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KEEP OUT  作者: 嘉久見 嶺志
2××3.5.23.
71/74

: 5p.

「小賀坂さんどうしたの?」


ふと、未来が志保の異変に気がつく。


『もしかしてだけど、ケータ君、鈴ちゃんのこと…』


妄想膨らませ、顔を赤らめながらスマホを見せる。


ナベショーと未来は、画面に視線を集中させ、内容に思考停止する。


「…まさかね」


「そッ、そうだでッ。

アイツから恋愛なんてワードすら聞いたことないでッ!?」


3人は顔を見合わせ、徐々に笑いが生じていった。


「もう~、小賀坂さんたらァ、考えすぎだよォ」


「そうそう! そんなんあるわけねえべしたァ!」


盛り上がりが最高潮になったところで、志保のスマホに着信が入ってきた。


確認すると、その内容に動揺し、2人に画面を見せる。


「んッ? どうし――ッ!?」


興味津々でスマホに集中すると、LAINの文章には、こう記されていた。


――ごめん。

急用できちゃったから部活行けなくなっちゃった。

皆にごめんって言っといて。


一同、言葉を失い、沈黙が部室を包み込むと、ナベショーからボソッと本音が漏れ出た。


「…マジ?」




―― 一方、ケータと鈴音は学校を離れ、土手を歩いていた。


ケータが先導し、鈴音が5m後からついていく中、広瀬川のせせらぎのおかげで気まずい沈黙をかき消してくれていた。


衝撃発言後、事情を問いただしたが、ケータが返答を渋り出し、とにかくついてきてほしいとだけ告げられ、今に至る。


女装とかいかがわしい趣向に目覚めたのかと思いきや、ケータの反応からしてそうではないと感じたため、とりあえず黙って従ってはいるが、先ほどのカミングアウトのおかげで断らなかった自分にかなり後悔している。


どれだけ良い人であろうと鈴音の中では、もはや生理的に受けつけられなくなりつつあった。


本来なら関わり自体を断つところだが、志保や魁祥の顔が脳裏に浮かんだため、同じクラスであり、同じ部活だからという理由で、かろうじて繋ぎ止めている状態であった。


彼の目的が不明のまま、広瀬橋を渡り、美術館の前を通ると階段が現れた。


階段の下に砂利が敷き詰められており、鳥居のそばに桜の木と、枝がほとんど切り落とされたイチョウの大木、そして、その先には神社があった。


そのまま階段を降りて行き、やがて、神社の前で立ち止まる。


「…ここ?」


「そうですね」


彼は、浮かぬ表情で短く答える。


どうやら目的地に着いたらしいが、この場所と下着がどう繋がるのか理解できない。


「ねェ、いい加減――」


バァンッ。


その時、突如、境内の引き戸が勢いよく開いた。


鈴音は驚きのあまりとっさに身構え、目の前に現れた小さな影に固まってしまう。


その正体は、彼女も見覚えのある少女だった。


「お帰りッ!! ()()()ッ!!」


少女は、サイズの合っていないTシャツ短パンを身につけて活気よく声を張り、室内にある賽銭箱の上に立っていた。


「…ただいま、“椛”」


ケータは、苦笑しつつも穏やかに対応する。


椛と呼ばれる彼女は、数日前ケータに自転車で轢かれたあの少女だったのだ。


「椛、とりあえずそこから降りなさい。

バチ当たるから」


「あッ、はァい」


ケータが指摘すると、無邪気な少女は、言われた通りにその場から降りる。


落ち着きを取り戻した鈴音は、親しげに接している2人に改めて尋ねる。


「そろそろ説明して欲しいんだけど」




――それは数日前、サッカーの練習を終えたケータが自宅に向かっている時のことだった。


――ん?


土手を歩いていると、神社の窓にふと人影が目に入ったのだ。


その神社は、たまに管理人が訪れては、水道や電気の点検をしており、近所の者なら誰もが知っていることなのだが、どこかいつもと違うと感じた。


なぜなら、建物の階段の前に、黒い厚底ブーツが置いてあったからだ。


場違いなブーツと窓からわずかに見える子供らしき影に、いたずらで入り込んだのかと思い、注意するために傾斜のある草むらを降りていく。


建物に近寄るにつれて、ブーツのサイズが明らかとなり、中にいるのは女子だと察する。


「御免下さァい」


「はァい」


軽く声をかけると、若い声が返ってきた。


片方の引き戸が開き、姿を目にした途端、唖然としてしまう。


「あ~ッ! 昨日のお兄ちゃんなのだッ!!」


出来ることなら、二度と会いたくない相手が、ケータに満面の笑みを浮かべていた。


「お兄ちゃん、こんなとこで何してるのだ?」


「いや、こっちのセリフなんだけど…」


少女は、前日の事件を気にすることなく話しかけてきた。


「椛はねェ、ここに住んでるのだッ!」


「へッ!? 住んでるッ!?」


驚きの発言に、ケータは耳を疑ったそうなのだ。


「そうなのだッ。

住むとこないから、ここに住んでるのだッ」


ハツラツとした少女から考えられぬ不穏な空気がにじみ出ていた。


「お前、名前は?」


「椛は、う~んと――」


すると、少女が室内に置いていたバッグを取り出し、中を漁り始めた。


「あった! はいッ」


少女から差し出されたのは、缶バッジで覆われたポーチ。


「…どゆこと?」


「開けて見て欲しいのだ」


彼女の意図が読めず、とりあえず言われた通りにファスナーを開けてみる。


中には化粧品が詰まっており、内側に油性で名前が書かれていた。


「“野村(ノムラ)(モミジ)”?」


()()()()()()()()()()


「らしいって、どゆことッ!?」


ケータは、聞けば聞くほど深まる謎に徐々にはまっていく。


「椛、()()()()()()()()()()


椛の発言に、ケータは思わず思考を停止してしまった。


それって、つまり…、記憶喪失ってやつ?


