3-10 龍の祠
――海の底に眠るもの、光の子を待つ。その姿は潮の退く刻にのみ現る
白石が石碑を確認しているあいだ、児島湾から、そして遠く龍ノ口山を見渡す。
「やっとここまで来ましたね」
「今日コアが見つかればな」
「黒瀬さん、慎重ですね」
「このダンジョンだからな」
すんなり見つけさせてくれる気がしないと黒瀬が警戒している。
夜が干潮となる今日、白石も一緒に第二の石碑の前で、干潮を待っている。
ここのところ連日調査をしていたので、昨日と一昨日の二日は休みにした。おかげで、身体が軽い。
「水の下に、何かあります」
「どこだ?」
ドローンで児島湾を見ていた相良が、何かを見つけた。
手元の端末をのぞき込むと、水の下に岩のようなものがある、ような気がする。
だが、ドローンを湾の上に出して、操縦不能になれば、水面に触れてどこかへ飛ばされてしまうので、近寄れない。
ここからでは、水面のさざ波のせいでよく見えない。
「潮が引けば、完全に姿を現しそうですね」
「下で見よう」
全員で少し広くなった浜へ降りて、見守っている。少しずつ足元の浜が広くなっていく。
そして、一番上の部分が水面に顔を出した。
「祠です! やっぱりあったんだ!」
「ほお」
「きっとあの祠の中に、龍の鱗があるんですよ!」
白石が祠のようなものに向けて手を合わせ、龍神に感謝の言葉を伝えている。
だが、気になることがある。
「これ、どうやってあそこまで行くんでしょうか?」
「水に触れたりは……しないな」
紙切れを水に当て、切り取られた部分を見ながら黒瀬がつぶやいた。
「いまがちょうど干潮の時刻です」
「道がないぞ? これ以上は潮は引かないのか?」
「大潮ならもう少し引きますが、それでも道は無理だと思います」
沖合でぐっと水深が深くなっているように見える。となると、大潮でもっと引いたとしても無理だ。
「白石、どうやって渡るか、古文書に書いてなかったのか?」
「船で通ったら、水底で光ってたってことだったので、船?」
「船は水に入れた瞬間に飛ばされるだろう……」
いかにも、というギミックが目の前に見えているのに、たどり着けない。
黒瀬が正しかった。このダンジョン、本当にすんなりいかない。
「この台座、龍ノ口山と同じ形に見えます」
「言われてみれば」
「台座に、宝珠を載せる?」
岩の上の、白石が祠と呼んだ部分が、宝珠が置かれている台と同じだ。
となると、向こうの台座から、こちらの台座へ宝珠を動かせ、ということなのかもしれない。
だがその方法が分からない。
「まさか、投げてあそこにピンポイントで載せるとか、そういうゲームじゃないですよね?」
「お前、いつも技術で解決しようとするのに、そこは腕力なのか」
「他に方法ありますか?」
「運搬用ドローンもおそらく制御不能になるだろうし、こういう場合は、何か用意されている可能性が高い」
黒瀬が注意深く周りを観察しているが、なにも助けになりそうなものはない。
「光の玉を持ってくるか」
「明日出直しですか……」
ため息が出てしまう。
「ええー、これで帰るんですか? しかも歩いて?」
「頑張りましょう」
「タクシー呼んでください……」
操山が見えているからこそ、心が折れるその気持ちは分かる。だが、自分の足で歩くしかない。
そして翌日、龍ノ口山の宝珠を持って再挑戦の夜。
昨日よりも干潮時刻が遅くなっているので、時間は午前2時。丑三つ時だ。
すでに台座は水面に姿を現している。
「あ、船が!」
「お迎えか」
どこかから現れた小舟が、スーッと音もなく近づいてきた。
「玉を持っているから現れたのか」
「鱗が宝珠を迎えに来たんですね!」
「これに乗れってことだな。相良、撤退の判断はお前に任せる。田嶋、二人を頼む」
黒瀬は宝珠を持って船に乗り込もうとしている。
「え? 私も行きます! 何か書いてあったら私しか分からないじゃないですか!」
「ダメだ。何が起きるか分からん」
「白石さん、待っていましょう」
ここはさすがに許可できない。
それに、危険かどうかも分からないところに、黒瀬一人で行かせるのも、躊躇する。けれど、自分が行って何かができるとも思えないし、むしろ足を引っ張る。
一度足元の砂浜に目を落としてから、黒瀬に目をやる。
「黒瀬さん、お願いします」
「任せとけ」
軽く笑った黒瀬が乗り込むと、小舟は岩に向かって進み始めた。




