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エーテル・ガーズ ―ソラリス衛士隊戦記―  作者: 白黒鯛
第3独立遊撃部隊〈ヴィクトリア〉前日譚

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内緒の最強部隊

1:銀青の矜持

 ソラリスの中層、セクター30の商業区。人工太陽の光が広がる大通りを、第3部隊の四人は規則正しい足音を響かせながら哨戒していた。


 彼女たちが纏うのは、手入れされた銀青の衛士制服。胸元には紋章が輝き、腰にはそれぞれの得物が整然と収められている。

 数日前の休日、ジャンクフード店で「時代遅れの私服」を笑われ、ナンパを前に大パニックに陥っていた不器用な姿はそこにはない。彼女たちは今、都市の明日を背負う最強の戦士だった。


「……それにしても、あの店のポテト、美味しかったな」


 サラが長い黒髪をポニーテールに結び直し、小さく喉を鳴らした。


「サラ、哨戒中にジャンクフードの回想をしないの。でも、あの塩分は脳の疲労回復には論理的だったわね」


 リリスが眼鏡の位置を直し、冷静に言った。


「……私は、みんなが笑ってくれたのが一番美味しかった。またみんなで行きたい」


 短い金髪のルウが、巨大な盾の重みを感じさせない足取りで呟き、微笑んだ。

 リーダーのマヤは、二振りの直剣の柄にそっと手を添え、前方の路地を見据えた。


「そうね。プログラムの検証も終わったし、次の非番にはまた行きましょう。でも、その前に、この街の平和を脅かす不届き者を片付けるのが先よ。リリス、来るわよ」


 マヤの言葉と同時に空気が激しく澱み、空間がガラスのように引き裂かれた。


2:絶対の防陣

 空間の裂け目、すなわちアビス・ゲートの群生。

 そこから這い出してきたのは、結晶の腕を持つスカベンジャー級の群れとプレデター級だった。市民から悲鳴が沸き起こり、大通りはパニックに包まれる。


「アビス・ゲート発生! 市民の皆さんはシェルターへ!」


 濃紺のタクティカルギアを纏った都市保安隊(CSF)の隊員たちが即座に装甲車を並べて防衛線を築き、避難誘導を開始した。

 彼らは実弾兵器を構え、漏れ出そうとする怪物を火線で足止めする。その避難する濁流の中に、普通教育学校の制服を着て走る三人の少女たちの姿があった。


「嘘、なんでこんなところに化け物が……っ!」


「早く走って! 追いつかれる!」


 数日前のジャンクフード店でマヤたちの私服を笑っていた、少女たちだった。半泣きでもつれそうになる足で必死に走りながらも、背後からスカベンジャー級の鋭い爪が彼女たちの背中に迫り、窮地に陥ったその時。


「――そこまでよ、化け物ども」


 空間を切り裂くような鋭い声と共に、一筋の銀青の閃光が戦場の中央へと滑り込んだ。

 第3部隊の四人だ。彼女たちの着こなしには一切の乱れがなく、その立ち姿は神々しいまでの威圧感を放っていた。


「ルウ、正面固定!」


「……不動」


 ルウが巨大なタワーシールドを地面へと突き立てた。黄金色のエーテル防壁が展開され、少女たちを狙って跳躍していたスカベンジャー級の突撃を正面から完全に無効化した。


「そこを退きなさい!」


 ルウの盾の影から、長い黒髪をなびかせて飛び出したサラの長槍が,弾丸のような速度で怪物の核を完璧に撃ち抜いていく。


「光魔ドメイン、展開。敵の進路を収束させます」


 リリスの杖から無数の幾何学的な魔法陣が広がり,プレデター級の動きを完全に拘束した。


「終わりよ。勝利の陣形ヴィクトリア――殲滅を開始する!」


 マヤが二振りの直剣を抜き放ち、超高速の連撃へと移行した。彼女が振るう双剣は、残像を描きながら大気のエーテルを切り裂き、リリスが固定した怪物の核を一瞬にして細切れの結晶へと変えていった。

 圧倒的な、本物の強さ。わずか数十秒の間に、大通りを埋め尽くしていた絶望の軍勢は完全に駆逐されていった。


3:憧れの眼差し

 粉砕された怪物の結晶片が人工太陽の光を反射して、まるで星屑のように美しく大通りに降り注いでいた。

 避難の足を止め、立ち尽くしていた少女たちは、目の前で繰り広げられたあまりにも圧倒的な戦闘劇に、言葉を完全に失っていた。

 彼女たちの瞳に宿っていたのは、命を救ってくれた「最強の衛士」に対する、魂を揺さぶられるような深い憧れと驚愕だった。

 結晶の霧がゆっくりと晴れていくなか、四人の顔が露わになったとき、少女たちの脳裏に、数日前のあのジャンクフード店での記憶が鮮明にフラッシュバックした。口の周りにケチャップをつけてコーラを飲んでいた不器用な少女。油まみれのポテトを美味しそうに頬張っていた少女。少年のナンパを前にオロオロと大パニックに陥っていた、あのあか抜けない私服の四人。


「……あ、あの時の……!?」


 少女の一人が、驚きのあまり小さな声を上げた。

 マヤは二振りの直剣を流麗な動作で鞘へと収め、彼女たちの視線に気づくと、フッと不敵な笑みを浮かべ、人差し指を口元に当てて「内緒ね」とウィンクを送った。


「哨戒を再開するわよ、みんな」


 マヤの号令の瞬間、ルウが盾を静かに担ぎ直し、サラが不敵に長槍を回して背負い、リリスが完璧な歩法でマヤの隣へと並んだ。


 彼女たちの凛とした背中が遠ざかっていく。普通校の少女たちは、もう彼女たちの私服をダサいなどと笑うことは決してないだろう。彼女たちが知ったのは、仮面の裏側にある不器用なぬくもりと、戦場で見せる絶対的な強さのギャップ。それは、下層の若者たちの日常を瞬時に塗り替える、消えることのない強烈な憧れの残響だった。


「……かっこいい。私も適格者検査、受ければ良かったな……」


 一人の少女が、自分の胸を強く押さえながら呟いた。

 ソラリスに平和な日常が戻る。ただそれだけで、四人の心は満たされていた。終わらない明日に向かって、少女たちの鋼鉄の誓いは、この中層の空の下で、永遠に響き渡り続けるだろう。

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