4−13 私の王国
数日後の昼休み。
「じゃーん! 見て見て紬! 私の城!」
七香が、私の目の前にスマホを突き出してきた。
画面には、まだ何の中身もない、真っ白な「工事中」のウェブサイトが表示されている。
「今度は何?」
「私のドメイン取っちゃった! hxxps://www.lovelovenanaka.org!」
「……らぶらぶななかどっとおーぐ?」
私は思わず復唱してしまった。
「.org」って、非営利団体とかが使うドメインじゃなかったっけ?
七香はいつから慈善団体になったの?
「何に使うの、それ」
「え? 特に決めてないけど。なんかカッコよくない? 私だけのネットの土地!ワールドワイド・ブランド! 私の王国!」
七香は鼻高々だ。その目は、自分の王国を築いた女王様のように輝いている。
「ふーん。で、そのドメイン、誰が管理するの?」
「え?」
「毎年更新料かかるし、更新忘れたら、また小島くんみたいに誰かに取られちゃうよ?そしたら七香の『オフィシャル』じゃなくなっちゃうね」
私の言葉に、七香の動きがピタリと止まった。
「えっ……毎年お金かかるの!?」
「当たり前でしょ。ネットの住所を借りてるんだから、家賃みたいな維持費がかかるの」
「うそー! 一回買えば一生モノじゃないのー!?」
七香が頭を抱えて机に突っ伏した。
「それに、アンタ、登録のときにちゃんと代理公開にしてる?じゃないと個人情報が全世界に公開されちゃうよ」
女王様、王国の維持にはお金とリスクがかかるのでございますよ。
嘆く七香の背中を見ながら、私はふと、パパの言葉を思い出した。
ー看板を掲げるのは簡単だが、それを磨き続ける努力を忘れてはいけないー
ネット上の名前を守るのも、リアルと同じ。友情も、信頼も、そしてセキュリティも。「手に入れたら終わり」じゃない。毎日気にかけ、手入れをして、更新し続ける努力が必要なのだ。
「ま、頑張んなさいよ、女王様」
私は七香の背中をポンと叩いた。
彼女の「ラブ・ラブ・ナナカ」が、いつか更新切れ(ドロップ)にならないように、私がしっかり見張っていてあげるしかないみたいだ。
<ドロップ・キャッチ 完>




