2-14 ダンジョンの水
時代ごとの調査を行う日。今日は、三浦と白石がいるので、こちらも三人そろい、フルメンバー構成だ。
高原は後方支援として、にこやかに送り出してくれた。
「三浦、お前なに持ってきたんだ?」
目盛りの書かれた棒を持っている。
「箱尺です。用水路の深さを測るのに持ってきました」
「何のためだ」
「深さが分かっているほうが安心ですよね」
「まあ……そうか?」
三浦が、近くを流れる川を指さしながら言った。護岸がコンクリートで固められていない、自然のままの川だ。
確かに歩いて渡れるのかどうか、分かると便利かもしれない。
三浦は無造作に棒を流れに突き刺した。
「え?」
「どうした?」
「……消えました」
棒をつかんだままぼう然としている。
「なにがあった? おい!」
「川の中に入れた部分が……消えました」
棒をこちらに見せてくるが、先の部分がなくなっている。
「田嶋! 白石を水から離せ!」
それを聞いてすぐに田嶋が白石の腕をつかんだので、とりあえずあっちは大丈夫だ。
探索者はダンジョンのものには極力触らない。触れただけで反撃するようなギミックが仕込まれている場合があるからだ。
だが、白石はそんなことは知らない。このダンジョンはモンスターもいないので、油断していた。
声の緊急性に気づいた相良が、走って戻ってきた。
「何かありましたか?」
「川に棒を入れたら、先端が消えた」
「えっ?」
三浦は、いまだぼう然としている。
「おい、大丈夫か?」
「消えた。備品なのに……。帰ったら、始末書書かなきゃ……」
そっちか。ショックを受けるのはそっちなのか。
「白石、地面以外には触るな。触るのは、問題ないか確認してからだ。いいな」
「それってどういうことですか?」
「水に棒を入れたら、先が消えた。おそらく手を入れれば、手が消えるぞ」
「ええっ!」
「他のものが安全なのか、まだ分からん。だから触るな」
「はい」
消えた棒の先を見て、黙ってしまった。
さすがに手がなくなるという言葉に、事態の重さが分かったようだ。
「どう思う?」
「いままで触れているものは安全、ということですよね」
「ああ。地面と、森の木、それから古墳か」
「危険だと分かっているのは、水」
水の中のダンジョンだから、水が何か特別なのかもしれない。
「植物が安全か確かめる、他のところの水が危険か確かめる、それ以外のものには触れない。その方針で行こう」
「はい」
「白石、絶対触るな。いいな?」
「もちろんです……」
ここにきて、ダンジョンというものの危険性に気づいたのだろう。
田嶋にしっかり見張らせるしかない。
「三浦、ありがとう」
「え?」
「気づかずに浅瀬を渡ろうとしていたら、どうなっていたか」
「……消えたところはどこに行ったのでしょうか?」
「さあな」
ダンジョンの不可思議な現象など、考えたってどうにもならない。
「切り取られた? 酸で溶けた?」とブツブツ言っているが、三浦なら変なことはしないだろう。
「これで行動範囲が限られるな」
「南側の海には近づけない。川は渡れない」
「そうなると、川を渡る手段がなければ、江戸以降は龍ノ口山に行けません」
「百間川か……」
「その前も、湿地を越えられるのか」
まためんどくさい条件が出てきた。
湿地は行けるのか、行けないのか。水を含んだ土は、どこまでなら平気なのか。
「よし、今日のお前らの調査はここまでだ。ここから先は、俺たちで安全を確認してからだ」
「まだ見たいです! 見るだけ!」
「白石さん、今日は帰りましょう。調査の邪魔になります」
「でも……」
さすが安全管理が徹底している。
三浦と田嶋に連れられて、白石は引き上げていった。思ったほどごねなかったのは、水に触れると消えるという異常事態に直面したからだろう。
「最初に調査すべきことは、なんだ?」
「まずは食事でしょう。少し早いですが」
「確かにな」
笑いがこみあげる。
ダンジョンにいる間は、食事をとらないことも多い。のんびり食事休憩のできる場所があるところばかりではない。
だがこのダンジョンでは、スケジュールに必ず食事が組み込まれる。三浦がそろそろ食事休憩にしましょう、と言うからだ。
相良も自分も、だいぶ三浦に毒されているようだ。
「6時間連続したら、30分の休憩だったか?」
「45分だったような……」
「あははっ」
こらえきれなくて、笑ってしまった。
タイムカードを持ち込んだほうがいいかもしれない。




