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姫プは遊びじゃありません!!  作者: ひな
第3章 黄泉丘三途璃は偽らない
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06

 左手の薬指に結婚指輪を嵌める文化があるのを、知らなかったわけじゃない。


 ただ、直前まで行きつかなかった。魔神という修羅の擬人化……もとい擬神化み   

たいな存在が、そんなロマンチックな事を考えているなんて思わなかったから。


「むーちゃんさんは酷い事を言いますねえ。魔神にだって感受性の一つや二つ、あ

るんですよ。そんな冷たい事を言われると悲しくて、世界の一つや二つ滅ぼしてし

まいたくなります……よよよ」

「……」


 わざとらしくハンカチを取り出して泣くふりをする忍さんに、私はわざとらしく

溜息を零し、リアクションしてあげた。


 忍さんの勝利宣言は当然ながら冗談で、勝負は私の勝ちだ。自分自身を手に入れ

た私は、審判である彼女のエスコートの下、何とか五体満足で空き教室を出た。


「しかしよく㉙が正解だって分かりましたねえ。正直、他の選択肢もあるんじゃな

いかって迷ったんじゃないですか?」

「……そうですね。でもヒントをくれたのは忍さんじゃないですか」


 わざわざ普段使わない「運命」なんて白々しい言葉を使ったのは、明らかに私へ

のアドバイスだ。意味深に手を広げたのだって、暗にそこに答えがあると言ってい

るのと同じだ。


「それは考えすぎですよ。私はただ、ヒトデの真似をしただけですから」

「……もしかして昨日の水族館デート、見てたんですか?」

「さあ何の事やら。ところでむーちゃんさん、ヒトデって脳が無いらしいですよ」

「……」


 絶対見てた。さもなきゃ聞いてたな。当たりくじを手の中に決めたのも、そうい

う理由あっての事か。他人のプレイベートを何とも思っていない忍さんだからこそ

出来た仕込みだし、そんな彼女の動きを知っているからこそ予想出来た事だ。


「そう考えると、⓪や㊶や㊺より㉙の方が可能性が高い……そう考えただけです」

「お見事です」

「……また私をばかにしてます? これだけのヒントがあって、辿り着けないわけ

ないですよ。どうしてそんなに私に肩入れしてくれたんですか?」

「何となくですよ。私もヒトデ、好きですから」

「え?」

「脳が無いなんて、可愛いですよね」


 忍さんはご機嫌そうに鼻歌を歌いながら、私を置いて去っていった。


 これは……あれか。私がヒトデと? 脳無しならぬ能無しと? 気まぐれでばか

に優しくしたと、そういう事?


