3-4 江戸層と現代層
翌日は、昼から待機部屋に集合し、状況の整理をしている。
黒瀬たちには昨日の疲れた様子はまったくない。
「調査できていないのは、江戸時代の干拓地と、あとは児島半島だ」
「荒手には何もありませんでしたか?」
「百間川ができてから見に行ったが、石が積んであるだけで、何もなかった」
ダンジョンの入り口がある荒手になく、干拓地にもないのなら、あとは児島なのだろう。
「一つ重要なのが、江戸時代から現代は、一気に変わる」
「明治以降は飛ばされるのですか?」
「飛ばされるというより、そのあいだ、江戸後期と現代を行ったり来たりしている感じだ」
「時代が……揺らぐ?」
「高原、まさにそれだ。揺らぐから、川の近くにいると危ない」
操山の北側には鉄道の線路が出現したり、消えたりしているうちに、新幹線の高架が現れ、現代に固定されるらしい。
突如現れる線路は、見てみたい。
「明治以降は、旭川の西側で大規模な児島湾の干拓が行われたので、その影響でしょうか?」
「あるかもな。変化が早すぎるのかもしれない」
ここ最近、干拓地周りの時代変化の地図をよく見るので、覚えてしまった。
「その揺らぐ前を『江戸層』、固定されてからを『現代層』と呼んでる」
始まりがどの時代かは明確ではないが、古墳がないということは古墳時代よりも前。
そして、夜中の0時には現代で固定される。
ざっくり20時間で2000年変わると仮定すると、1時間の変化は100年。つまり、江戸時代末期から現代が2時間なのだ。
ダンジョンの地形変化に対して、現実の変化が激しすぎるのかもしれない。
「江戸層の干拓地の調査が進まない原因は、何かありますか?」
「用水路の洪水があって、進めなかった」
水面は境界となり、触れたところがどこかに飛ばされてしまう。洪水が発生した場合、逃げなければ危ない。
「そこで三浦、お前の力を借りたい。ドローンで洪水の映像は撮ってある。どこを抜けられるか、お前なら分かるだろう?」
「協力します」
土地の低さや用水路の流れ方で、パターンが分かると抜けられるだろう。
「ところで、白石はどうした?」
「新しい古文書の情報があったので、その調査に行くそうです」
個人所有のものを見せもらえることになったそうで、大学の教授と一緒に調査に行くと言っていた。
「そうか。コアの手がかりになるといいんだが」
児島、あるいは児島湾にコアがあるとしても、それなりに広い。
「あの玉を使うところも、ではまだ見つかっていないのですね」
「ああ。前にも言ったが、あの玉は、日の出とともに龍ノ口山に戻る。それが『光にて生まれ、影にて還る』だろう」
「ということは、攻略にあの玉が必要なら、日の出までのタイムアタックになりますね」
黒瀬がため息をついた。
「しばらくは、夜間作業だな。三浦は、問題ないのか?」
「緊急事態ですから」
流域の安全がかかっているのだ。上司が上手くやってくれるだろう。
「高原には、調査結果を報告用にまとめてもらいたいんだが、頼めるか?」
「異常空間対策庁との会議用ですか?」
「ああ。そういうのは田嶋が得意なんだが、田嶋には三浦の護衛に入ってもらいたい」
「操山で、タブレットを見ながらの作業ですよね? 任せてください!」
高原が笑顔でうなずいた。
とても分かりやすい資料を作ってくれるので適任だろうが、ダンジョンには入りたくないのだと思っていた。
「悪いな」
「ちょっと新幹線の高架ができるところ、みたいな、なんて」
「高原さん、実は鉄分高め?」
かなり乗り気なのは、鉄道が見たいからか。
「違いますけど、私は児島湾がまだ海だったころしか見ていないので。新幹線ってすごく現代っぽいじゃないですか」
「児島湾大橋もかかるから、そっちも行くか?」
「操山からは出なくていいです!」
高原の中では、操山は安全地帯のようだ。
「高原は、明日ダンジョンに入る服装で来てくれ」
「分かりました」
「じゃあ、三浦、行くか」
「行きましょう」
異常空間対策庁が来るまで、なるべく調査を進めよう。




