表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
KEEP OUT  作者: 嘉久見 嶺志
2××3.5.23.
69/74

: 3p.

人気のない昇降口で、アタシは下駄箱から靴を取り出し、静かに扉を閉めて頭突きする。


「…ッ、くそッ」


自分の都合に付き合ってくれた人達を傷つけてしまい、自責の念に駆られていた。


ナベショーは、アタシの疳之虫の制御に乗り気じゃなかっただろうに、悪いことをしてしまった。


未来は、生身で体を張ってくれたおかげで、志保に大事がなく済むことができたが、人間砲弾となったナベショーを受け止めたダメージは尋常ではないだろう。


何より志保を巻き込んでしまったのがかなりショックだった。


憔悴しきっていたアタシを、救ってくれた親友を、アタシは――。


先ほどの出来事があまりにも衝撃的すぎたため、激突時の志保の表情がフラッシュバックする。


「…ッ」


罪悪感で圧し潰されかけ、自身の無能さに嫌気がさし、歯ぎしりをする。


危ないと理解していても、そばにいてくれたのは正直嬉しかったし、前回と同じくなんとかなると甘く見すぎていた。


以前は、疳之虫に身を委ねてばかりで抵抗などしたことなかったが、初めて試みた結果、動きを止めるだけで精一杯だった。


あんなのが、アタシの中に3匹もいるの?


1匹を相手にするだけで疲労困憊する上に、周囲の被害が甚大すぎる。


それに疳之虫に抗っている最中、不可思議な体験をしたことを振り返った。


あの時、疳之虫の目を通してナベショーを見たとたん、いろんな映像が流れ込んできた。


それは、いつもの教室で見慣れた面々、授業では黒板ではなく、机の下でスマホをいじり、ソシャゲをしているところをアタシに注意されている場面。


あれは、おそらくナベショーの記憶だろう。


これは哭戎種の能力なのかは定かではないが、あのわずかな一瞬だけで相手の頭の中を覗くことができたのだ。


もし、この力を手にすれば、人間の心など容易く見ることが可能となり、自分の前で嘘を吐く者が現れても、すぐ見抜くことが出来ることだろう。


ただ、今はそれどころではなく、この短時間の間に衝撃的な出来事が起きすぎたため、脳の処理が追いついていない。


…頭、痛。


額を冷たい扉に打ち付けたままだったため、すっと離れてしばらく呆然としていた。


アタシは、どうしたらいい?


哭戎種の制御に、ここまで苦戦するとは想定していなかった。


魁祥さんの話だと、哭戎種の情報自体少ないらしいし、調査の仕様がない。


直樹達も今回どれだけ危険性が高いものか、身をもって知ったわけだし、アタシもこれ以上迷惑をかけたくない。


行き詰まった先に、1人だけまだ頼っていない存在がいた。


「…最悪」


その男子が脳裏に浮上した途端、自然と不満が出てしまう。


極力、アイツの手を借りたくなかったのに…。


しかし、アタシが思いつく中で暴走を止めることができ、尚且つ疳之虫の知識を持つ者といえば、アイツしか出てこなかった。




――下校時刻となり、部活に励む生徒は皆、帰宅準備を始めていった。


ここは、格技場の隣にある木造2階建ての部室棟。


改装した校舎に比べ、予算がなかったのか、壁や柱から年季を感じられ、他に同等の部室棟がプールのそばに現存しているが、現在、物置きと化している。


部屋は4畳ほどの広さしかなく、そこで着替え及び部品を保管している。


「それじゃ、お先に失礼しまァす」


ケータがサッカー部の部室から出て、外にいる後輩達に挨拶すると、後輩達は、部室の外で汗だくのジャージから制服に着替えている手を中断させ、一斉にケータの方へ向き出した。


「「「「はいッ! お疲れ様ですッ!!」」」」


「うおッ!?」


全員から明快な返事が返ってきたケータはつい戸惑ってしまう。


「おッ、おう、お疲れ…」


ケータは、昨日とは違う態度の変様に、居心地の悪さに耐えきれず、早々と退散する。


彼の後ろ姿を見送った後輩達は気を緩め、着替えを再開した。


「ケータ先輩、あんだけできるなら正式に復帰すればいいのに」


「それな」


「景吾先輩よりケータ先輩の方が全然いいわ」


後輩の1人が本音を漏らすと、呼応して次々と口を開いていく。


「おい、聞こえてんぞッ」


部室の中からワイシャツを羽織った景吾が不服な口調で指摘する。


しかし、練習するケータに触発され、後輩達の動きがいつもよりも活発になってきており、彼の存在だけで部員の士気が上がったことには、部長である景吾も認めざるを得なかったのだった。