「……」


 いやいや、もっと前向きに考えよう。今回はあの気まぐれ魔神のおかげで、窮地

を脱する事が出来たのだ。これ以上幸せな結末なんて、望むべくもない。


「いやあ、負けちゃったよ。やっぱりむーちゃん、運良かったんだね!」


 次いで私を追いかけて照がやってきた。負けたと言っても機嫌は良く、普段通り

のあどけない顔つきだ。


「照……今回はありがとう。照がいてくれなきゃ、三途璃さんの暴走は止められな

かったと思う」

「えへへ……こんなの朝飯前だよ!」

「ところで三途璃さんはどうなった?」

「真っ白に燃え尽きてたよ。まあ、死んではないんじゃない?」

「それはそうだろうね……」


 正直、そっちの心配はしていない。三途璃さんには悪いけど、魔神が減るのなら

むしろ歓迎なくらいだ。

 どっちかというと、また暴走されるのが怖い。


「そっちも大丈夫だよ。三途璃ちゃん、約束は絶対守る子だから。負けた以上、も

うむーちゃんとはお別れしたも同然だよね」

「……」


 三途璃さんとの水族館デート……楽しくなかったといえば嘘になる。でも結局、

あれは単なるお試しなのだ。私にとっても、彼女にとっても。


 それが今回ここまで尾を引いたのは、ひとえに私の注意不足だ。今度三途璃さん

と約束をする時は、きちんと期限と限度を確認しておかないとな。


 肩の荷を下ろし、照と二人で教室へ戻る。しかしそこには忍さんを含め、誰一人

として残っていなかった。

 教壇には書置きがあった。「授業が無くなったので今日は臨時休校としました」

とのこと。この筆跡は……黒服か。生きて帰れたようで何よりだ。


「帰ろっか」


 照に手を引かれ、今度は家を目指す。私も束の間の休息を楽しむとするか。


「でも驚いたよ。まさかわたしと三途璃ちゃんの対決に、むーちゃんが割り込んで

くるなんてさ」

「負けるわけにはいかなかったからね。照は世界を滅ぼすなんて言っちゃうし」

「あはは」

「いや、笑いごとじゃないんだけど……」

「結果的にそんな事にならなかったからいいじゃん」

「結果って……たまたま私が当たりを引いただけでしょ」


 もしも忍さんが気まぐれでランダムな場所に当たりくじを設定していたら。


 もしも気まぐれで私に味方してくれなかったら。


 もしももう少し私が冷静でなかったら。


 一つでも当てはまっていたら、きっと私は外していた。そうなったら……


「その場合、わたしが当ててたけどね」

「どこから来るの、その自信……」

「いや、ほんとほんと」

 言いながら、照は胸を張った。

「三途璃ちゃんがやったみたいに、わたしにだって策があったんだよ?」

「え? でも照の能力って、当たりくじを引けるタイプじゃないような……」

「うん。だからそっちは諦めた」

「……と言うと?」

「むーちゃんがはずれを引いた瞬間、『オッカムの断頭台(ギロチン)』で三途璃ちゃんのいる

空間を切り取る!」

「いや、だめに決まってるでしょ!?」


 さも得意げに素振りをする照に、思わず大声でリアクションを取ってしまう。


 いやいや、何言ってるのこの魔神は。そんなバイオレンスな策があるか!


「わたしなりにきちんと考えた作戦だよ。忍ちゃんは空間を斬れるから自力で戻っ

て来ちゃうけど、三途璃ちゃんはそういうの出来ないもんね」

「いや、違くて……そもそもルール聞いてた?」

「うん、聞いてたよ。待機してる人はくじを引く人を攻撃しちゃだめなんでしょ?

