2-4 ドローンによる再調査
今日は一日、日が落ちるまで調査の予定だ。
「昨日相良が気になった部分をまず調査だ」
いつもの起点の場所から、ドローンを飛ばす。
海岸線にそって飛んでいるので、送られてくる映像は、浜に寄せては返す波ばかり。
「地形がまったく変わっていますね」
田嶋が昨日の夕方時点での同じポイントの映像をタブレットに映しているが、夕方の時点では沖のほうへ向かって陸地が広がっている。
「地形変化ダンジョン確定だな」
「黒瀬さん、自然型の地形変化ダンジョン、聞いたことありますか?」
「ない」
たまに地形が変化するダンジョンはあるが、階層型ダンジョンの一部階層に限られることが多い。
ドローンはそこから森の周りを、少し大きめにぐるっと回って帰ってきた。
「ざっと見た感じ、海岸線が変わっていますね。ただ、ドローンの行ける範囲を超えています」
「変化に規則性が見えない」
「昨日の夕方は、こっちに川が増えている」
必要がなければしゃべらない田嶋が、画面を指さしながらつぶやいた。
言われてみれば、川が増えている。
なんなんだ、これは。
「とりあえず、いまの情報を整理しよう。地形変化は確定だよな」
「はい。海岸線と川、ですね」
「その変化の規則性は、いまのところ分かっていない」
規則なく変わられたら、もう手出しができない。さすがにそんな難易度MAXではないと思いたい。
「遺跡の苔が、朝はなくて、夕方はある。昨日の朝の海と今日の朝の海は、おそらく同じ」
「ということは、一日でリセットされるのか」
つまり、一日の中で変化する。一サイクルの長さが決まっていることにホッとする。
このダンジョン、なにもかもが信じられないから、そんなささいなことが救いになる。
「時間帯ごとの地図を作るか。攻略準備がめちゃくちゃめんどくさいぞ」
「コアを探すどころじゃありませんね」
やることは決まった。まずは、時間ごとの地図を作り、変化の規則性を探す。
口で言えば簡単だが、三人でドローン一機だと、一体どれだけの時間がかかるのか。
「本社にドローンを貸してもらえないか聞いてみるか」
「あると作業がはかどります」
今日は、時間ごとに海岸線を記録することに集中しよう。
2時間おきに5回、海岸線の記録のみに集中して、ドローンのバッテリーを節約する。
川が途中で生えてくるのは、後回しだ。
「弁当、魚にするんだった」
「海見てると、食べたくなりますね」
待ち時間が長く、やることがなくて、くだらない独り言が出る。
待ち時間のあいだに探索できる範囲は、すでに調査済みだ。
「黒瀬さんが、いままで一番大変だったダンジョンって、どこですか?」
「断トツで、ここ」
「分かります。なんでしょうね、この攻略させる気が一切ない感じは」
相良が気を遣って話を振ってくれたが、愚痴しか出てこない。
普通のダンジョンは、なんとなく作成者の意図が透けて見えることが多い。大切なコアを守るために、近くなればなるほどモンスターが強くなるとか、そう思わせてわざと違うところに誘導したり。だからこそ、こうすれば攻略できるな、というのが想像できる。
けれどここは、違う。
「静かすぎる」
田嶋がポツリと言った。
モンスターがいないとか、そういうことではなく、ダンジョンの意思みたいなものが感じられないのだ。
それが、不気味でもある。強いモンスターがいるダンジョンも大変だが、やることははっきりしている。
「ここのダンジョン、ちゃんとコアありますよね?」
「なければダンジョンじゃない。……だろう?」
まったく本当になんなんだ、このダンジョンは。というか、本当にダンジョンなのかも怪しい。
他のダンジョンと共通なのは、入り口くらいだ。
「調査要員、もう少し欲しいですねえ」
「異対が許可してくれれば、入れられるんだが」
国が調査する前に探索者が入ると管理できなくなるので、公表されていないダンジョンに入るのは許可制だ。
危険がないから、おそらく増員は認められない。ダンジョンの異常性がとても高いと言っても無理だろう。
その日、日没前まで調査して分かったのは、陸がだんだんと広がっていくことだった。
けれど、その広がりかたが、均一ではない。
そして、遺跡も夜に向かって少し崩れて、苔むしていく。
ルールがまったく見えないので、引き続き調査が必要だ。
いまだエントリーポイントである森を出られていないことに、少し苛立ちを感じる。
だが、地形が変わるなら、下手に出ていって帰れなくなる可能性だってある。
地形変化の規則が分かるまで、しばらくは森から出られそうにない。




