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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第3章 黄泉丘三途璃は偽らない
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05

 この勝負に私が乱入する事のメリットは二つ。


 一つは単純に、手数を増やす事。私としては三途璃さんに負けなければいいだけ

なので、私か照が当たりくじを引ければいい。単純な確率だけ見れば、二分の一か

ら三分の二になるわけだ。


 そしてもう一つ、手番の面でも私の存在は有利に働く。何故なら手番を決める条

件である「忍さんの近くにいる」という点で、私は他二人よりアドバンテージがあ

るからだ。


「さあむーちゃんさん。どこの紐がいいですか? 私が代わりに引っ張って差し上

げますよ。お望みとあらば、月まで届く勢いで」

「……きわめて優しくお願いします」


 親切そうにバイオレンスな事を言い出す忍さんに肝を冷やしている余裕は無い。

私は今から彼女の思考を読み、当たりくじを予想しなければならないのだ。


 ……出来るかなあ。


 いや実際、忍さんって何考えてるのか全然分からないから。むしろ今まで散々彼

女に振り回されてきて、分かったためしが無いくらいだ。


 いやいや、何を弱気になっている私。忍さんが捉えどころのない魔神である事な

んて重々承知の上だし、それは三途璃さんだって同じ条件のはず。

 だったらよく考えて行動した方が勝つに決まっている。考える事を放棄するな。

どんなに難しくても、匙を投げたらそれまでだ。


 諦めたら、そこで試合は終了なんだ……!