でもむーちゃんの番の時、わたしも三途璃ちゃんも待機だし」

「い、いや、でも、()()()()()()()()()()()って……」

「だから、()()()()()()()()()()()()()()()。あれ? わたし、そのためにむーち

ゃんが参戦したんだと思ったんだけど……」

「……」


 理屈の上では照が正しい。


 最初に私が定めたルール……あれは照と三途璃さんの二人が穏便に戦うための取

り決めであって、その後私が参戦するに至ったのは完全なアドリブだ。だからルー

ルの穴を突く事そのものは可能だ。


 でもだからってそんな横紙破り、あり? 三途璃さんといい、まともに運勝負を

する気が無い魔神ばかりじゃないか。


 もちろん私としてはありがたい。絶対に負けられない戦いだったのだから、勝ち

に拘ってくれて何よりだ。


 でも……何だろう、この釈然としない気分は。なんだかどっと疲れてきた……


 所詮、私は人間か。


 自分では魔神同士の戦いに割り込んで上手く立ち回ったように思っていたけど、

結局それは忍さんの助力あっての事、さらに照の手のひらの上でしかなくて……


「まあむーちゃんはよく頑張ったよ。今日はお疲れ様! ゆっくり休んで、また明

日一緒に学校行こうね!」


 最後まで笑顔満面の照と別れ、家へ。

 もう着替える気さえ起きない。今すぐベッドにダイブしよう。三、二、一……


「まだ寝る時刻には早いわよ」

「うわああああっ!?」


 自室の扉を開けたら、三途璃さんがいた。丁寧に座布団に正座して、私の事を待

っていたのだろうか……


「……急に現れるのは忍さんだけにして欲しいんですが」

「そんなの私に言われても困るわよ」

「……ごもっともです」


 つい混乱して、筋違いな文句を言ってしまった。反省はしない。


「……というか三途璃さん、どうしてここに?」

「一つ、あなたに業務連絡があるわ」

 勝手に私の家に入り込んだ事に関しては一切触れず、三途璃さんは淡々と語る。

「今朝学校で発表した恋人制度だけれど……あれ、やっぱり駄目ね。忘れて頂戴」

「……どういう事です?」

「さっき道中で他の魔神に会って、恋人制度についての意見を訊いてみたのよ」


 そう言って三途璃さんは、とあるクラスメイトの名前を出した。まだ私は話した

事の無い個体だけど、比較的良識があり、言い分に説得力のある相手だった。


「で、その人はなんて言ってたんですか?」

「『あれってシステム的にはお見合いだよね? 恋愛とは言えないと思うよ』」

「……」


 確かに、言われてみるとそうだ。名簿の相手に拒否権が無いという点では奴隷契

約に近いけど、いずれにせよ恋愛ではない。


「恋愛結婚とお見合い結婚って言うくらいだもの。確かにお見合いは恋愛じゃない

わね。恋愛っていうと、もっと出会いからドラマチックじゃないと駄目よね」

「そ、それは少し先入観がある言い分かと思いますけど……」

「とにかくこの件は没よ。高校生がお見合いなんてばかばかしい話だもの」

「……」


 魔神に恋人を作らせて、私の負担を減らす魂胆は、どうやら幻に消えたらしい。

 元々無から湧いてきた僥倖ではあったけれど……期待した分落胆は大きい。


 世の中、そう甘くは無いか。やれやれ……


「それと……今日の事、謝っておこうと思ってね」


 ばつが悪そうに、しかし毅然とした態度を崩さず、三途璃さんは頭を下げた。


「ごめんなさい。私とした事が、あなたを面倒な事に巻き込んでしまったようね」

「あ、いえ、その……気にしないで下さい」

「夢路にだけ話しておくけど……実は私、少しだけ頭の固いところがあってね」

「……」

「何か言いたそうね」

「あ、いえ……続けて下さい!」

「そう……まあいいわ。私、時々歯止めが利かなくなるのよ。曖昧な態度は取りた

くないし、自分を偽るような真似はしたくない。私はいつでもまっすぐでいたい」

「……」


 まっすぐ……か。

 確かに三途璃さんはいつだって自分を貫いていた。たとえその結果、暴走してし

まったとしても。


 三途璃さんは偽らない。彼女は誰より彼女らしかった。


「だからはっきり言うわ。夢路、こんな事があった後だけれど……また私と友達で

いてくれる?」

「……望むところです」


 三途璃さんとの付き合い方は分かった。その上で懇意にしてくれるのなら、照や

忍さんよりもよほど与しやすい。


「あ、でも……それなら一つお願いがありまして」

「言ってみなさい」

「この間の無断欠席での拷問……あれ、不問にしてもらえませんかね?」

「それは駄目。ペナルティーはきっちり受けて貰わないと、示しがつかないわ」

「ですよねー……」

「冗談よ。今回の件をペナルティーって事にしてあげる」

「……いいんですか?」

「本当は良くないわ……でもこれが、惚れた弱みってやつね」

「へ?」

「とにかく、次は無いわ! 明日も遅れず学校に来なさいよ……じゃあね!」


 勢いよくそう捲し立てて、三途璃さんは窓から出て行ってしまった。


 ええと……今のって、どういう意味?

 三途璃さんの暴走は収まったんじゃなかったっけ?


 だとしたら、さっきの言葉って……


「……まあ、いいか」


 どうせ気にしてもしょうがない。考えるのはやめよう。


 とりあえず今日生き残った。それより先の事は……また明日考えよう。

 どうせ考えなくたって、明日も明後日も綱渡りだ。


 私の人生も、世界の命運も。


 全ては魔神の機嫌と気まぐれと、少しの感情の赴くままに……

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