「…冗談で言ってる?」


「ジョーダンじゃないのだッ。

本当なのだッ」


椛は、疑心が募るケータに強く否定した。


「歳は? 出身地とか――」


「分からないのだ。

起きたら橋の下で寝てたのだ」


「橋の下って、どこの?」


「ここより遠くにある大きなやつ」


彼女が指で差し示す方角には恵梁大橋があり、どこまで事実か判断が難しかった。


「他に何か覚えてることはないの?」


「ううん、何も…」


椛は首を横に振り、手掛かりにはならなかった。


派手な服装をしているが、おそらく自分より年下であることは分かる。


それによく見ると、頭や膝に擦り傷と服のところどころに小さな穴が空いていた。


擦り傷に関しては、ケータによる衝突の時のものだろうが、元々、そういうファッションだったということなんだろうか。


ケータはスマホを取り出し、“野村 椛” “捜索”で検索するも、ヒットはせず。


親の元から離れて何日経過しているかも定かではないが、ネットやテレビでも報道されていないとなると、

考えられるのは…。


あらゆる可能性を考え抜いた先に、ある答えにたどり着いたが、さすがにまだその結論に至るには早すぎる。


ケータは、椛を横目で様子を伺い、とりあえず正攻法で行くことにした。


「とにかく、警察に行った方が良いな」


「お巡りさん?」


「そう、お巡りさん。

てか、美術館のすぐそばに交番があるのに、なんで今まで行かなかったんだよ?」


「だって、別に困ってなかったのだ」


「呑気だな、オイ」


記憶喪失だからだろうか、自分が何者なのか、どこから来たのかもわからないと不安になってもおかしくないハズなのだが…。


元々、本人のメンタルが強いんだろうな。


ケータは、そんな彼女に自然と笑みをこぼす。


しかし、これは餅は餅屋、警察に任せるのが一番だ。


「それじゃあ――はッ!」


次の瞬間、ケータの脳裏にある懸念点が浮上し、身体が緊急停止した。


待てよ? もし、このまま2人で交番に行ったらどうなる?


警察官の事情聴取に応じた場合、この子との関係を聞かれたらどうなる!?


――このお兄ちゃんは、昨日椛を自転車で轢いた時に出会ったのだッ。


なんて、言い出したりでもしたらどうするッ!?


もし、そんなことが公になれば、周りからの印象が一気に悪くなり、進学計画も何も全てが水泡に帰してしまう可能性が…。


考えれば考えるほど爆死する未来しか見えてこず、表情がどんどん青ざめていった。


「どうしたのだ? お兄ちゃん?」


顔色が優れない彼を気にし出す。


「あッ、いやッ、やっぱ今度にしようかな」


「えッ? お巡りさんとこ行かないのか?」


「うん、まァ、いつでも行けるし――」


ケータは、気力のない口調で天を仰ぎ、軽くため息をついた。


「ラーメンでも食べに行こうか。

ごちそうするよ」


「えッ!? ラーメンッ!? やったァ!!」


目を輝かせる椛に対して、ケータは、魂が抜けた状態になったのであった。




「――それで、部活を終えた後、ここに来てご飯を食べさせていたと」


鈴音は、仁王立ちで眉を痙攣させながら経緯を知る。


「まァ、運良く神社に電気、水道通ってたから、少しの間生活する分には問題ないかなと。

問題は――」


「この子の下着の替えが無いって?」


「…そう、です」


不機嫌になっていく鈴音と比例して、徐々に気圧されていくケータ。


改めて椛の格好に目を通す。


今までのご機嫌取りは、このためか…。


彼女から制汗剤の匂いに紛れて微かに汗臭さが漂っており、何日も風呂にも入れていないのが明白だ。


「今まで出来る限りのことはしてきたんですが、どうしても女子の下着はハードルが高すぎて…」


「そうじゃないでしょ」


ケータの言い訳に苛立ち、鈴音は鋭い眼光を向ける。


「アンタ、自分のやってること分かってんの!?

神社の不法住居、保身のために通報もせずッ、女の子の衛生管理不十分ッ!

おまけに、目撃者であるアタシに協力を仰ぐとかどういう神経してんのッ!?」


「…すいません」


声を荒げずとも重みを感じる彼女の正論に、ケータは頭を下げるしかなかった。


「大体なんで――!!」


すると、椛が2人の間に割って入ってきた。


「ケー兄を責めないで欲しいのだッ!!」


まさかの椛が立ちはだかり、わずかに鈴音が戸惑ってしまう。


「ケー兄は、見ず知らずの椛をすごく気にかけてくれたのだッ。

自転車に轢かれた時のことを何度も謝ってくれたり、どこか痛いところはないかって聞いてくれたりッ、それから、えっと…その…」


鈴音は必死に擁護する椛の姿に、いつぞやの志保と重なった。


あの時は、ケータが鈴音を追い詰めていたが、今回は立場が逆――。


不覚にもケータの状況を理解した気がした。


「だからッ――」


「もういい」


鈴音は、椛の主張を止めて一息吐く。


「…分かったから」


冷静になり、今後のこと、今すぐやるべきことを考える。


幸いにも明日は土曜、学校は休み――。


そこから導き出された結論は―――――。


「とりあえず、()()()()()()()()()()()()()


「えッ!?」


ケータは、想定外の提案に思わず驚いてしまう。


「少しの間だけだからね。

ただし、条件がある」


鈴音は、そう言って椛を避けてケータに近寄っていく。


「アタシに疳之虫の制御方法を教えなさいッ」






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