2-16 稲刈り
「当初の予定どおり、龍ノ口山に行ってみようと思う」
「龍神の眠る地ですね」
理系かと思えば、詩的なことも言う。三浦は不思議なやつだ。
横で白石が両手を上げて喜んでいる。白石一押しのコア候補の地だ。
本当はダンジョンの発生地点である荒手に行きたいのだが、岡山城築城に伴う旭川の移動のあと、つまり夕方以降でないと行けない。川の移動に巻き込まれて、水面の境界に触れると困るからだ。
朝の光の中、しばらく北に進むと、田んぼに行きあたった。
「すごい! ここ、平安時代の田んぼですよ! 黒瀬さん、稲は触ってもいいですか?」
白石が黄金色の田んぼを指さしながら、聞いてきた。
植物は安全だと確かめてある。
「いいが、中には入るな。で、何する気だ」
「稲刈りです! 平安時代の人たちが食べていたお米、食べてみたいじゃないですか。そのために、じゃーん、鎌を持ってきました!」
前回稲を見たときに思いついたそうで、新品の鎌を持ち込んでいた。ご苦労なことだ。
「ダンジョンの植物は切り離した瞬間に消える」
「え? そうなんですか?」
と聞きながらも、白石は稲の根元を束で握り、刈った。
ダンジョンの植物は、切り離せば消える。しばらくすると何事もなかったように戻っている。常設オブジェクトだ。
ザシュッ。
「ほんとだ。消えました! おもしろいです! さすがダンジョン」
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ。
楽しそうに稲を刈っている。そのうち飽きるだろう。
しかし、外は夏へと移行する時期なのに、ダンジョン内ではなぜか稲穂が実っている。
気にしたことがなかったが、ここの季節はどうなっているんだ。
また調査項目が増えそうだが、ひとまず無視しよう。
しばらく、白石が楽しそうに稲刈りするのを見ていた。
気を取り直して、小さな川を越え、龍ノ口山に向かった。
ダンジョンの入り口となっている操山より少し高い山は、木に覆われてこんもりとした森のようだ。
「ここ、受験の神さまとして有名なんですよ」
「簡単に行けるのか?」
「岩山でときどき事故も起きるそうですけど」
気軽に登れる山ではなさそうだ。
だが、三浦と白石を見ると、登山にも耐えられる格好をしている。
「三浦、靴替えたのか?」
「ちょっと奮発して、いい登山靴買っちゃいました。自腹ですよ」
自腹はわざわざ強調しなくていい。予算がないのは知っている。
そのとき、ドローンを飛ばして周囲を確認していた相良が不思議なことを言った。
「登山道を発見しました」
「登山道?」
「はい。明らかに、人の手の入った登山道です」
画面を見ると、確かに道がある。それも、獣道などではない、しっかりとした道だ。
「三浦、どう思う? あからさまに、ここを登れという感じだが」
「ダンジョンでは、こういうのは普通なんですか?」
「普通のダンジョンならな。だがここは違うだろう。操山に道はない」
三浦はあごに手を当てて考え込んでいる。だが、三浦に代わって白石が元気よく答えた。
「行きましょう! 龍神さまが呼んでるんですよ、きっと」
龍神というより、おそらくこのダンジョンの主が呼んでいる。そんな気がする。
「相良、どう思う?」
「嫌な感じはしません」
相良は索敵を務めるだけあって、そういうものに敏感だ。その相良が嫌な感じがしないというのなら、行ってみるか。
「相良と俺で先行。問題なければ、田嶋が二人を連れてこい」
「はい」
「何かあった場合、岡山城ができた場合は、操山に戻れ」
「了解」
百間川ができれば、操山へ戻る道がなくなる。
三浦と白石の安全のためには、出直したほうがいいのは分かっているが、ダンジョンの誘導に乗ってみることにした。
相良と二人、登山道を進んでいるが、整備されていて歩きやすい。
「呼ばれてるよな」
「そうですね。この先に何かあるのは間違いないでしょう」
「ここにきて、やっとか」
自然ダンジョンというより、ただの地形を再現したテーマパークのようだったところに、この道だ。
今日はなにかを見つけられる。
そんな予感がした。




