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旭川ダンジョン対策班、出動! ――水が消える川と時代変化ダンジョンを攻略せよ  作者: 戌葉
第3章 河川管理上の支障認定 ―河川安全事務所・三浦
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3-7 古文書と波動探知機

 ダンジョンの破壊が決定したので、コアを探さなければならない。

 コアを破壊すれば、ダンジョン自体が破壊されるからだ。


 今日は夜の調査だ。というよりも、ここのところずっと夜はダンジョンに入っている。安定しているのが現代層の夜なのだから、仕方がない。

 そして、白石が古文書の写真を持ってきた。


「見てください! 新しい古文書、ここに龍の鱗について書いてあるんですよ!」

「いや、読めない」

「ここです。ほら、鱗って。これですよ!」

「それ、日本語かどうかも分からないんだけど」


 興奮気味に写真の文字を指差す白石を、黒瀬があしらっている。

 歴史の教科書で見たことがあるような書体で、何かが書かれている。分かるのは、縦書きと言うことくらいだ。


「で、その鱗はどこにあるんだ?」

「児島湾の中です。底に光るものがあって、それが龍神さまの鱗だったそうです」


 消去法で児島半島か児島湾だろうとなっていたが、やはり児島湾の可能性が高そうだ。

 ただの伝承だ。だとしても、龍ノ口山に石碑があった以上、無視できない。


「児島湾か。となると、地上に出てくるのか? 水に触れないぞ」

「龍神さまなので、海が割れるとかどうです? 見てみたいですよね!」

「三浦の予想が当たりか?」


 白石が壮大な演出について語っているのを、黒瀬は無視した。

 そういえば、最初のころにコアはどこにあるのかクイズをして、児島湾と答えた気がする。けれど、最近は児島半島だろうと思っていた。


「ということで、今日は私も行きます!」

「だめです。白石さんは留守番で」

「何でですか! 私が見つけてきた情報です!」

「それにはとても感謝していますが、安全が確認できないと連れて行けません。操山と違って、すぐに戻れないんです」


 操山から児島湾大橋まで歩いて2時間、そこから橋を渡って児島半島に入り調査、そこで何かあった場合、操山まで戻らないといけないのだ。そんなところに、学生の白石は連れて行けない。


「白石、今日はあきらめろ。石碑を見つけたらお前を呼ぶ」

「でも」

「白石さん、一緒に待っていましょう」


 田嶋も首を振っている。

 高原の説得もあり、なんとか納得してくれた。

 中の映像を送ることができれば、危険なところに連れていく必要もないのに。つくづくダンジョンの特性が恨めしい。



 高原と白石に見送られて、ダンジョンに入る。

 黒瀬が初お目見えの機械を持っているのがずっと気になっていた。


「それなんですか?」

「コアの波動検知器」

「そんなものがあるんですか……?」

「異対から、本社が借りてきた」


 あるなら、どうして最初から貸してくれなかったんだ!

 それがあれば、もう少し調査が早く進んだかもしれないのに。


「専門外の河川安全事務所に任せっきりってどうなんですか、とチクチクやって来たらしい」

「うらやましい、その政治力……」


 ダメもとでの増員の交渉が認められなかった代わりに、この機械が出てきたそうだ。黒瀬たちも初めて見るものらしい。

 異常空間対策庁は、まだまだ何か便利なものを隠し持っているんじゃないか。そんな疑いの目で見てしまう。


「異常空間対策庁が、一度もダンジョンに入らずに破壊を決めるなんて、あるんですか?」

「……なんか事情があるんだろう」


 こっそり黒瀬に聞くと、言葉をにごされた。

 けれど、やはりこれは異例の対応で、黒瀬はその事情をおそらく知っている。

 危ういことには近寄らないに限る。気づかなかったことにしよう。


「南側のほうが値が高いな」

「白石さんの説が当たりですかね」

「準備ができたら出発しよう」


 なんとなくの方向しか分からないと聞いていたが、白石の説と合わせると、進むべき方向が見えてくる。児島半島に渡るのが一番の近道だろう。


 0時を過ぎて安定した現代層を、南に向けて進む。

 現実とまったく変わらない地形なので、歩きやすい。ただ、建物がないことに違和感があるだけだ。


「音がしないのが、こんなに怖いと思いませんでした」

「そうだな。夜中の調査は、独り言が多くなるぞ」


 しゃべっていないと不安になる。

 百間川と旭川のちょうど真ん中あたりをひたすら歩く。

 干拓地の中の道路は、まっすぐだ。そして横に用水路があり、ガードレールがないので、油断できない。


「全然つきませんね」

「建物がないと、距離感がうまくつかめない。あと、単純に飽きる」

「たしかに」


 仕事モードの相良は必要以上にしゃべらないし、田嶋は無口なので、必然的に話すのは黒瀬とになる。


「お気に入りのダンジョンってあるんですか?」

「コスパがいいダンジョンだな」

「耳が痛いです……」


 ここは大変なのに稼げないという、コスパ最悪のダンジョンだ。


「いまだけ考えれば、最悪ではない」

「そうなんですか? ドロップ品も出ないのに?」

「初期調査のドロップ品は、異常空間対策庁のものになる。俺たちは依頼料のみ」

「それじゃあ受けるメリットなさそうですが?」


 こんな大変な調査をして、定額しかもらえないというのは、みんな避けたいのではないだろうか。


「そうでもない。定額はもらえる。そこには危険とドロップ品の分も多少は上乗せされている。だが何より、攻略方法を誰よりも早く知ることができる」

「それって、今後稼ぐためですよね。ここは壊しちゃうから……」

「あとは、新人の教育だな」

「未知のダンジョンでですか?」


 それはリスクが高いのではないか、と思ったが、もちろん考えられていた。


「相良一人で地図を作るのは大変だから、相良が簡単に調査して危なくないと分かったところを、新人に任せるんだ」

「ああ、それなら分かります」

「そういう、教育のために無償でいいからもう一人参加させてくれっていうのなら、異対も断らない」


 となると、このダンジョンにも入れてもいいのではないだろうか。


「期待しても、ここはダメだぞ」

「なんでですか?」

「ここは、普通のダンジョンじゃない。新人の教育には向かない」


 このダンジョンに慣れてしまうと、次のダンジョンで困ることになる。


「三浦、お前もだ。今後機会があってもダンジョンには入るなよ。すぐにモンスターに食われるぞ」

「……遠慮しておきます」


 一番最初に足を踏み入れたときに感じていた、何が出てくるか分からない恐怖のようなものが、いまはない。

 けれど黒瀬たちはいつも緊張している。ここがダンジョンである以上、何があるか分からないからだ。

 ここ以外を知っているか知らないか、それは大きな差なのだろう。


 そんな話をしているうちに、児島湾に着いた。歩いて1時間半くらいか。


「異常波動があるな」

「まさかの、水の下にコアですか……?」

「分からん。児島湾なのか、児島半島なのか。渡ってみよう」


 波動は沖合からのようだが、分かるのは方向だけだ。


「昨日、橋は渡ってみたが、警戒は怠るなよ」

「はい」


 現代の構造物なので安全だろうと無意識に思っていた気持ちを引き締める。

 車が通っていないので、とても広く感じる児島湾大橋に、足を踏み出した。

 児島湾の波の音だけが聞こえていた。


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