3-12 作戦決行日決定
市の会議室に集まり、オンラインで異常空間対策庁とつながっている。
今日はコアの発見の報告なので、参加者は実務担当者だけだ。
「コアを発見しました。児島半島北側の沖合です。干潮時のみ露出する台座に、球体をセットすると現れます。その球体は、龍ノ口山にあります」
「早急に破壊してください。ダンジョン破壊の許可は下りましたので、明日の夜から決行でお願いします」
明日。あまりに急だ。
干潮と日の出時間を見ると、時間に余裕がない。
「できれば、日の出までもう少し余裕のある日がいいのですが」
「いつですか?」
「10日後です」
「待てません」
そう言われても、まだ準備が間に合わない。
「……明日の干潮時刻は、午前4:46。日の出は午前4:58です。時間の余裕がありません」
「ギリギリだな……」
誰かのつぶやきが聞こえた。会場がざわついている。このダンジョンの攻略条件が厳しすぎるのだ。
「市民に避難指示を出す必要があります。それで間に合わなかった、ではすまないんです。10日後以降にお願いします」
「ダンジョンの早急な破壊は閣議決定です。従ってください」
会議室が静まり返った。握りしめた手に爪が食い込んでいるが、それ以上に胸の内にふつふつと湧いてくる怒りのほうが強い。
「攻略手順の説明をお願いします」
「……攻略は、前日の日没前に龍ノ口山にて玉を入手して夜を待ちます。その後、現代層になったところで地上を南下、児島湾大橋を渡り、児島半島で待機。干潮時に現れる小舟で台座へ向かい、コアを破壊します」
言葉の出ない僕に変わり、黒瀬が説明してくれている。
「小舟を使わず、早めに渡れないのですか? 泳いでとか」
「ダンジョンの水に触れれば、どこかに飛ばされます。どこかは分かりません。そこまでは調べていません」
「……そんなダンジョンは聞いたことがありません」
「前回の資料にも書いています。お疑いなら、ご自身で確かめられては?」
黒瀬の言葉のきつさに、緊迫した空気が流れる。
けれど、言いたくなる気持ちも分かる。
異常空間対策庁には、条件が厳しいと前から伝えていたのに、河川の専門なのだからそちらに任せたとしか返事はなかった。
「準備が間に合いません。干潮から日の出までの時間が短すぎます。日をずらさないのであれば、増員してください」
「決行日は動かせません。増員も認められません。間に合わせてください」
「……努力はしますが、確約はできません。まだ調査も不十分なうえに、制約が多すぎます」
「とにかく、決行日は決まりました。会議は以上です」
こちらの意見など、はなから聞く気はなかったのだろう。
黒瀬は最後まで、できるとは言わなかった。
「なんなんですか、あれ!」
「白石、落ち着け。お役所なんてあんなもんだ」
「うちは違うはずです。たぶん……」
高原が自信なさそうに言っている。うちも、できないことはお願いしていないはずだ。胸を張って言い切れないが。
「上がすでに決めているから、あの担当者に言っても無駄だ」
「でも黒瀬さん、けっこう食い下がっていませんでした?」
「こっちのせいにされてはたまらないからな。本来、そういう交渉は三浦のほうが得意だと思うんだが」
「すみませんでした。お上の決定と言われると、逆らえないと言いますか……」
どうあがいても日程変更がないと分かって、言葉が出てこなかった。
「黒瀬さん、これって異常空間対策庁の通常運用なんですか?」
「勝手に向こうが日程を決めることか? それなら普通だな。あっちの都合が優先」
「それもですが、このダンジョンに全く興味がなさそうと言いますか」
「実際ないんだろう。レアメタルが出ないからな」
異常空間対策庁が興味を持つのは、レアメタルが採れるかどうか。採れないこのダンジョンは、自分たちのリソースを割く価値もないのか。
「こうなったらとにかくできる限りの準備をして、これだけ準備しましたって報告を上げておくしかない」
「ぶっちゃけ、できると思いますか?」
「半分半分だな。何もなければいける。だがこのダンジョン、まだ何かを隠している気がする」
「それで、延期と増員を言っていたんですね」
逃げ道を残しておきたいわけではないが、準備が間に合わないのも事実。
あと一日でできるだけのことをやるしかない。




