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旭川ダンジョン対策班、出動! ――水が消える川と時代変化ダンジョンを攻略せよ  作者: 戌葉
第2章 異常空間内部調査結果 ―探索者・黒瀬
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2-11 いまさらキックオフ

 0時過ぎまでダンジョンで観測した翌日。

 休暇にすることを連絡し、ゆっくりと過ごした夕方、三浦から着信があった。


『つかぬことをうかがいますが、明日の夕方、フロニクス社で会議ってできますか?』

「会議室が空いていたら。ちょっと待て、確認する」

『あと、そこで飲食ってできますか? 具体的には、ホットプレート使えますか?』

「はあ?」

『キックオフしてなかったなーと思いまして』


 キックオフ。なんだそのプロジェクト開始しましたって感じは。ダンジョン調査は、プロジェクトなのか?


「ホットプレートで何やる気だ」

『お好み焼きパーティーです』

「……」


 唐突過ぎて反応できなかった。

 オンラインで調べると、会議室は空いていたので、予約した。

 お好み焼きなら、屋上の交流スペースでできるだろう。こちらも空いていたので、予約した。


「会議室は17時から押さえた。交流スペースにバーベキューコーナーがあるから、鉄板も使える」

『ありがとうございます』

「材料も用意しておく」

『いえ、民間の方からごちそうしてもらうのは、倫理規定で禁止されていますので、材料と自分の飲み物は持っていきます』


 そうだよな。そういうの、きっちり守るやつだよな。


「つまみを用意しておく」

『ありがとうございます』


 まったく、三浦は気を使いすぎだ。

 仕事に対して誠実なのは認めるが、もうちょっと適当でいいのに。



 翌日は、午前中のみの調査と決めて、朝の7時からダンジョンに入ることにした。

 田嶋は子どもを幼稚園に連れていってから合流する。


「急で悪いな」

「三浦ちゃん、面白いこと考えたなぁ」

「真面目なのに、明後日のほうに飛んでいくのは、白石と似た者同士かもな」


 白石のように騒がしくはないが、三浦もたいがい変わっていると思う。

 そんな会話をしてから、ダンジョンに入った。


「黒瀬さん、後ろ」

「ん?」


 先に入った相良がこちらを振り返り、驚いた顔をしている。こちらというより、俺の後ろか。

 釣られて振り返って、驚いた。


「古墳が……」

「できるところか」


 ちょうど、入り口になっている古墳が、作られている時代のようで、現れたり消えたりと揺らいでいる。

 この状態でくぐっても、出入りに影響はないのか。


「相良、近くの古墳も見てきてくれ」

「了解」


 しばらく見ていると、揺らぎが落ち着いて固定された。


「東は、古墳がありませんでした」

「まさか、古墳よりも前から始まっているのか」

「始まりの時代はいつなのでしょうか」


 これは、白石の貝塚説が正しいのかもしれない。たしか貝塚は、縄文か弥生だった気がする。歴史の授業などもう忘れてしまったが。


「今日は、古墳が現れたら終わりにしよう」

「そうですね」


 ちょっと衝撃が強すぎた。


 古墳が現れるのを確認してダンジョンを出ると、ちょうど入ろうとする田嶋とかち合わせた。


「悪い。今日は終わりにした」

「何かありましたか?」

「朝早くは、古墳がない」

「……え?」


 無口な田嶋にしては珍しく、驚きを口にした。やはりそうなるよな。


「でぇれぇおどろいた」

「ということで、今日は終わりだ。来てもらったのにすまん」

「いえ」

「夕方会社集合で、それまでは各自好きにしてくれ」


 二日連続休みのようなものだが、八連勤だったのだから、いいだろう。



 夕方、公務員コンビと白石は、買い物袋を抱えて現れた。


「すごい荷物だな」

「買いすぎちゃいました」


 粉もん祭り開催か。何事にも全力投球だ。生ものだけは預かって冷蔵庫に入れた。


「まずは、キックオフか。ダンジョンでキックオフってやったことがないがな」

「そうなんですか?」

「国からの案件なんて、基本的に緊急事態だろう」


 それに異常空間対策庁は、ダンジョンで稼がせてやっている、という雰囲気があるから、こんな和気あいあいにはならない。


「まず最初に、旭川ダンジョンの調査にご協力いただきまして、ありがとうございます。調査完了まで、先が長そうなので、ちゃんとルールを決めようと思って、今日はお集まりいただきました」