 幸い、忍さんは急かしてこない。むしろのんびりと悠々と私の周りを練り歩きな

がら、ふと何かに気付いた様子で紐を見つめた。


「そういえば……このままでは、むーちゃんさんが紐を選ぶ時に困りますねえ。ど

れ、便宜を図ってあげましょう」


 そう言って忍さんが天井に手を伸ばした。すると蛍光灯が並ぶトラバーチン模様

の天井に、突如として巨大な鏡が現れた。鏡に押しつぶされ、めきめきと音を立て

て潰れていく明かりの手前に、布団から首を出す少女の姿が映し出された。やれや

れ、また自分なんかを見つめる事になるとは……


「天井に鏡をアポートしたんですか? 落ちてこないですよね……?」

「もちろん、きちんと固定してあります。それより天井に鏡って不思議な感じがし

ませんか? こういうの、ラブホテルとかでよくあるらしいですよ」

「な、なんでそんな事に詳しいんですか……」

「あなたは初心ですねえ……ふふふ。それより、鏡で紐が見えますか?」

「あ、はい……」


 忍さんの突飛な言動には驚いたけど……意図はすぐに分かった。寝転がっている

私からでは見えなかったけど、布団から出ている紐には一つずつ、括りつけてある

部位と番号が記されてあった。


 ⓪が首、そこからしばらく右半身で①肩、②二の腕、③肘、④前腕、⑤手首、⑥

から⑩までが親指から順番に手の指。さらに⑪太もも、⑫膝、⑬ふくらはぎ、⑭く

るぶし、⑮かかと、⑯から⑳までが足の指。そして同じ要領で㊵まで左半身に振ら

れている。

 さらに㊶胸、㊷みぞおち、㊸腹、㊹下腹部。

 そして最後に㊺……これには何も書かれていない。


「あの、忍さん……㊺って」

「あ、㊺ですね。分かりました、引いてあげ……」

「待って待って! 待って下さい! あそこだけ部位が書いてないのは……」

「気になるなら引いてみればいいのでは?」

「……ちょっと考えさせてください」


 いやらしい誘導だ。何も書かない事で好奇心を煽っているのか。こういうところ

に当たりくじを仕込むかと言われると……忍さんならやりそうだなあ。


 とにかく、選択肢は四十五。当てずっぽうには多すぎる。よく考えないと。


「さすがにこれだけ選択肢があると、一発で当てるのは難しいかもしれないわね。

いっその事、一回目は勘に任せてみたら?」


 三途璃さんが横からそんな事を言ってくる。一見助言している風だけど、明らか

にこっちの判断ミスを誘っている。勘に任せるだなんて曖昧な事、普段の三途璃さ

んなら絶対にしないだろうし。


「……もう少し考えます」

「ええ、もちろんよ。ゆっくり考えればいいわ」

 私の判断を尊重しつつも、三途璃さんはゆっくりとこちらに近づいてくる。

「でもね、夢路。あなたが必死に考えを巡らせてる間、私だって何もしないとは限

らないのよ?」

「え……い、いや、待機者は手番の人の邪魔をしてはだめだって、さっき……」

「そうね。私はルール上あなたに手を出せない。でも、審判に手を出していいかど

うかは、誰も何も言わなかったわよね?」

「え?」


 三途璃さんの視線の先は、私ではなく忍さんだった。視線を向けられた忍さんは

薄く笑っているだけだけど……瞬きもせずに三途璃さんを警戒している。攻撃され

ようものなら、即座に反撃する準備をしているのだろうか。


「いやいや、だめですよ! 審判を排除したからって、ルールが消えるわけじゃな

いんですから!」

「分かってるわよ。攻撃なんてしない」

 そう返事しつつも、三途璃さんの目はまっすぐじっと、忍さんに向いている。

「ねえ忍……選んで頂戴。今すぐ全てのルールを撤回するか、こっそり私にだけ当

たりくじのありかを教えるか」

「……」

 忍さんはすぐには答えない。けれど三途璃さんの問いが単なる無茶ぶりではない

事を、私は知っていた。


 命令を与える能力……『ブリタンの憐れな子羊』。まさか魔神相手にさえ有効な

んて……


「私とした事が……してやられましたねえ」

 忍さんは肩を竦め、三途璃さんの希望通り彼女の方へ歩み寄り、何事かを耳打ち

した。それが意味する事は……語るまでもあるまい。

「でも三途璃ちゃん。こういうのは横紙破りですよ。これ以上の要求は、ゲームそ

のものを壊すので遠慮してくださいね」

「はいはい、分かってるわよ……もうそんな必要も無いし」


 この横行はしかし、忍さんの裁定ではセーフらしい。


 確かに審判に能力を使ってはならないとは言わなかったし、審判から直接答えを

教えてもらってはならないとも言わなかった。でもだからってこんな真似、ゲーム

を壊しているのと同じじゃないの?


