防具、宝石、魔術書……あらゆるものがオークションにかけられていく。
「凄い熱気だな……」
主催者席で様子を見守るルチアの後ろで警戒を続ける俺は、会場の異様な熱気に、居心地の悪さを覚えていた。
「まだまだ序盤ですよ」
ルチアは前を向いたまま、楽しそうに答えた。
「これが3日間も続くとは……考えたくもないね」
「お仕事ですから。我慢してくださいね」
「分かってるよ」
それにしても……あんな落書きみたいな絵が500万だと? 俺には分からん世界だ……。
出品物が入れ替わる合間には、ルチアに挨拶をしようと、ひっきりなしに人が訪れる。そのほとんどが貴族の使いや商人だ。そして稀に同業者も顔を見せた。
「やぁルチア嬢。繁盛しているようでなによりだよ」
「おかげさまで。今日はどちらの品をお目当てに?」
現れたのは、片目を隠すほど長い前髪に、金糸をこれでもかと縫い付けた派手なスーツを着た男だった。そいつは前髪をファサッとかき上げて、ルチアにウインクを飛ばす。
「僕が目当てにしているのは、ルチア嬢、あなた一人さ」
そいつのセリフに思わず鳥肌が立った。
「ふふっ。お戯れはよしてください。次の方がお待ちですのでこれで。オークションを楽しんでくださいね」
ルチアはそう言って軽く手を振った。
「ま、待て!僕はまだっ」
ダイラは無言で男の肩を掴み、そのまま引きずっていった。
「今のクセが強い奴は……?」
「……この街でオレントと並ぶ巨大マフィア。『ヴィシャスファミリー』の跡取り息子です」
「へぇ。アレがねぇ。ずいぶん気に入られてるようだな」
「……正直困っています」
ルチアはため息交じりにそう答えた。サンタナの話だと、対立してるようだったが……。
「お前が手綱を握ったら上手くいきそうだけどな」
「冗談でもそのようなことは言わないでください!」
ルチアはキッと俺を睨みつけ、珍しく怒った顔を見せた。
「す、すまん……」
女性を怒らせると心臓に悪いな……。気を付けよう。
その後もオークションは順調に進み、何事もなく初日を終えた。そしてその夜、別の会場で盛大なパーティーが開催された。
「なんか、住む世界が違うな……」
「ルゥ様。今のうちから慣れておいてください。これも我々にとって必要なことです」
サンタナが小声で言う。
この雰囲気に慣れるとか……無理だろ。
「……そういえばダイラはどこいったんだ?」
「彼は……少々この場にはそぐわないので、バックヤードで待機しております」
……あいつズルくね?
俺は目の前で淡々と賓客をあしらうルチアを眺めつつ、彼女の凄さをひしひしと実感していた。
そして――。
「待たせたね、ルチア嬢!あなたのボンドが駆け付けたよ」
前髪をファサッとかき上げながら、ヴィシャスファミリーの跡取り息子が現れた。
……おまえ、さっきから柱の向こうでタイミングをうかがってただろ。
「え、ええ……。ごきげんようボンドさん」
しかし、ルチアをここまで引かせるとは……中々やるな。
「どうだろう? そろそろ二人っきりで、将来について語り合わないかい?」
ボンドはウインクを飛ばしながらルチアに手を伸ばす。
「申し訳ございません」
すかさず二人の間に割って入る。
「……なんだ貴様」
「お嬢様のお体に気やすくお手を触れませんよう、お気を付けください」
俺はほんの少し、威圧した。
ボンドはビクッと肩を震わせ、後ずさりしながら、
「黒仮面、てめぇ!覚えてろよ!」
俺を指さし捨てゼリフを吐きながら、逃げるように走り去った。
「覚えてますよそりゃ」
俺が呆れていると、袖口が後ろから軽く引かれた。
「ありがとうございます。助かりました」
ルチアが安堵を浮かべた顔でそう言った。
