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旭川ダンジョン対策班、出動! ――水が消える川と時代変化ダンジョンを攻略せよ  作者: 戌葉
第3章 河川管理上の支障認定 ―河川安全事務所・三浦
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3-5 異常空間対策庁との初会議

 関係者による、初めての会合が開かれる。

 異常空間対策庁の担当者が初めて、岡山に来たからだ。

 ダンジョンが水を吐いたことにより、流域に被害が出る寸前だったということが、異常空間対策庁の重い腰を上げさせたらしい。


 自治体の長、河川安全事務所の所長、自治体の土木関係者という、土木系の会議で顔を合わせるいつものメンバーだけではない。

 オンラインでつながっている先には、異常空間対策庁と、フロニクス社の本社の役員という、めったにお目にかかれないメンバーがそろっている。


「4月3日、旭川の一の荒手にダンジョンが出現していることが確認されました」


 三浦が作った資料を基に、上司が説明している。

 壁には、初めて調査に行ったときの写真が映されている。


「市民には知らせず、4月6日、初めて内部への侵入を行いました。ここからは、フロニクス社の黒瀬さんより、説明いただきます」

「内部は時間によって地形が変化する、流動型です。地形は、岡山市南部の実際の地形を模したもので、日の出とともに古代から始まり、現代に向けて時代が進み、夜間は現代で固定され、日の出とともに古代に戻ります」


 異常空間対策庁のあたりからざわめきが広がる。以前黒瀬が言っていたが、地形変化は本当に珍しいようだ。


「また潮の満ち引きが、現実と同じタイミングで発生しています」


 これには土木関係者から、驚きの声が聞こえた。

 プロジェクターで映された資料が、次のページに移る。


「モンスターですが、いまのところ確認されていません」

「……モンスターがいない?」

「はい」


 誰かが小さく息を吐く。期待が目に見えてしぼんでいく。

 わかりやすすぎる反応だった。レアメタルが出ないとなれば、ダンジョン関係者の関心は一気に失せる。地元への経済波及効果を期待していた人たちも。

 岡山の水害リスクなど、彼らにとっては、机の上の書類一枚の出来事に過ぎないのだ。


 異常空間対策庁の担当が、初めて書類から顔を上げた。

 黒瀬をじっと見てから、また資料に視線を落とす。稼げるダンジョンかどうか、考えているのだろう。


「コアの場所は、まだ特定できておりません。現在可能性が高いと思われるのは、児島半島です。それ以外の場所はあらかた調査を終えました」

「そこへのアクセスは?」

「現代層のときに児島湾大橋を渡るというのが、一番現実的です」


 だがまだ一度も試せていない。

 分かりやすく、時代が揺らぐ前を江戸層、そのあと現代に固定されるのを現代層と呼んでいる。


「児島に、なにかレアメタルがある可能性は?」

「調査していません」

「なぜしない?」

「朝になれば退路が断たれる児島への侵入を行うのであれば、装備も人員もそろえる必要があります」


 黒瀬が異常空間対策庁担当者の質問をバッサリと切った。そんな契約じゃないという心の声が聞こえそうだ。

 コホン、とせき払いをしてから、担当者が話を進める。


「それで、先日突然水を吐いたというのは?」

「それは私のほうから」


 上司が話を引き取った。


「5月17日の午後3時過ぎ、何の前触れもなく、ダンジョンが水を吐き出しました。流量から想定しますと、できてから吸い込んだ総量を吐き出したと思われます。現在はまた吸い込んでいます」

