2-5 郷土史研究家(市役所職員・高原)
上司の命令で否応なく巻き込まれたダンジョン調査。
おそるおそる足を踏み入れた内部は、とても不思議な空間だった。
一言で言うなら、生きていない。
生成AIで作られた空間、とでもいえばいいのだろうか。生きものの気配が全くしなくて、不安をかきたてられた。
ゲートとなった遺跡について、もしかして古墳なのではないかとあたりをつけ、以前仕事をした教授の研究室を訪れた。
機密保持契約を結んでから、相良の書いたスケッチを見せる。
「確かに、これは古墳のようにも見えますねえ。ですが実物を見てみないと、なんとも」
「ご足労いただけるでしょうか?」
「高原さん、それはボランティアかな?」
「……すみません」
教授にお礼を払うにも、予算がないのだ。今回のことで、市が使える予算はゼロ。
だから探索者でもない高原が駆り出されている。土木関連職員の中で一番若いから、というだけの理由で。
「私では年齢的にも、足をひっぱってしまうので……。写真を撮ってきてください」
「それができない事情がありまして……」
ダンジョン内からは、人の書いたもの以外の情報が持ち出せない。その制限を三浦に聞いたときは驚いた。
どうりでどんなに調べても、ダンジョン内部の情報がネットで見つからないはずだ。
「……そうだ、一人いますよ。白石くーん」
「教授、なんでしょう」
「ダンジョンが出来て、中に古墳があるんだって。現地調査行かない?」
「待ってください! 機密情報です!」
「行きます!」
「では高原さん、そういうことで」
勝手に白石さんが現地調査に参加することが決まっていた。
「教授、学生さんにそんな危険なことは……」
「学生と言っても、院生ですから」
「そういうことじゃなくて……!」
院生なら必ず成人しているから安心。じゃなくて、まだ学生の身なのに、こんな異常事態に巻き込むわけにはいかない。
「これ、もしかして、操山の古墳群ですか? あれ、こっちの地図、もしかして、古代の岡山……?」
「分かるんですか?」
「実物を見てみたいです。いつ行けますか? これから? 明日? あ、何用意すればいいですか? 長靴? ヘルメット? 古地図持っていきますね!」
近い近い。そんなに詰めよらないで。この子、大丈夫だろうか。行く先がダンジョンだと、本当に分かっているのだろうか。
「手続きがありますので、すぐには無理です。が、白石さん、……医療保険入ってますか?」
「入ってます! フィールドワークの怪我は学生保険で行けます。あと地震保険も入ってます!」
聞くべきところはそこじゃない、と思いながらも、白石の熱意に押されて、参加を承諾してしまった。
ああもう、そんな中身も読まずに契約書にサインしちゃだめでしょう。だまされたらどうするのよ。
「あ、ダンジョン保険ってありますか?」
「探索者じゃないと、入れないらしいです。私も調べたんですけど」
「探索者って、どうやってなるんでしたっけ?」
「ならなくていいです」
大学に正式にフィールドワークとして認めてもらえるように、お願いしてみよう。
きっと三浦が言えば、大学も嫌とは言えないだろう。
なんだか心配になってきた。
この人選、本当に大丈夫だろうか……。




