4-5 攻略タイミング
一日しっかり休むと、体調はだいぶ回復した。まだ身体が多少痛むが、動けないほどではない。もう少し休みたい気もするが、悠長なことは言っていられない。
昼過ぎから、攻略タイミングを話し合おうと、白石も含めて控え部屋に集まった。
「雨が降るとヌートリア地獄。しかもこれから梅雨。攻略は晴れの日だけか」
ヌートリア地獄を抜けるだけなら根性で何とかなるだろうが、舟をかじられると、どう頑張ってもコアに到達できない。水の境界への対策は、いまのところない。
「それなんですが、ヌートリアが出るのって、現代だけじゃないですか?」
「三浦、なんでだ?」
「江戸層の洪水を調べたときに、外の天気に影響されている可能性を調べました。外が雨の日の映像もありましたけど、ヌートリアはドローンに映っていた記憶がありません」
「たしかに、いなかったな」
黒瀬たちがモンスターを見落とすわけがない。
となると、ヌートリアが出るのは現代層だけだろう。そのほうが、現実世界にも合う。
「ヌートリアは外来種で、野生化したのは戦後のはずです」
「ということは、現代層以外なら、天候に左右されずにコアまで行ける可能性が高いな」
黒瀬たちも、現代しか出ないだろうと納得した。
もしかしてこのダンジョン、水の記憶なのだろうか。堤防に穴を掘ってしまうヌートリアは、治水の懸念事項だ。
「児島半島の付け根の地上を進むのはどうですか?」
「いまから安全ルートを探す時間がない」
「とりあえず検討だけしましょう」
高原が、スケッチブックにメモをしてくれているので、順番に検討していく。
「まず、歩いて児島に渡る場合は、陸続きになる中世以降でないと無理ですね」
「陸がつながるのは、旭川の向こう。そこは調査していない」
児島が半島になるのは、中世以降。旭川の西にある、高梁川の河口あたりだ。上流で砂鉄を取るために洗い流された土砂が堆積したと言われている。
「おそらくJR宇野線の線路があるところをなぞるように進むことになりますよね」
「線路が干拓地の縁か」
「半日かかるねえ」
相良が地図アプリ上で所要時間を出したが、休憩を含めると半日かかる。
行けるところまで行っておいて、児島が陸続きになるのを待てば、日の出までにはなんとか着ける計算ではある。
「時間的には可能だが、旭川を越えられるか分からない。道があるか分からない。モンスターがいない保証がない」
「ほぼ不可能だな」
そもそも旭川を渡る方法があるのか、渡れる橋があるのか、調べていない。
問題点を挙げていくと、かなり無理があることが、あらためて分かった。他に方法があるなら、これは候補にもならないだろう。
高原が問題点を書いて「△」を付けている。
「陸がダメなら、橋ですね。児島湾大橋が、宝珠で出現すると仮定した場合を考えましょう」
「このあたりは沖新田の干拓地なので、江戸時代後期にはもうできています」
白石が地図を見ながら、干拓の順番を説明している。
「となると、江戸層になる午後6時以降はいちおう行けるってことか」
「橋のすぐ近くまでは行けます」
「渡れるか調べるのが最優先ですね」
現代層は晴れのみ。
児島半島迂回ルートは未検証だが実質不可能。
江戸層は、児島湾大橋の出現条件次第。雨でもヌートリアは出現しないが、干拓地の洪水は発生する。
高原のメモでは、すべて「△」が付けられている。
「雨が降ると、攻略は可能だが、干拓地での洪水が広範囲になりますね」
「外が雨のときの現代層と、晴れの江戸層は、おそらく難易度が同じくらいだろう」
「条件めんどくさすぎ」
やることは決まった。以前の、どこで何を探せばいいのか分からない状態よりも、やることがはっきりしている分、気が楽だ。
「ってことは、あふれた水の流れを予想してもらわないといけないから、三浦ちゃんが必要だねえ」
「何度も挑戦したいですが、市民の避難が必要ですから……。次は失敗できません」
結局、最後まで攻略には付き合う必要があるらしい。
次にダンジョンが水を吐く前に終わらせたい。
けれど、もう一度失敗するわけにはいかない。
もういっそのこと、ダンジョンを破壊し終わるまで、流域に避難指示を出してくれないだろうか、という乱暴なことを考えてしまう。
「ダンジョンって、そもそもなんなんですか?」
「そういえば、なんなんでしょう」
白石の根本的な質問に、高原も首をかしげている。黒瀬を見ると、苦笑しながら首を振った。
「さあな。レアメタルが取れるから、神さまのごほうびって言うやつもいる」
「じゃあここは、龍神さまのごほうびでしょうか?」
「ヌートリア地獄が、ごほうびですか?」
ここがほうびになるのは、龍神好きの白石だけだろう。
「まあ……もふもふ好きには?」
「愛でられないもふもふに、意味はないだろう」
相良と黒瀬がもふもふ談義をしているが、実は黒瀬も好きなのだろうか。
三浦には、ヌートリアは害獣というイメージが強すぎて、もふもふとして愛でられない。
「他のところのモンスターってどんな感じなんですか?」
「殺意の塊。人間を見れば襲ってくる」
「平和な顔をしたヌートリアが殺意を持って向かってきたら、嫌かも」
白石が顔をしかめている。想像すると、かなりシュールだ。
「ここのヌートリアは、殺意を感じませんでした」
「あれはモンスターっていうか、ただの害獣でしょ」
あれは、こちらを襲ってきたというより、たまたま進路にいてぶつかったという感じだった。
殺意を持って襲ってきていたなら、いまごろ三浦は生きていないはずだ。
「あいつらもモンスターなら、レアメタルをドロップするんですか?」
「わずかにな。いちおう鑑定に回したが、おそらく期待はできない」
あの状況で、それでも黒瀬はドロップ品を回収していたらしい。そんな余裕があったとは驚きだ。