「なぜ突然水を吐いた?」

「分かっておりません。そのとき調査班はダンジョン内に入ったばかりで、いつもと違う行動は取っておりません」


 誰かが中で何かをしたからというわけではないのだ。


「限界まで水が溜まった、と見るべきですか……」


 異常空間対策庁の担当者が独り言のように言った。

 事実の説明を終えたところで、いったん休憩となった。


「三浦ちゃん、美咲ちゃん、でぇれぇ分かりやすい資料作ったな」

「本来はそういう仕事してますので。ですが、果たしてどれくらい読んでくれたでしょうか」


 先日の会議用に作った資料も合わせて、高原がかなり時間をかけて、しっかり用意してくれた。

 時代、陸の広がり方、潮汐、が絡んだややこしい攻略条件は、分かりやすく表になっている。

 次にダンジョンが水を吐くのが満潮のときだったら何が起きるのか、シミュレーションデータもつけた。

 だが、彼らが興味があるのは、稼げるかどうかだけだ。


「黒瀬さん、あの東京のフロニクス社の人、ときどきテレビに出てる人ですよね?」

「ああ。テレビはだいたいあいつだな」

「うわあ、本物に会っちゃった」

「会ってないけどな」


 無邪気に喜んでいる高原に、空気が柔らかくなる。肩に入っていた力が、少し抜けた。

 気をもんだって、なるようにしかならない。それくらいの心がまえでいよう。



 休憩が終わってからの第一声は、まあ予想できたものだった。


「旭川ダンジョンは破壊する」


 異常空間対策庁が、ダンジョンを切り捨てる判断をした。

 そのほうが洪水の危険性が減るので、土木関係者はほっと肩の力を抜いた。土木関係以外の仕方がないという苦虫をかみ潰したような表情をしているのと対照的だ。

 その発言を受けて、黒瀬が異常空間対策庁に要望を出した。


「そのためには、いまの三人だけでは不十分です。攻略のための人員を追加してください」

「モンスターがいないんだ。いまのままで十分だろう」

「潮汐など面倒な条件があります。人員の増加をお願いします。まだ調査は終わっていません」

「いまも河川安全事務所が協力していると聞くが? 潮汐などは専門だろう」


 思わず、机の下でこぶしを固く握った。上司を見ても、小さく首を振ってから肩を落とすだけだ。

 うま味のないダンジョンにあてる予算はないのだろう。ため息を、必死で飲み込む。


「早急に準備を。こちらの手続きが完了次第、破壊命令を出す」

「お待ちください」


 思わず立ち上がったため、全員の視線がこちらに集まった。それにひるむが、それでも言わなければならないことがある。

 ダンジョンを破壊するのはいい。けれど、一つ心配なことがある。


「ダンジョンが水を溜めているのなら、破壊したときに、その水が吐き出されるのではありませんか?」

「それが何か問題でも?」

「下流で越水が発生しかねません。しかもこれからは梅雨時期。雨量が増えます」


 会議室に沈黙が落ちる。その可能性をまったく考慮していなかったようだ。


「ダンジョンを破壊した場合、通常は何が起きるのですか?」

「通常はダンジョン空間がなくなるだけだが、このダンジョンについては分からない。川の中にできて、水を吸うダンジョンなど聞いたことがない」


 分からないなら、なおさら慎重になってもらわなければ困る。岡山の中心地が水没する可能性があるのだから。


「ダンジョンができた荒手は、元に戻りますか?」

「戻る、とは思うが……。ダンジョンがなくなって、地面が陥没したという報告もある。だが、そもそも破壊したダンジョンが少ないので、何とも言えない」

「そんな……!」


 高原が、思わず悲鳴を上げた。

 荒手が崩れれば、旭川の水が増水しなくても百間川に流れ込んでしまう。そうなれば、百間川の流域で洪水が発生しかねない。


「市民の安全を、最優先にしていただきたい」


 さすがに黙っていられなくなったのか市長が声を上げた。

 土木関係のいつものメンバーが、うんうんとうなずいているのが見える。


「百間川は、児島湾が満潮の場合、逆流を止めるために水門が閉じて、排水できなくなります。潮汐にも留意をお願いします」

「……両河川の流域の安全を考慮しながら、河川安全事務所とフロニクス社で、早急に破壊のための調査と準備を進めてください」


 急ぐ理由があるのだろうか。

 そのとき、再び上司が発言した。


「タイミングはこちらで決めてもよろしいですか?」

「流域住民の安全が優先ですが、候補を提出してください。ダンジョン破壊後の地形については、調べておきます」


 異常空間対策庁が関わる気はないが、破壊の日は決めるということか。

 だがこれで、異常空間対策庁の都合だけで進められることはなくなった。

 いままで完全に放置されていたので、もっと冷たい対応をされるかと思っていた。

 

 会議室には、厄介なダンジョンへの戸惑いがあふれている。

 いまさら、手元の資料を見ている人もいるので、価値のあるドロップ品があるかどうかしか見ていなかったのだろう。


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