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旭川ダンジョン対策班、出動! ――水が消える川と時代変化ダンジョンを攻略せよ  作者: 戌葉
第2章 異常空間内部調査結果 ―探索者・黒瀬
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2-7 コアの場所の推理

 プレハブ小屋に戻ると、相良がお腹を抱えて笑いだした。仕事モードでなくなって、抑えきれなくなったようだ。


「ミッチー、笑わせんで。仕事にならんが」

「え? 相良さん?」

「白石さんもやっぱり驚きますよね。相良さんの、お仕事モードと普段モード、ギャップがありすぎて」


 女性三人でわいわいしている。今回の案件、探索者の現場では珍しいことばかりだ。

 今日の成果をまとめるために話を聞こうと思ったが、パイプ椅子に座って、落ち着くのを待とう。


 そう思っていたが、先に三浦がしゃべりだした。


「白石さん、ダンジョンに入ったところの遺跡は、操山古墳群、で合ってますか?」

「はい、あそこは」

「古墳群の中の、どの古墳でしょう?」

「沢田裏山古墳です。眺望が開けていたのが旗振台古墳です。操山古墳群は――」


 古墳の説明を始めた白石を放置して、三浦はタブレットを操作している。高原だけが、白石の説明を聞いている。


「白石さん、ここであっていますか?」


 地図アプリで現在の古墳の場所を示して、白石に確認している。


「そうです、ここです!」

「相良さん、ドローンの映像などと合わせて、妥当だと思われますか?」

「ここじゃろ」


 相良は迷いなく断定した。

 三浦は、しばらく地図を眺めてから、顔を上げた。


「黒瀬さん、こういう現実の地形がそのまま再現されているダンジョンはありますか?」

「珍しいが、ないわけじゃない」

「児島と龍ノ口山との距離から考えても、このダンジョンは岡山の地形のようですね」


 相良の書いた地図と、ほぼ同じ縮尺にしたタブレットの地図を並べると、三つの山の位置が重なっている。

 古墳、山の形、三つの山の距離、全部一致している。

 このダンジョンは、岡山の地形再現で、確定だ。


 一つ謎が解けた。これは、かなりの前進だ。 


「ほんとにぴったりですねえ。相良さん、こんなに正確に把握できるの、すごいです」

「すげぇのはドローンじゃから」


 高原のずれた指摘に、相良が苦笑している。


「となると、この次は、コアの探索ですか?」

「まず、俺たちだけで森から出て安全を確かめる。そのあと、コア探索だ」

「私も行きたいです!」

「ダメです。初めての場所に入る黒瀬さんたちの負担を増やさないように、私たちはこちらでできることをしましょう」

「……はい」


 口を出す前に、三浦が白石を黙らせた。白石のお守は、三浦と田嶋パパに任せておけば問題ないだろう。


 さて、コアはどこにあるのか。それが初期調査で地図を作る一番の理由だ。


「三浦、お前、コアはどこにあると思う? 正解じゃなくていい。こういうときは、とんでもない意見が当たってたりするんだ」

「……児島湾でしょうか。このダンジョンができた場所は、旭川と百間川の分流点。となるとその二つの川が合流する児島湾かな、と思いました」


 タブレットで位置を示しながら、するすると答えた。さすが河川の専門家だ。川を起点に考えるのか。


「高原は?」

「え? 私ですか? 私は……金甲山かなって」


 金甲山は児島半島の中で一番高い山だ。だが、とくに特徴はないはずだ。


「なぜ?」

「……瀬戸内海の島が見えて、景色がいいので。コアって動かないんですよね? だったらそういうところがいいんじゃないかなって」

「ロマンがあってええなぁ」


 うつむいた高原の耳が少し赤くなっている。だが、かなり面白い考えだ。探索者では絶対に出てこない。


「俺の勘でも、児島半島、昔の児島だな」

「理由をうかがっても?」

「経験上、コアは攻略しにくいところにある。だったら、あいだに海から陸へ変わる地形をはさむ、児島の可能性が高い」

「なるほど。相良さんはどうですか?」

「黒瀬さんと同じ。田嶋もそうじゃろ。探索者なら、そう考える。じゃけぇ、あんたらの意見が聞きたいんじゃ」


 田嶋もうなずいた。探索者の常識で、そう判断してしまうのだ。


「ということで、白石。どこにあると思う?」


 大本命だ。とんでもない候補が出てくる気がする。全員が期待の目で見ている。


「出口が古墳だったことを考えると、古墳でしょうか? 児島の鷲羽山にも古墳群があります。古墳よりも古いとなれば、児島の貝殻山の貝塚、陸なら総合グラウンドの津島遺跡」

「総合グラウンドって、拡張工事できない原因が遺跡ってやつか」

「地中に弥生時代の遺跡が埋まってますからねえ」


 白石は空中を見ながら、落ち着いた口調で候補を並べた。


「ですが、私の一押しは、北の龍ノ口山の古墳ですね! なぜなら、ここは川の中のダンジョン。川と言えば、やっぱり龍でしょう」

「龍神伝説ですか?」

「龍ノ口山は、龍の住処だったとも言われてますから。水と龍神さまは切っても切れない関係ですよ」


 急にテンションが上がった。龍がお気に入りなのか。

 だが、言われてみれば、ただの空想と切り捨てられない考えだ。


「龍で、他にあるか? 児島のほうで」

「江戸時代の沖新田の干拓では、龍神の怒りを鎮めるために人柱がささげられたという伝承はありますが、江戸時代ですからねえ」

「それにまつわる遺跡はないのか?」

「そのお姫様を祀る神社はありますが、かつて一度移転していますし、違うんじゃないでしょうか」


 たしかに、途中から出現するスポットは、外していいかもしれない。


「あと、私も金甲山、推したいです」

「なんでだ?」

「古代の瀬戸内海、見てみたいじゃないですか!」


 ああ、うん。そういうやつだよな、お前は。

 理路整然と候補を上げていくので見直しかけた評価が、ガラガラと崩れていく。


「コアがあるのは、時代が変わっても変わらない陸、あるいは、海か」

「むしろ変わるところか。とある特定の条件じゃねえとアクセスできんってのがあっても、不思議じゃねえなあ」

「結局は、端から端まで探索する羽目になりそうだが、最初は海側から行くか」

「海だった場合、ダイバーにお願いする予算はもらえるでしょうか……」


 三浦、ここにきても気にするのは予算なのか……。

 日ごろから本当に予算がないんだな、というのが分かって、なんだか切なくなってしまった。

 古代の瀬戸内海の島々を見に行くのも、いいかもしれない。

 このダンジョンを押し付けられた者たちの特権だ。


 ちなみに、なぜ白石が大人しく三浦に従うのか不思議だったが、あとから高原が教えてくれた。

 三浦が大学に話を通して、授業に出なくても単位になるように交渉したらしい。それで、白石は三浦に頭が上がらない。

 ダンジョンに入るのを認めさせるなど、国の名前をちらつかせたんだろうな。


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