5−5 頼りになる人と、厄介な人と
教室のチャイムが鳴り、担任ではなく、学年主任が厳しい顔で入ってきた。
「えー、1限目の現代文だが、急遽自習とする。各自、静かに課題を進めるように」
教室がどよめいた。
「マジ?」
「呼び出し食らったんじゃね?」
「緊急職員会議!?」
「やっぱりガチだったんだ」
生徒たちが顔を見合わせ、ニヤニヤしながらスマホを操作し始める。
みんなのスマホが、さらに情報を拡散させていくのが目に見えるようだった。
「……聞いた話だと」
前の席の女子生徒が、後ろを向いて小声で話しかけてきた。
「先生、たまたまカフェで会った保護者の人と、進路のことで相談を受けてただけらしいよ。それもほんの数分だって」
それが本当だったとしても、スキャンダラスなデマの方が、SNSでは遥かに広まるのは早い。
「そんな……」
切り取られた「現実」は、当事者の意思と関係なく、盛られていく。
「ただの進路相談が、不倫だなんて……。紬、どうしよう。こんな大事になるなんて思ってなかった」
「自業自得」と心の一部が冷たく囁いた。
七香が騒ぎを大きくしたのだし、私まで泥舟に乗る必要はない。
でも、七香が泣きそうな顔で私にすがってくる。七香のうるうるした目に、思わず吹き出しそうになった。
私はわざと大きめのため息をついて、彼女の肩をポンと叩いた。
「……わかったよ。今夜連絡するから待ってて。パパと話してみるから」
<つづく>




