4−12 新しい名前
横から覗き込んだ七香が呆れたように呟く。
あんなに「泥棒」だの「法的措置」だの騒いでいたのが、ドメインが戻るとわかった途端、この低姿勢。
これが大人の世界なのか、それとも単に彼らが必死すぎたのか。
相手からのメールには、取得費用に加えて、迷惑料代わりの「お菓子代」として一万円を支払うと書かれていた。まさにパパの言った通りの、スマートな「手打ち」の成立だ。
「えっ……ドメイン代の他に、一万円も振り込まれるんですか!?」
「やったじゃん小島くん!お菓子代ゲット!これで私たちにジュース奢ってよ!」
「よかったぁ……。もう泥棒扱いされて震えなくて済むんですね……」
小島くんは、重い呪いが解けたように、椅子の上でぐったりと脱力していた。その顔には、ようやく本来の彼らしい穏やかさが戻っていた。
「で、新しいドメインはどうするの? サイト、作り直すんでしょ?」
私が尋ねると、彼は眼鏡をクイッと押し上げ、急にキリッとした顔になった。
「はい! 今度は、もっと独自性のある、誰とも被らない名前にしました! 今回助けてくれたお二人に敬意を表して……」
彼はキーボードを軽快に叩き、新しいドメイン案を画面に打ち出した。
tsumugi-nanaka-pc-fes[.]jp
「……却下」「却下!」
私と七香の声が被った。
「えっ!?」
「長い……そもそも勝手に名前使わないでよ!恥ずかしい」
「ええーっ! カッコいいと思ったのに!」
がっくりと肩を落とす小島くんを見て、私と七香は顔を見合わせて笑った。
まあ、変な方向に暴走する元気が戻ったなら、一件落着だ。
<つづく>