「三浦、堅苦しい。普通でいい」

「じゃあ遠慮なく。週休二日制にしましょう」

「はい?」

「安全のためにも、ちゃんと休まないといけないって気づきました。だから、土日は休みましょう」


 そうきたか。三浦らしいとは思うが、ちょっと待て。


「異対との契約は、早急に調査を終わらせろ、となってる」

「あちらにも確認しましたが、休んで問題ないそうです。というより、こちらが安全配慮義務違反になるので、休んでください」


 安全配慮義務違反。ダンジョンとこれだけ似合わない法律違反もないぞ。安全に配慮なんかしてたら、ダンジョンに入ること自体がアウトだ。

 異常空間対策庁は河川安全事務所に丸投げしているから、正論でこられて返す言葉に詰まったに違いない。


「具体的には?」

「土日は休みましょう」

「調査が進まない。週休二日の交代制でいきたい」

「分かりました。それでいきましょう」

「お前らは、土日休め。こっちもそのつもりでスケジュールを立てる」


 調子が狂う。

 相良も田嶋も苦笑しているし、キックオフということで顔を出している支社長があぜんとしている。まあそうなるよな。

 だが、あのダンジョン相手だと、それくらいしっかり計画して調査したほうがいいだろう。おそらく、非常事態のテンションで乗り切れる期間のうちに、調査は終わらない。


「こちらからも報告がある」

「どうぞ」

「今朝7時にダンジョンに入った。その際、古墳がなかった」

「ええーっ? じゃあ、7時が古墳時代初期ってことですか!?」


 白石、気持ちは分かるが、叫ぶな。

 一方三浦は少し驚いた表情のまま固まっている。


「時代の始まりって、いつなんでしょうか? さすがに、日本列島ができるところからは始まりませんよね?」

「分からん。あのダンジョンは本当に分からん」

「調査、まだまだかかりそうですね……」


 会議室に沈黙が落ちる。


「あの入り口が古墳に設定されているのではなく、たまたま古墳と重なっただけだとしたら、コアも遺跡とは無関係かもしれません」

「あり得るな。近いうち、夜通しで調査をする。リセットされる瞬間が見られるだろう」

「私も行きたいです!」


 連れて行けない。安全かどうかも分からないんだ。

 そう口にするより前に、三浦が諭すように話しかけた。


「ダメです。許可できません。最初は、フロニクスさんにお任せしましょう」

「でも私ならいつの時代って他の人よりも分かるはずです!」

「それよりも、安全が優先です。時代のリセットが、いつ、どのように行われるか、分かっていないのですから」

「……はい」


 安全第一が徹底している。おかげでこちらもやりやすい。


「私からも一ついいですか?」

「どうした、田嶋」

「高原さんと白石さん、二人は守れない」

「あー、そうだな」


 森を出たら、白石が動き回るだろう。そうなれば、田嶋は白石専属にしたほうがいい。

 コア調査のために、白石の知識はどうしても必要になる。


「でしたら、私お留守番しますね」

「……そうですね。高原さんには後方支援をお願いしましょう」

「歴史の資料、まとめておきますね」


 高原がうれしそうだ。最初から行きたくなさそうだったからな。

 だがそちらのほうが能力を発揮できそうだ。


「では、方針も決まったところで、懇親会にしましょうか」


 三浦がにこにこ笑いながら、パーティーの開始を宣言した。


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