4−5 早い者勝ち
夕食後、パパは愛用のマグカップを片手に、私の話にじっと耳を傾けていた。
パパはセキュリティの仕事をしている専門家だ。今まで数々の謎をセキュリティの知識で解決してきた、頼りになるけど、セキュリティの話題になると暴走する厄介な人でもある。
一通り事情を話し終えると、パパは短く息を吐き、静かに言った。
「なるほど。『ドロップ・キャッチ』だな」
その声は、深刻というよりは、どこか楽しんでいるような響きだった。
「ドロップ・キャッチ?」
聞き慣れない単語に、私は首を傾げる。
「ドメインというのは、インターネット上の『住所』、これはIPアドレスなんだが、それを分かりやすい名前にしたものだ。これは『早い者勝ち』が原則だ。ただ、これには有効期限がある。ただじゃないからね。更新を忘れると誰でも取得できる『空き地』になるんだ」
パパはテーブルの上に、角砂糖を一つ置いた。
「この角砂糖がドメインだとして、持ち主が手を離して地面に落ちた(ドロップ)。それをすかさず小島くんが拾った(キャッチ)。ただそれだけのことさ」
「じゃあ、小島くんは悪くないの?」
「ルール上はね」
パパはコーヒーを一口飲んで言った。
「むしろ、その会社が更新手続きを忘れてた落ち度がある。ドメインは更新期限が切れると、一定期間の猶予を経て、誰の物でもない状態で市場に解放される」
<つづく>




