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旭川ダンジョン対策班、出動! ――水が消える川と時代変化ダンジョンを攻略せよ  作者: 戌葉
第2章 異常空間内部調査結果 ―探索者・黒瀬
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2-19 会議は踊り、異常は継続中(河川安全事務所・三浦)

「報告は以上です」


 旭川の荒手に現れたダンジョンについての、事務所内での会議中だ。

 発生から現在に至るまでの報告を終えた。


「つまり、荒手の上流と下流で差異が出ている分の水はすべて、ダンジョンに吸収されたと言うことですか?」

「それは不明です。ダンジョン内で増水しているように見受けられるところはありませんでした」


 そこはみんな気になるようだ。消えた水はどこへ行っているのか。


「ダンジョンのエネルギーにでもなってるんですかね」

「水力発電ですか」

「ダンジョンなら100%の発電効率を出せる謎技術がありそうですね」


 確かにありそうだし、知りたい。


「あの、それで、箱尺なんですが……」

「ああ、始末書の件ですね」

「はい。申し訳ございませんでした。事前確認を怠ったため、一部欠損してしまいました」


 備品を壊してしまったので、頭を下げたが、誰もこちらを気にしていない。好き勝手な議論が始まった。


「箱尺の欠損部分は、どこに行ったんでしょうねえ」

「相手は未知のダンジョンですからねえ……」

「本来でしたら、異常空間対策庁の案件でしょうに」

「三浦さんの資料だと『探索者の経験から類推するに内部残留が多い』って書いてますね」

「ああ、ほんとだ。現時点ではダンジョン内部に滞留しているものとして整理しましょう。我々の専門外ですし」


 とりあえずは承認されそうだ。


「でも、消えた部分を探索してないみたいですけど……管理責任とか、大丈夫なんですか?」

「ダンジョン内なら不可抗力で説明できるでしょう」

「現実の川だとすると、不法投棄で自治体がうるさいですね……。もちろん、故意に捨てたわけではありませんが」

「まあ、川じゃないってことで、不可抗力による部分欠損で処理しておきます」

「よろしくお願いいたします」


 一番気になっていたことだったので、肩の力が抜けた。


「あ、でも今後は、備品のダンジョン持ち込みはやめてくださいね」

「フロニクス社には資金も豊富だし、あちらの機材を借りる方向で」

「この報告書に出てくるドローン、これきっと最新鋭のだよね。いいなあ」

「緊急時には、貸してもらえないか、三浦さん、ちょっと聞いといて」


 黒瀬に言ってはみるが、高価な機械を貸してくれるはずもない。


「ドローンの映像って外で見られないの? 無理って書いてあるけど、なにか方法はないの?」

「どこのダンジョンでも同じようです。無線の特定周波数帯での音声通信程度しか通らないようです。記憶媒体で持ち出しても消えます」

「あきらめるしかないのか」


 上司がため息をついた。外で見られるなら、中に入る理由もなくなるのに。


「調査ってまだまだかかりそうなの?」

「現在は、各時代の、龍ノ口山周辺、荒手周辺、干拓地の調査を行ってもらっています。あと一ヶ月程度かかる予定です」

「そんなに必要なの?」

「時間によって時代が変わるため、同じ場所を何度も確認する必要があります。三名ですので、週二日の休暇を考慮すると、妥当かと」


 なぜそんなにかかるのかと不思議そうだが、時代変化のせいだ。日の出から、現代で固定される夜中まで、すべての時間帯で調査を行う必要がある。

 しかも地形が変わるので、ダンジョン内での寝泊まりするとなると、変化のない、入り口である操山の森の中になる。そうなると結局、現実世界に帰ったほうが身体も楽なので、毎日ダンジョンに通うことになる。


「時代……これか。日の出で古代で、夜間は現代か」

「はい。水によって作られる境界に触れられないため、調査範囲は旭川より東側、江戸中期以降は百間川より南側と西側となります」

「旭川の移動まで再現されているのか」

「はい」


 それも厄介なのだ。海側は干拓地、陸側は川の変化があるので、常に時間を気にしていなければならない。


「これ、かなり貴重な資料だね」

「必ず現実と同じなのかは、検証できません」

「見に行きたいねえ」


 ほとんどの人がうんうんとうなずいている。

 白石と同じような反応に、思わず笑いが出そうになって、必死でこらえた。


「三浦さんと一緒に視察に入れない?」

「護衛できるのは二人までと言われています」

「予算取れないかなあ」


 入りたいなら、自分たちで護衛を雇うしかないが、そんな予算はもらえないだろう。


「ところでこの大学院生、問題になりませんか?」

「安全には十分に配慮しています」

「入らないとだめなの? 外からの応援だけでのほうが、安全じゃない?」

「ダンジョンコアの位置推定に必要な情報は、現地で見ないと分からない部分があります」


 ドローン映像が持ち出せない以上、白石本人に確認してもらうしかない。


「万が一事故があったときのことを考えると……」

「本人が希望し、大学からもフィールドワークとしての参加で許可がおりてます」

「危険性は説明した?」

「本人、担当教授、大学、すべてにしました」

「異常空間対策庁は?」

「ダンジョンコアの居場所の特定に必要なら許可すると」

「じゃあ、何かあってもうちの責任にはならないかな」


 白石が参加するときは必ず行くように徹底しよう。


「それで、モンスターがいないって、本当なの?」

「はい。いまのところ見つかっていません」

「じゃあ、探索者が来て、地域経済が潤う、なんてことはないのか」

「でもそのほうがいいんじゃないですか? 荒手ですよ? 増水でも避難指示に従ってくれそうにない人たちでしょう」

「それにあそこは施設も作れませんしねえ」

「異常空間対策庁に押し切られて、治水に影響が出ると困りますね」


 ダンジョン目当てに人が集まればいい面もあるが、今回は場所が悪い。

 あそこは、岡山の治水の要なのだ。


「まあとにかく、安全第一でね」

「はい。十分に配慮して、行います」

「三浦さんもだよ。気をつけてね」

「ありがとうございます」


 最後まで雑談めいた空気のまま、会議は終わった。


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