ケータは、駐輪場に赴き、自身の自転車のカゴに荷物を入れる。


自転車を後退させ、サドルにまたがってペダルを漕いでは、校門を駆け抜けた。


そのまま急勾配の坂道を下っていくうちに、目の前に集団下校中の小学生達と出くわした。


中でも、黒い服を着てリュックを背負った少女が、横断歩道を渡る小学生の列を安全に渡れるよう誘導していたのだ。


げッ! マジかッ。


ケータは、心もとないブレーキを全力で握るが、気持ち程度のスピードしか緩まず、一気に焦り出した。


「やばいやばいやばいやばいッ!!」


早口で不安を漏らし、両足を地面につけるも車輪は衰えず、危険は迫っていた。


やがて、小学生が渡り切った時にはすでに遅く、想像通りの最悪の展開となってしまった。


ケータは黒服の少女を背後から自転車で激突してしまい、それでも勢いは止まらず、駄菓子屋の自販機に突っ込んでいった。


自転車は横転し、ケータも反動で盛大に倒れると、突然の事故を目の当たりにした小学生達は動揺してしまう。


「いッてェ〜」


ケータは全身の痛みに小さく弱音を吐くが、すぐさまハっと思い出す。


いやッ! オレよりも女の子――ッ!!


優先順位を切り替え、とっさに起き上がった途端、急に声をかけられた。


「お兄ちゃん、大丈夫か?」


「それッ、オレのセリフッ!?」


声の主は落ち着いた口調で怪我の具合を窺うが、彼にとっては、それどころではなかった。


なぜなら、相手は先程轢いてしまった少女だったからだ。


少女はしゃがみ込み、派手にぶつかった出来事など無かったかのように、ケロっとした表情でケータを見つめている。


彼女は、黒に近い紫の髪で青のインナーカラーが入っており、長い前髪で左目を隠していた。


この辺では見慣れない派手な格好に関心を抱くが、再度我に返る。


「ってか大丈夫ッ!? どこか怪我とか――!?」


「全然問題ないのだッ! (モミジ)は、身体が丈夫なのだッ!!」


ケータが慌てて彼女の容態を見回す中、少女は細い両腕を上げて胸を張る。


「お兄ちゃん、立てるか?」


「えッ!? あッ、ああ、うん…」


少女に立場を逆転させられているが、今のケータは、それどころではなく、言われるがまま立ち上がり、横になった自転車を立て直す。


「ごめんね、ホント痛いところ無い!?」


「うんッ、大丈夫なのだッ」


少女は、その場で一回転して見せると、リュックについていた大きなキーホルダーが焦げているのが目に入った。


おそらく前に別件で何かあったのだろう。


あまり気にしないことにする。


「そっか。

ホント、ホントごめんね」


「うん、お兄ちゃん今度から気をつけるのだッ」


少女に気を遣われながら、ケータは平静を装いながら自転車にまたがる。


「またねェ〜!!」



少女は呑気に小学生達と共に手を振って、見送られる中、ケータは逃げるように全速力で去っていった。




「――いらっしゃいませェ」


コールが鳴ったところで、バイトの女子がレジから入店してきたケータを迎える。


ケータは、スーパーの近くにあるコンビニに立ち寄り、ひどい罪悪感を抱えながら雑誌コーナーへと向かう。


やっちまった…。


週刊少年誌を手に取り、とりあえず気を落ち着かせることに専念する。


あんな小さい子を轢いちまうなんて…。


このご時世、車だけではなく、自転車の規制もかなり厳しくなっているというのに、整備不良が原因で事故を起こしてしまったことに、自責の念にかられていく。


あの無邪気な笑顔が、脳に焼き付いて離れない。


あの子、見かけない子だったけど、都会から来――。


そのとき、ケータの隣に何者かが立ち止まった。


ケータは、少年誌に目を通してやり過ごすつもりだったが、やけに視線を感じるので横目を流すと、そこには、仁王立ちした眼鏡少女がいた。


少女は眉間にシワを寄せ、そこから放たれる鋭利な眼光は、只々不機嫌だからなのか、それとも、何かを目撃して問い詰めたいからなのか――。


「アンタ、女の子轢いたよね?」


どうやら、両方だったようだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