6−9 False Positive
「今回の原因は、おそらくマウスやキーボードに溜まったゴミと電波干渉だ」
「ゴミ?」
「ああ、マウス、特にトラックボールマウスは、長年使っているとゴミがたまる。そのゴミがセンサーに触れて誤作動を起こすことはよくある。ただ動作に支障は出ないので、放置されやすいんだ」
(……そんな理由なの?)
「キーボードも隙間にゴミが入ると、チャタリングという現象を起こす。押してもいないのに、入力されたり、1回しか押していないのに、複数回押されたりとかだな」
「え? そんなことが原因なの?」
「明日、そのトラックボールマウスのボールを外してみるといい。結構ゴミが溜まっているはずだから」
「そんな単純なこと?」
「これはCSIRT対応の基本だ。人は思い込みで、PCで動きがおかしいと、ウイルス感染とかサイバー攻撃と思い込んでしまう。世の中のニュースでもシステムが停止すると「サイバー攻撃か!?」て見出しが踊るだろう?あれこそ顕著な例だな」
(……シーサー?)
私の頭の中に沖縄民謡が流れてきた。
「Cyber Security Incident Response Teamの頭文字を取ってCSIRTだ。サイバーインシデントが発生した時に対応にあたる専門チームとその段階を定義したものだ。初期段階で検知、トリアージ、証拠保全などがあるな」
(……あ、なんか聞いたことがある)
「トリアージって、救急外来のドラマで聞いたことがあるよ!」
「そうだな。災害や救急の時に、使われる用語だな。今回はあまり関係がないが、サイバーインシデントの場合、同時多発的に発生することが多い。そのためにトリアージが重要になってくる。なにを優先させるかの事前準備もな」
トリアージって、確かけが人の手首とかに付ける色だよね。確か赤が緊急で、黒が手遅れとか……。
「だからこそ、初期段階において、報告に上がってきた事象が、本当にインシデントなのか、それとも別の原因なのかを確認しなければならない。報告者は焦ってることもあり確証バイアスの呪縛にとらわれているからね」
(……たしかに、自分の勘違いとかだったら恥ずかしいよね……)
「そのために悪魔の代弁者となる必要がある。客観的事実を集めて俯瞰的な判断が重要になってくる」
「悪魔の代弁者って?」
「悪魔の代弁者とは、議論の中で、あえて反対意見を言う役割をすることだ。それによって、主張の正当性を確認したり、逆に穴を見つけたりする議論方法だな」
私はホームルームでやった文化祭の出し物決めの時とかを思い出していた。あの時も意見がまとまらず大変だったね……。
「人間誰でも自分の意見を肯定して欲しいし、反対意見を言われたら嫌な気分になる。そうやってイエスマンばかりを自分の周りに集めた結果、失敗する経営の例はよく聞くだろう? だからこそ、反対意見を言う人は貴重だ」
(……たしかに、文化祭のときに皆と違う意見を出した人がいた時は、ちょっと変な空気になっていたな……)
「ただ、反対意見を言うのは嫌われるから、進んでなる人は少ない。だからこそ自分の中に悪魔の代弁者を作るんだ。自分の思い込みに対する反論を自分で考える」
<つづく>