「仕事だからな。気にするな」
「……はい」
その後もルチアと繋がりを持とうと、多くの客が訪れた。
「ようやく終わりか……」
「お疲れ様でした」
「こちらのセリフだ。あれだけの人数を相手に、凄まじかったよ」
「ありがとうございます」
俺に褒められ、ルチアははにかんだ。
会場からホテルまで馬車で移動するため、ルチアとサンタナは馬車の中へ、俺とダイラは馬車の両脇を歩く。
「止まれ」
俺は御者に指示を出す。
「敵だ」
通りの真ん中に三つの人影が立ちふさがっている。
「背後関係を吐かせる。殺すなよ!」
ダイラの言葉を背に俺は三人の眼前へ一気に踏み込み、首筋を軽く殴打した。ドサッと崩れ落ちた三人を、ダイラが投げてよこした縄で縛りつける。
……はぁ。いるなぁ黒幕。すぐそこに。
「おい。隠れてないで出てこいよ」
俺が声をかけると、少ししてボンドが取り巻きを連れて現れた。
「き、奇遇だなぁ。こんなところでどうしたんだい?」
……もうちょっと、なんかあるだろ上手いセリフが。
「いえ、この者たちに襲われそうになりましてね。たいした腕ではなかったので、無力化させていただきましたが」
「そ、そうか。何事もなくて良かったじゃないか。それで、そいつらは、どうするんだ?」
「どうするとは?」
「僕に任せてくれれば、背後関係まできっちりと吐かせてやるが、どうだい?」
……何言ってんだコイツ。
「いえいえ、お手をわずらわせるわけにはまいりませんので、どうぞお引き取りを」
俺の言葉に取り巻きの一人から殺気が漏れ出た。
「……坊っちゃん。もういいでしょう。全員ヤっちまいましょうや」
男の言葉を皮切りに、全員が戦闘態勢を取った。
「いいか! ルチアだけは傷つけるなよ! 後で僕が慰めるんだからな!」
ボンドはそんなセリフを吐いて物陰に隠れる。
お前……絶対ルチアに聞こえてるからな。
「ヴィシャスファミリーに立てついたことを後悔しながら、死ね」
俺に向かって一斉に飛びかかってくる男たち。
それをかわしながら――
一人、二人、三人――
顎に拳を叩き込み、順番に沈めていく。
「ば、ばかな……」
大口を叩いた男は白目を剥いて突っ伏した。
「さて、仕上げだ」
俺は物陰で腰を抜かしたボンドに近づく。
「くっ来るな! 化け物! 僕に手を出したら、パパが黙ってないからな!」
……頭痛がしてきた。
喚くボンドの首筋を殴打して黙らせ、首根っこをつかんで馬車まで引きずった。
「終わったよ」
馬車の中で様子を見ていたルチアは、馬車から駆け下り勢いよく俺に抱きついた。
「お、おい! どうした!?」
「本当にお強いんですね……私のために、ありがとうございます」
「い、いや、そういう仕事だろう」
「これまで、ヴィシャスファミリーには何度も嫌がらせを受けておりました。私たちが本気でぶつかれば、この街の住民にも大きな被害が出てしまう。……私たちはずっと耐え続けることしかできなかたんです。……貴方が来てくれて、本当に良かった……」
あー、そういうことか……。
俺がどうしていいか分からず固まっていると、コホンと咳払いの音が。
「そろそろ参りましょうか」
いつの間にかボンド達を簀巻きにしたサンタナとダイラが、嬉しさを隠すことなくこちらを見ていた。
「あっ」
ルチアは慌てて距離をとり、小さく咳ばらいを一つすると、表情を改めた。
「……失礼しました。ルゥ様。申し訳ありませんが、もう少しだけ、私たちに力をお貸しいただけませんか?」
俺は彼女の真剣な眼差しに、黙って頷くことしかできなかった。
いつも読んでくださってありがとうございます。
ボンドも王道キャラですね!思った通り、書いてて楽しいキャラです!( *´艸`)




