2-15 水の調査
水のなにが危険なのか、それを解明するのがまずやるべきことだ。行動範囲に直結する。
「水っぽいものに、片っ端から何かを突っ込んでみるか」
「準備が必要ですね」
「今日は、この割り箸でいいんじゃないか?」
田嶋も一緒に早めの昼を食べながら、話して方針を決めた。
そして、まずは北側の湿地帯におりた。以前このあたりを歩いたが、靴が消えるようなこともなかったので、多少ぬかるんでいるくらいなら平気なはずだ。
泥に割り箸を刺してみる。
「消えないな」
「こちらもです」
「消えた」
田嶋が、新聞紙を丸めて棒状にしたものの先端をこちらに見せている。
「どこだ?」
「この水たまりです」
そこに割り箸を少し入れると、消えた。
「泥は平気。水たまりはアウト、か」
「この先に、田んぼがあったはずです」
「そこでも確かめるか」
それから水を含んでいるところをいろいろ確かめてみた。
結局分かったのは、土と混ざっていれば平気だが、水だとダメだということだった。
「条件が分からん。その境目はどこなんだ?」
「水単体だとダメなのでしょうか?」
「だが、泥水だぞ? 濃度がどうのと三浦が言いそうだな」
ここで話していても答えが出そうにないので、引き上げることにした。
三浦たちの意見が欲しい。
そしてダンジョンを出て、小屋に入ると、三人が待っていた。
「お前ら、どうしたんだ?」
「お帰りなさい。水を避けてどこまで行けるか、という地図を作っていました」
高原は、後方支援の天使かもしれない。
「それでどうでした? 危ないのはあそこの水だけですか?」
「いや、お前たちの意見が聞きたい。泥は平気だが、湿地のなかの水たまりに触れると消える。水の濃さか?」
試してみたものを詳しく話すと、三人とも考え込んでしまった。
しばらくして、三浦が口を開いた。
「それって、水たまりの深さよりも深いものでも消えますか?」
「それはやってないな」
「消えた」
俺は試さなかったが、田嶋が突っ込んだ新聞紙は、深さに関係なく入れる先から消えたらしい。
それを聞いて、三浦が一つうなずいた。
「となると、水ではなくて、水面かもしれませんね」
「どういうことだ?」
「事象としては、水に触れた瞬間に消えている気がします。その場合、水に触れたと判断されるのが、水面を越えたことなのではないでしょうか? あくまで推論ですが……」
なるほど。川も、水たまりも、水面がある。湿地は泥と水面が入り乱れていて、泥の部分は平気だが、その中の水たまりはダメなのか。
「危ないのは、水ではなく水面か。たぶんそれだな」
相良がうんうんとうなずいている。
「ダンジョンの中には、見えない境界があって、そこを越えると飛ばされるというようなギミックがある。あとは、鏡とか」
「境界ですか。なるほど」
探索者にはなじみのある現象だ。水のような固定されていないものでは初めてだったので、気づかなかった。
「ちなみに、飛ばされる先は?」
「ダンジョンによる。特定の場所だったり、ダンジョン内のどこかだったり、ダンジョンの外だったり」
「うわぁ」
「あと、境界を越えた一部の場合、一部でも超えたら全部の場合もあるぞ」
素人三人が、あぜんとしているが、そもそもダンジョンは危険なところなのだ。あのダンジョンが安全すぎるのだ。
翌日、三浦、白石とともに五人でダンジョンに入る。昨日のやり直しだ。
薄く水たまりのようになっていて、表面が光を反射して別の景色を映しているところに棒を刺すと、先が消えた。
一方、泥の中にしばらく入れて水を吸った新聞紙を丸めたものは、泥水を吸っているものの、形をとどめている。
「やはり危険なのは、境界なのでしょうね」
「水ではないな」
「ということは……」
そういうと、三浦はリュックから水のペットボトルを取り出した。
ペットボトルの中で、水の表面がゆらゆらと揺れている。
そこに、割り箸を突き刺した。
「消えませんね……」
「持ち込んだ水は、平気なのか?」
「面積が小さい?」
今度は地面に穴を掘って、そこに水をドバドバと入れた。即席の水たまりができている。
そして、割り箸を突き刺すと、先が消えた。
「異なる条件は、面積と容器」
「小さな穴を掘ったぞ」
「そこに水を入れてみましょう」
ペットボトルのキャップくらいのくぼみを作り、そこに水たまりを作る。
今度はどうなるのか。
「……消えましたね」
「大きさは関係ないのか」
「容器で確定ですね」
「土の上の水ってことか?」
「古墳の岩の上でもやってみましょう」
完全に三浦の独壇場だ。
白石が興味津々で近づこうとするのを、田嶋が止めている。
「お前、クイズ得意か?」
「これはクイズではありません。ただの実験ですよ」
そう言うと古墳の岩のくぼみに水を垂らした。
結果、割り箸の先が消えた。
「持ち込んだペットボトルのままなら平気。ダンジョンに触れた時点で、境界としての効力を発揮する、ということでしょう」
「まとめると、危ないのは境界。水はこぼすな、川は飛び越えろってことだな」
「まあそうですね」
強引なまとめに三浦が苦笑しているが、探索者が知りたいのは、対処方法であって、原因じゃない。
原因解明は三浦に任せる。頼りにしているよ。




