3-9 配信者の乱入 (市役所職員・高原)
夜の調査に行く四人を見送って、荒手を出たときだった。
「ここって、何やってるんですか?」
「工事です」
「それにしては、重機が持ち込まれていませんよね」
ここは立ち入り禁止で警備員がいるはずなのに、なんで入ってきてるの。
「あなた方は? ここは立ち入り禁止ですよ」
「地元密着型の配信者ですよ。あなたは?」
小さく息をのんでしまった。
配信者に見つかるなんて最悪だ。カメラを手に持っているので、いつ回しだすか分からない。
白石が口を開こうとしたので、腕を引いて一歩前に出た。
「市の土木課の職員です」
「もしかして、先日の旭川の急激な水位変化と関係があるんですか?」
「水位については、河川安全事務所に聞いてください。この川は国の管轄です」
配信者は川と、そして目隠しに目をやった。
「聞いたけど『何もなかった』しか返事もらえないんですよ」
「でしたら、そうなのでしょう。出てください」
向こうは男性三人組なので、強くも出られない。お願いだから、警備員さん気づいて。
「もしかして、ダンジョンができたとか? そういううわさ、ありますよね」
「だったら、異常空間対策庁が乗り出してきますよ。市で対応するわけないじゃないですか」
自分の心臓の音が大きすぎて、川の音が聞こえない。
しばらくこちらを疑り深い目で見ていた配信者は、ふっと肩の力を抜いた。
「ですよね。お姉さんたちみたいな人に任されるわけないですよね」
「そうですよ」
にっこりと笑って、同意する。
しばらく周りを見ていたが、遠くから警備員が駆けよってきているのに気づくと、配信者は去っていった。
無言で白石の手を引き、堂々と胸を張って、待機部屋まで歩く。
そして、ドアを閉めたところで、へなへなと座り込んでしまった。
「高原さん? だ、大丈夫ですか?」
「緊張した……」
「え、そうだったんですか?」
「だって、絶対にばれるわけにはいかないから」
もし誰かに聞かれたら、そんな想定だってもちろんしていた。
それでも実際に聞かれて、しかもすぐ後ろに入り口があるということに、足が震えた。
「何度も何度も、鏡の前で練習したの!」
「すごく堂々としてましたよ」
「本当? ちゃんとできてた?」
「できてました!」
「よかったー」
女性二人と言うことで、ダンジョンとは結びつかなかったようだ。
直前に黒瀬たちが入ったところは見えていなかったようだが、きっと見ていたらもっと食い下がったはずだ。
警備を強化してもらうように連絡しなければ。
翌日も夜の調査のために、夕方集合だ。
昨日石碑が見つかったと連絡があったので、今日は白石も参加する。
待機部屋に着くと、相良が書き写した石碑の文面が置かれていた。
「石碑見つかったって聞きました!?」
「白石さん、こんにちは。ここにありますよ」
「見せてください!」
靴も揃えずに駆け込んできた白石は、スケッチブックを手に取ると、読み始めた。
「海の底に眠るもの、光の子を待つ。その姿は潮の退く刻にのみ現る、ですね」
「コアは、海の底ですか」
たくさんの古文書を解析しているから、この程度はお手の物らしい。スケッチブックの隅に、書き込んでいる。
そこに、三浦がやって来た。
「こんにちは。二人とも早いですね」
以前から会議で顔を合わせることがあったので、三浦のことは顔見知り程度では知っていたが、ここのところ少し雰囲気が変わった気がする。
以前はパソコンの画面を見ているほうが似合っていたのに、いまは少し黒瀬に似てきた。
「あ、読んでくれたんですね。『潮の退く刻』は、おそらく干潮ですね。物理的に海に沈んでいるのか」
「中でも潮の満ち引きがあるんですか?」
「昨日分かりましたが、あります。江戸層で洪水が発生するのは、おそらく満潮による児島湾の海水の逆流でしょう」
まためんどくさい条件が増えたのか。
異常空間対策庁との会議用に資料をまとめたからこそ、複数の条件が入り乱れているこのダンジョンの攻略タイミングがいかに大変か分かってしまう。
そこに、黒瀬たちも到着した。そして、石碑の現代語訳を見ると、三浦に目をやった。
「これって干潮だろ。さすがに俺にも分かった。夜が干潮になるのは?」
「七日後です」
「じゃあ、そこまでは白石は待機」
「ええー、そんなに待ちたくありません」
膨れてみせても、三浦の判断は変わらない。白石の安全にはかなり気を使っている、絶対に許可しない。それは、白石も分かっているのから、ただ言ってみただけだろう。
そんな白石を気にも留めず、四人は出発準備を始めた。
出発前に、昨日のことを言っておこう。
「黒瀬さん、配信者が突撃してきました。ここから出るとき、入るときに気をつけてください」
「探索者だとバレたら面倒だな」
「ダンジョンできたのか、と聞かれました」
「それは……」
「納得したかは分かりませんが、異常空間対策庁が来ていないことで、疑いのままって感じです」
ここのダンジョンが軽視されていることが、功を奏した。
「美咲ちゃん大丈夫じゃった?」
「高原さん、すごく堂々としてたんですよ。『ここは立ち入り禁止です!』って。かっこよかったです」
「ありがとうございます。河川安全事務所にも来たやつらかな。まさか突撃すると思っていませんでした。警備強化するように言っておきます」
「フロニクスにも一応伝えとく」
私もこのチームの一員なのだ。
河川の専門知識や、郷土史の知識はないが、それくらいは貢献したい。




