2-12 カキオコパーティー
屋上の交流スペースでは、すでに鉄板の準備がされていた。役所の人間が来て、さらに懇親会を提案することなどないので、社員が面白半分で準備を手伝ってくれたのだ。
「うわあ、すごいですね」
「打ち上げに使えるように、福利厚生だ」
「ここ、花火大会が見えるんじゃないですか?」
「今年は、声かける」
「やったー!」
少し遠くに旭川が見える。そこから打ち上げられる花火を見るには最適な場所だ。
白石が喜んでいる。ダンジョンは機密情報が多いので、基本的には関係者以外は入れないが、このメンバーなら問題ない。
「探索会社ってすごいですねえ」
「命を懸けるので、こういう息抜きも必要なんだ」
三浦がこちらを見てから、ふっと視線をそらして旭川を見た。
あのダンジョンではいまのところ危険を感じないが、それでもダンジョンに入るのは命懸けだ。
そう思うと、そんな現場に否応なく放り込まれた三浦と高原は、災難だな。
「探索者って、稼げますか? 私なれますか?」
「白石さん、郷土史はいいんですか?」
「古文書とか高いんですよ。研究にはお金がかかるんです!」
研究費稼ぎにダンジョンか。だが今回のような推理ダンジョンが他にもあるなら、白石は活躍できるだろうな。
「あ、始める前に、アレルギーある人はいますか?」
三浦がいつもの調子で言った。どこまでも安全第一だな。
「お好み焼きですが、日生のカキオコにしようと思ってます。カキ苦手な人いますか?」
「ダンジョンで海見たら、食べたくなっちゃったんです」
高原が粉の袋を開けながら言った。その気持ちは分かる。
「キャベツ、タネに混ぜる派と乗せる派ありますよね。どっちですか?」
「うちは混ぜる派じゃな」
「じゃあ混ぜましょう」
「三浦ちゃんちは?」
「混ぜます。仲間ですね」
そう言いながら、ボウルに材料を入れて手早く生地を作った。
「おばあちゃんが作ってくれたお寿司もってきたけえ、食べて」
「わあ、きれいですね」
「忙しそうじゃから、身体壊さんようにな。みなさんによろしゅうなあって」
「お祝いの日みたいです」
相良が持ってきたばら寿司は、卵とエンドウが散らされていて、華やかだ。
「相良さんち、何入ってます? 家によって違うって、大学の研究室で話題になったんですよ」
「サワラとモガイとエビじゃな」
「うちはサワラとアナゴです。三浦さんは?」
「なんだろう。気にしたことがなかったので。でも魚と貝は入ってましたね」
それぞれの家の料理話で盛り上がっている間に、田嶋がお好み焼きを焼いている。手際が妙に慣れている。お前、実は鉄板奉行だったのか。
カキに火が通り、磯の香りが広がる。
「うわあ、いい匂い」
「田嶋さん、すみません」
「もうすぐできます」
焼き上がったお好み焼きを六等分して、それぞれの皿に取り分けた。
各自飲み物を持って、準備は整った。
「では、開始のあいさつは、現場リーダーの黒瀬さんからもらいましょう」
「そこは責任者の三浦だろう」
「僕はさっき話しましたから」
「じゃあ、後方支援の高原で」
「え、私ですか? じゃあ、みなさん、今日は食べましょう! カンパーイ!」
それはただの宣言だろう。本当にこの公務員コンビ、それぞれ違う方向におもしろい。
締まらないまま、パーティーが始まった。まあそのほうが、このメンバーに合っている気もする。
お好み焼きを口に入れると、カキのうま味が鼻に抜けていく。高原、いい選択をしてくれたよ。
「ダンジョンって、レアメタルが取れるんですよね?」
「ああ。モンスターを倒すとドロップする」
「レアメタルだけなんですか?」
「異対が隠してなければな」
三浦が、ああって顔をした。あの組織、いまいち信じられないのだ。国に不都合なことは隠していてもおかしくない。
「だから、ダンジョン内でこういうパーティーは無理だ」
「いや、さすがにダンジョン内では……。ってあそこのダンジョンは、持ち込めばできそうですね」
「できるだろうな。せっかくなら、児島湾で釣りでもしてみたい」
「黒瀬さん、釣りするんですか?」
「しない。でも毎日見てると、してみたくなるんだよ」
だがあのダンジョン、魚はいないだろう。生きものがいる気配がしない。
二枚目のお好み焼きと相良の寿司も食べ、お腹も多少膨れたところで、冷蔵庫からとっておきのものを出す。
「田嶋、次はこれを焼こう」
「千屋牛……」
「どうせなら、旨いものが食べたいだろう?」
鉄板をきれいにしてから、肉を載せると、じゅわっという音とともに、脂の溶けた香りが広がる。
それに、夜景を見ながら話していた女性陣が食いついて寄ってきた。
「わあ、お肉だ!」
「院生、しっかり食っとけ」
「もしかして、高級なお肉ですか?」
「千屋牛だ」
「やったーーーーっ!」
まあまあ高級くらいだが、院生では手が出ないだろう。
白石が、焼けた肉に飛びついている。
「高原さん、どう思いますか? これって、利益供与に当たりますかね……?」
「どう見ても、お好み焼きの材料費より高いですよね……」
「取引先にもらったんだ」
「絶対うそですよね」
この期に及んで倫理規定を気にするとは、律儀なことだ。
「でも、ほら、お肉が余ったら捨てなきゃいけないから、そんなに価値はないってことで、行ける気がします!」
「いやいや、美咲ちゃん、それはちょっと厳しいで」
全員が同じ顔をしている。
それでも、一切れとってほお張った高原は、とても幸せそうだ。
その様子を見て、三浦も口に運んだ。目を閉じて、味わっている。
この公務員コンビ、本当に面白い。
だが、高原はともかく、三浦はそれなりの給料をもらっているはずなのにな。
〆は、田嶋の買ってきたイチゴだ。
「近所の農園のイチゴです」
箱をそっと置いた。
「わあ、美味しそう」
「娘が好きで」
それだけ言って、田嶋は黙った。
子煩悩なパパが、なんでダンジョンの探索者なんて危険な仕事をしているんだか。
「田嶋、余った肉は持って帰って、娘に食べさせてやれ」
「ありがとうございます」
田嶋は、仕事中には滅多に見せない、柔らかい顔で笑った。