「まあ……むーちゃんさんか照が当たりを引いたらそれで終わりですし」

「……」

「むーちゃんさんなら、勝利を掴みとれると信じてますよ」


 いけしゃあしゃあと、きっと心にもないような事を簡単に口にしてくれる。

 いよいよもって背水の陣だ。


「むーちゃん、気楽に行こうよ。後にわたしが控えてるから、大船に乗った気でい

ればいいからね!」

「うん……そうだね」

「なんか生返事じゃない……?」

「今ちょっと訂正してる余裕ないから……」


 照の戯言に構っている場合じゃない。後が無い以上、考える事しか出来ない。


 忍さんの事を改めて振り返ってみよう。


 背が高くてモデル体型で、紫色の髪と瞳をしている。何を考えているか分からな

い言動を繰り返すけど、時折自分の思いを吐露してくれる。でもやっぱりそれも茶

番でしかなくて、基本的に周りを振り回して楽しんでいる。


 良く言えば演出家なエンターテイナー。悪く言えば自己中心的なトラブルメイカ

ー。暴力的で強引な一方、自分なりに納得すれば潔く退いてくれる。あるいはそれ

らも全て、気まぐれな彼女の性質がたまたま噛み合っただけかもしれないけれど。


 この辺を加味すれば、当たりくじは適当に選ばれているのではなく、何らかの符

合あるはず。そして嬉々としてそれに飛びついて、失敗する私を笑うだろう。引っ

かけには十分注意しないと。


 しかし……その符合っていうのが何なのか。それが問題だ。


 テーマは恋愛。翻って恋や婚約。その辺りから疑ってかかるべきかな。


 だとすると真っ先に疑うべきは、テニス用語で「ラブ」と表現する⓪の紐かな。

数字の振り方として、①からではなくわざわざ⓪を用意している辺り、かなり露骨

な誘導に感じられる。括られているのが首であるのも、死の暗示から「結婚は人生

の墓場」なんて表現を意味しているのかもしれない。あるいは私自身の運命を暗喩

している……とまで考えるのは、ちょっと穿ちすぎかもしれない。


 でもあまりに露骨過ぎて、引っかけを疑いたくなる。㊺もそうだけど、忍さんは

明らかに私を引っかけようとしている。二度三度引っかけの要素が出てくる事くら

いは想定しておかなければなるまい。


 他には……㊶の胸かな。感情……殊更恋愛感情の根源は胸、つまりは心臓だと表

現される事が多い。脳の方が近いかもしれないけど、頭には紐が括りつけられてい

ないし、「胸が高鳴る」という慣用句もある辺り、文学的には胸の方が近そうだ。


 そのくらいだろうか。㊹の下腹部は子宮の位置だし、結婚後に子どもを作る部位

という見方も出来るけど、多分そこまで先は見据える意味がない。というかこの面

子ではその未来は訪れないし。いや、魔神なら何をしてきても不思議ではないか。


 とにかく⓪か㊶。大穴で㊺も考えられるかな。


 ただ、現実的に「紐を引く」という動作を行う関係上、首なんかを引っ張られる

と「痛い」では済まされない。最悪後遺症が残る怪我を負いかねない。


 そういう意味では⓪は考えづらい……とも思えないのが魔神クオリティー。多分

忍さんはそんな事気にしてないだろうし、そこまで気を回す魔神でもない。あるい

は気にした上でわざと首を選んでくる可能性だってある。


 相手は魔神だ。私の生死なんて些細な事だと考えていても不思議じゃない。


 まずいなあ……これ以上選択肢を絞る事が出来ない。

 二択ならまだしも、三択ではたとえ照と結託したところで完璧なフォローは出来

ない。それでも確率は三分の二だけど……いや、本当にそうか?


 私はまだ、考慮しなければならない選択肢を見逃しているんじゃないのか? だ

からこそ、絞り切る事が出来ないんじゃないのか?


「むーちゃんさん、悩んでますねえ」


 なかなか選択を口にしない私に、忍さんが話しかけてきた。焦れている様子は無

いものの、飽き始めているのかもしれない。


「そんなに悩むほどの事ですかねえ、これ。たかが交際相手を決めるだけの事じゃ

ないですか。むーちゃんさんが日頃から気にしていらっしゃる世界の破滅と関係無

い事ですよ?」

「そうかもしれません。でも……」


 そうなったら、私は他の魔神達と自由に接する事が出来なくなる。それは諜報員

としての本分を見失うのと同じだ。そうなったら今まで通り、世界は緩やかに破滅

していくだろう。私自身、そんな停滞には耐えられそうもない。


「私にも、矜持というものがあります。間違っていると感じた事には、出来る限り

抗いたいんです」


 たとえ形式上でも諜報員であるという腹は隠しておきたいので、曖昧な返事にな

ってしまった。けれども忍さんはそれで納得したのか、大人しく顎を引いた。


「まあ、好きにすればいいと思います。どうせ運命はいつだって、あなたの手の中

に転がっているのですから」


 そう言って忍さんはにやりと笑い、私に向かって大きく手を広げて見せた。何か

能力を使うつもりかと思ったけれど、どうやらそういうわけでもないらしく、すぐ

にその態勢をやめ、その辺をうろつきはじめた。


 ……なんだ?


 今の忍さんの態度、いつもとどこか違うような気がした。掴みどころの無い普段

と違って、何かが引っかかる。もしかすると私は、彼女の中の隠された思いか何か

に触れたのだろうか。


 いや、それもまた気まぐれか。前にもそんな事があったし、今回だってそういう

類に違いない。そうやって一喜一憂する私を嘲笑うのは、彼女の基本パターンだ。


 いい加減学ぼうか、私。そして今、そんな場合じゃないだろうに。


 私は今、忍さんの言動を分析して……


 分析、して。当たりくじの場所を……


 え? もしかして今のって、そういう事?


「おや、むーちゃんさんどうしました? 引きたい紐、決めました?」

「……㉙、お願いします」


 忍さんは私の言う通り、布団の外に出ていた㉙の紐を軽く引っ張った。


 その動きに引っ張られるようにして、私の左手が持ち上がる。

 さながら勝利宣言のように引き上げられた手の中、㉙……つまり、左手の薬指に

は、しっかりと紐が括りつけられていた。


「むーちゃんさんの運命のお相手は、どうやら私のようですねえ」


 ぬけぬけとそんな事を言う忍さんは、いつも通り愉快そうだった。

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