4−8 ブランドイメージ
「だが、企業としての『ブランド』や『メールアドレス』としての価値は、まだ消えていないんだよ」
パパの声のトーンが、少しだけ真面目なものに変わる。
「特にビジネスの世界では、取引先との連絡に使うメールアドレスが変わるというのは、信用問題に関わる。『住所不定』の相手と取引したがる企業はいないからね」
「あ……そっか。メールアドレスって、ドメインがそのまま使われてるもんね」
「e-sports-festival.jpみたいなアドレスが、突然使えなくなったら困るだろうな。取引先からの重要なメールが届かなくなったり、怪しいフリーメールから連絡が来るようになったりする。それは確かに、企業としては信用問題になってしまうだろうな」
「そっか。だから、必死なんだね」
「そう。彼らは今、老舗の看板を、うっかり廃品回収に出してしまった状態だ」
パパは、テーブルの上の角砂糖をつまみ上げて、私の目の前にかざした。
「その捨てられている看板を、通りがかりの小島くんが『お、綺麗な看板じゃん』って拾って、自分の家の表札にしちゃった」
私は、パパの手から角砂糖を受け取った。
「……で、元の持ち主が『それ俺の看板! 返せ泥棒!』って、小島くんの家の前で地団駄踏んでるわけ?」
「そういうこと」
想像すると、その光景はあまりにも滑稽で、そして少しだけ哀れだった。
小島くんは、知らず知らずのうちに、企業の命綱とも言える看板を背負わされてしまっていたのだ。
<つづく>




