2-13 リセット時刻
懇親会翌日は、夜からダンジョンに入り、地形がリセットされる時間を特定する。
夜10時ごろにプレハブ小屋に行くと、机の上に資料が置いてあった。
「年表にまとめました、か」
「美咲ちゃんはこういうののほうが合っとる」
「高原も三浦も、本来は探索者じゃないからな」
まったく、異常空間対策庁も、無理を押し付けたものだ。
「遅くなりました」
「夜に悪いな」
週休二日で、休みをずらして二人体制で回していきたいが、何が起きるか分からない徹夜は、さすがに三人ほしい。
「いま分かっていることは、0時にはリセットされないってことと、7時にはリセットされていることだけだ。相良の日の出説が有力か?」
「日の出の時刻は、リアルの時間でしょうか?」
「今日は何時だ?」
タブレットで調べる。5:27。
「明日の7時まで、毎正時に観測しよう」
「はい」
暗闇の中、ダンジョンへと侵入する。見ている人がいれば、かなりの不審者だろうな。
中は薄暗い。
いつものように観測ポイントに陣取り、ただ時間を待つ。
時間になったらドローンを飛ばして、森の周りを一周させて、記録する。
0時を過ぎてからは、何も変わらない。
「どこも変化がありませんね」
「固定されているのか?」
海岸線までは、バッテリーが持たないので飛ばせないが、途中から見る限り、何も変わっていない。
手元の高原の資料をぱらぱらとめくる。
「あの橋ができたのは、1983年だ」
「まだ生まれていません」
「相良、お前ケンカ売ってんのか?」
「自分も生まれていません」
田嶋まで。こっちだって生まれてないぞ。
こういう夜通しの作業のときは、眠くならないように、適度に緊張感を保つために、話すのも大切だ。
その一環だと思うことにしよう。
それから、5時の観測まで、地形の変化はなかった。
「そろそろ日の出なので、ドローン上げます」
「頼む」
日の出に備え、観測地点上空から干拓地を広く映す。もし日の出でリセットされるなら、この田んぼは海に戻るはずだ。
「始まったぞ」
東から差し込む朝日の光に溶けるように、橋と陸と川が消えた。背後を振り返ると、古墳も消えている。
岡山城が現れたときのような揺らぎはなかった。
ただすべてが、ふわっと霧散した。
海だけが、突然の変化に戸惑うように渦巻いている。
その変化の余韻に、海を見たまま、誰もしゃべらなかった。
「現実の日の出時刻ですね」
「ってことは、季節でリセット時間が変わるのか? どんだけめんどくさいんだ、このダンジョン」
現実と歴史が複雑に入り組んでいる。
「謎解きダンジョンですね」
「新しいカテゴリーができたな」
そんなダンジョンは他に見つかっていない。今後も現れるか分からないが、明らかに他のダンジョンとは一線を画す。
その後、6時と7時の観測では、日の出から変わっているところはなかった。
「明日も、同じ時間に調査したい。それで、リセットが日の出時間だと確定させる」
「はい」
「そのあとは、午前中は陸側の調査、午後は海側の調査にしよう。現代層の夜の調査は、三人そろうときにする」
ダンジョンに入るには必ず二人組で安全を確保する。休みを順番にとると、三人がそろうのは一日のみ。
三浦と白石が入る日は、変則的に全員参加だ。
「田嶋は休みはいつが希望だ?」
「可能なら、土日で」
「了解。しっかり子どもと遊べ」
休みのやりくりが地味に面倒だが、安全に配慮して休まないとな。




