2-1 初回探索
「昼食べたら、ここ集合で」
公務員コンビと一緒にダンジョンに初めて足を踏み入れ、ほとんど調査もできないまま帰ってきた。
午後からが、本格的な調査の始まりだ。
旭川にダンジョンが発生したという第一報は、フロニクスの岡山支社で受け取った。うちの社員が見つけたので、国への報告よりも先に、情報をつかんだ。
岡山の中心地、つまり会社に近いところでダンジョン発生とはついている、そう思った。
資材を運び込むのも楽だ。このダンジョンをホームとして稼げる。
そんな計算を一瞬でしてしまうくらいには、朗報だった。
けれど、実際に現場に行くと印象はガラリと変わった。
ダンジョンの入り口は川の中で、水が落ちていっている。
「相良、よく気づいたな」
「水の流れがおかしいので」
朝のジョギング中に気づいたらしい。よくよく見なければ分からない異常だが、さすが偵察任務が得意なだけあって、観察眼に優れている。
国の担当者が待っているという場所に行くと、いたのは異常空間対策庁、通称「異対」の人間ではなく、河川安全事務所の技官だった。もう一人は市の担当者。どちらも、川の担当だ。
これがどれだけ異常事態なのか分かっていないのか、と思ったが、そうではなかった。
二人とも、上の命令で仕方なく来ていた。
なんて厄介なんだ――
最初の印象は、それだ。
素人を連れて、誰も入ったことのないダンジョンの調査を行うなど、こちらの命も危険にさらされる。
だがどちらも乗り気ではないだろうから、初回だけ付き合って、あとはダンジョンから締め出せばいい、そう思っていた。
けれど、さきほど一緒にダンジョンに入って、正直なところ見直した。
市職員の高原は震えていた。
必死で何でもないフリをしていたが、入り口を通すのに受け止めたときに分かった。
無理もない。ダンジョンなど無縁で生きてきたのだ。覚悟を決める時間もなかっただろう。入る前は半分パニックになっていた。
それでも逃げださずダンジョンに足を踏み入れ、そして、こちらの指示を素直に聞いていた。
責任者である技官の三浦はとても冷静だった。
高原を気遣いながら、しっかりと必要なことを確認し、そして何よりも安全を重視していた。
専門外の分からないことは素直に認め、こちらに判断をゆだねてきた。
二人とも、仕事で逃げられなかったにしても、探索者になりたての新人よりよほど度胸がある。
彼らのためにも、さっさと調査を終わらせて、異常空間対策庁に対応を仰ぎたい。
食事から戻った相良と田嶋の準備も完了したので、再度潜ろう。
「ドローンは使いますか?」
「飛ぶモンスターがいて壊されると困る。もう少し確認してからにしよう」
岡山支社には一機しかないのだ。
ダンジョンに入り、遺跡から離れ、森の中を探索する。
「どう思う?」
「モンスターがいる気配がしません」
「いるとしたら、海か?」
いまいないからと言って、油断は禁物だ。相良も田嶋もそれなりに経験を積んでいるので、いちいち言うまでもない。
調査案件、特に一番最初に足を踏み入れるメンバーは、ベテランをそろえる。
田嶋は戦闘よりも防御が得意なので、暫定的な人選だったが、結果として素人二人の護衛に最適だった。
「ここを起点に、この森を確認しよう」
「了解」
三人で、あまり離れすぎないように気をつけながら、それぞれ別のところを調査する。
「来てください」
「相良、どうした?」
「こっちは、陸です」
木々のあいだから、陸が見える。その向こうには山。
エントリーポイントから見て、正面が海、背後が陸のようだ。
「ここは、丘なのか」
「可能性は高い」
「一度戻ろう」
エントリーポイントから、今度は右手を見に行こう。
「この石、こんなに苔がありました?」
「朝はなかった」
エントリーポイントとなっている石の門が、苔むしている。
いま入ってきたときにはしっかり見なかったが、初回はしっかりと見たので覚えている。
このダンジョンは、なにかがおかしい。
「この丘に、モンスターはいないな」
「ここは本当にダンジョンなのでしょうか」
「分からん」
モンスターがいないなら、何を目的にこのダンジョンに潜るのか。ドロップがなければ、潜る意味がない。
そんなダンジョンは聞いたことがない。
金にならない。
それはダンジョンとして致命的だ。せっかく立地のいいダンジョンなのに、正直がっかりする。
それからは、森の中で他に異変がないかを、重点的に見て回った。
だから、気付かなかった。
木のあいだからわずかに見える海が狭くなっていることに。




